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安倍長期政権の本質はお金じゃぶじゃぶと「桜」

プレジデントオンライン / 2019年12月12日 17時15分

安倍首相主催の「桜を見る会」=2019年4月13日、東京・新宿御苑 - 写真=EPA/時事通信フォト

2019年11月20日、安倍晋三氏は憲政史上最長在任の首相となった。3000日近く政権のトップに立っていた安倍首相は、結局なにを成し遂げたのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「2013年4月から始めた『異次元緩和』などでは一定の効果を出しましたが、目先のことばかりに懸命で、高齢化・人口減少社会に対する根本的な対策は何も打ち出せなかった」という――。

■最長の安倍政権の経済政策を検証する

2020年の日本経済は、はたしてどうなるのでしょうか。

日本経済に大きな影響を及ぼす米中摩擦が2020年の最大の懸念材料となりそうですが、近頃、米国の金利低下により住宅価格が上昇しはじめたのは好材料です。

2019年11月20日、安倍晋三氏は憲政史上最長在任の首相となりました、今回は、その期間の経済政策を振り返ることで、日本経済の今と未来を探りたいと思います。

■最初は効果のあった「アベノミクス」

第二次安倍内閣が発足したのは、2012年12月のことでした。2008年のリーマンショックやそれに続く世界同時不況、2011年の東日本大震災を経験し、日本経済は歴史的にもかなりしんどい時期でした。2007年に530兆円を超えていた名目国内総生産(実額の国内総生産)も500兆円程度に落ち込んでいました。

安倍首相の経済政策の特徴の第一は、なんといっても「アベノミクス」です。最初は関西あたりでは「阿倍野のミックスジュース」などと揶揄されたことはありましたが、疲弊した日本経済の立て直しに一定の効果を示しました。

表でも分かるように、名目国内総生産は徐々に回復し、インフレやデフレを調整した後の実質の国内総生産も、一時期を除きおおむね成長しています。現在は戦後最長の経済成長を記録しています。ただし、副作用も大きいのですがこれは後述します。

■お金をじゃぶじゃぶに市中につける

アベノミクスは当初、①大規模な金融緩和、②機動的な財政支出、③成長戦略を「三本の矢」としてスタートしました。

その中でも、2013年4月から始まった「異次元緩和」は、金融専門家をも含めて、予想を大きく超える内容でした。マネタリーベース(日銀券+日銀当座預金)の残高を2年で倍にするというものです。

つまりは、お金をじゃぶじゃぶに市中につけるというものです。それにより、民主党政権時代に70円台まで進んだ異常な円高が是正され、株価も上昇、企業業績、特にグローバル企業の業績が拡大するという効果がありました。また、デフレに苦しんでいた消費者物価も一時は1%近くまで上昇しました。

■異次元緩和も限界、銀行は青息吐息

アベノミクス、特に異次元緩和は景気の反転に貢献し、先ほども触れたように現状は戦後最長と言われる景気拡大を記録しています。しかし、弊害や問題点は小さくありません。

異次元緩和はいわゆる「カンフル剤」です。黒田東彦日銀総裁も、異次元緩和が機能していた当初2年間ほどは「早く成長戦略にバトンタッチしたい」という旨の発言をしていましたが、結局、本当にこの国に長期的成長をもたらす成長戦略はほとんどといっていいくらい何も出すことができませんでした。成長戦略には、規制緩和など、痛みを伴うものも少なくありませんが、先送りしたのです。

■勤勉にコツコツ貯めた人から金利を奪うという弊害

その間に、異次元緩和だけは進み、開始当初135兆円だったマネタリーベースは、2年後には当初目標の倍の270兆円となり、現状は500兆円を超えています。効果はほとんどなくなりました。

その効果が薄れるにつれ、量的緩和だけでは不十分となり、今では政策金利である「コールレート翌日物」だけでなく、長短金利ともにマイナスに沈んでいます。

銀行は貸出金利がどんどん低下する一方、預金金利はマイナスにはなっていませんから、体力を大きく落としました。そして、勤勉にコツコツ貯めた人から金利を奪う(金利を減らす)という弊害だけが続いています。

さらには「異次元」だけが残り、日銀は480兆円を超える国債を保有するとともに大量の株式も保有しています。万が一、大きな価格変動が起きたら、それは大変なことです。そうしたリスクを負っていることを政府はきちんとアナウンスしませんし、多くの国民もこの事実に気づいていません。誠に恐ろしいことです。

■国民はちっとも豊かになっていない

さらに問題なのは、「バラマキ」が続き、財政がどんどん肥大化・悪化していることです。例の「桜を見る会」の入場券のバラマキもひどいものですが、それよりもっとひどいです。

今年度予算は約102兆円、来年度予算は105兆円程度の予定ですが、そのうち税収で賄えているのはたった約60兆円にしか過ぎません。残りの多くは財政赤字です。その財政赤字の残高が名目GDPの200%を超える先進国は日本以外にない最悪の状況です。それらのツケは私たちの子供や孫に回されます。

■「現金給与総額」も「街角景気」もずっと低調

政府がいくら財政を拡大しても、国民の生活は豊かになっているとはいえません。図表3は、働く人一人当たりの給与を表す「現金給与総額」と、体感で景気を感じている人たち(タクシーの運転手、小売店の店頭に立っている人、ホテルのフロントマンなど)を対象にした「街角景気」の数字を表しています。

現金給与総額を見ると、確かに2013年までのマイナスからは脱していますが、その伸び率はわずかです。そして2019年に入ってからは前年比マイナスの月が多いのです。景気拡大が、働く人に恩恵を十分にはもたらしていないのです。

街角景気は、「50」が良いか悪いかの境目ですが、このところずっと50を切っており、経済の最前線で働く人たちの状況をつぶさに表しているといえるでしょう。

■3000日近くの政権期間でも長期的課題は山積のまま

日本の高齢化率は現状28%強ですが、今後まだまだ上昇します。高齢化社会の入り口にすぎないのです。そうした中で、出生率はあがらず、着実に人口は減少しています。今後、10年以上医療費などの社会保障費が急増することはこのままでは間違いありません。それを乗り切る方策を安倍政権は打ち出していません。

この流れが続くとどうなるか。

若年層や現役世代にこれまで以上の負担がのしかかることは明らかです。安倍首相は実に3000日近く政権のトップに立って日本のかじ取りをしてきました。それだけの年月あれば、わが国にやってくる危機を乗り切る長期戦略の策定ができたのではないかと思いますが、本当に残念です。

目先のことだけを考えていると、うまくいかなくなる。企業戦略もこれと同じです。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶)

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