面接官の「ボケ」に決して笑ってはいけないワケ
プレジデントオンライン / 2019年12月20日 11時15分
※本稿は、ロバート・フロマス、クリストファー・フロマス『アインシュタインズ・ボス』(TAC出版)の一部を再編集したものです。
■面接にやってきた6人の生化学者
天才の考え方を理解することが重要なのはなぜか。理由は天才を見極められるからだ。天才はめったにいないし、たいてい目立たない。あなたの組織にも、適切な刺激を与えれば超越的な知のレベルに達する天才候補がいるかもしれない。
隠れた天才を見つけたら、能力開発の研修を受けさせたり、新たな仕事を任せたりして刺激を与えてみよう。チームの生産性に計り知れないプラスになるはずだ。
面接で天才を、とくに若くてまだ実績の少ない人を見極めるのは難しい。だが、自分のチームを「よいチーム」から「すばらしいチーム」にしたければ、ぜひ取り組むべきだ。
ある日の午後、私は自分の研究チームのために6人の生化学者を面接した。求めていたのは、プロジェクトの問題解決のキープレイヤーとなれる人物、6人のうちで最も頭の切れる人物だ。
採用面接で最初にピンと来るのは、自分と似ている相手であることが多い。その日の候補者では、ジャックという男性がそうだった。
ジャックは、私が以前働いていたインディアナ大学の卒業生だった。彼の指導教授は私の知り合いで、ジャックは「だれよりも早くラボに来て、そり犬のように働く」とお墨つきをくれた。成績も申し分なかった。
■粘り強く統率力にも長けているジャック
ジャックは私と好みが似ていた。夜更けにジョギングするのが好きで、殺人もののミステリー小説を愛読し、大学フットボールのファンだった。娘がふたりいて、妻に小言を言われながらも甘やかしていた。よく笑い、とくに私のジョークによく反応した。問題を解決できるまで粘り強く取り組むタイプだった。困難にぶつかったら2倍努力し、けっしてあきらめなかった。
ジャックとうまくやっていけるのはわかっていた。彼の考え方は私にそっくりだったからだ――論理的で、経験に学び、それを新たな問題に応用する。天才はそんなふうに考えない。一緒に働く友人がほしいなら、ジャックこそ雇うべきだった。
どんなチームにも、ジャックのような人物は必要だ。ジャックは、だれもしたがらず感謝もされないこまごました仕事を一手に引き受け、チームの結束を保ってくれる。実際に10年もしたら、ジャックはすんなり私のあとを継いでチームを率いるだろう。
ジャックは私に似ていた。つまり彼は、ほぼまちがいなく「天才ではない」ということだ。
■一方で、つかみどころのないジル
もうひとりのジルという女性の候補者は、別の意味ですぐに私の心をつかんだ。ジルは私のジョークに反応しなかったのだ。ジョークを言っても、とまどったような顔でこちらをじっと見つめるだけ。私の笑い声は虚しく空に響いて消えた。
気を取り直そうと、私は面接のお決まりの質問を尋ねた。「これまでの人生で最も困難だったことはなんですか? それをどのように乗り越えましたか?」
その答えとして、ジルは三つの関連していない経験を挙げた。ほとんどが個人的な、トランクにノートパソコンを入れていた車を盗まれたといったことだ。大学も大学院も退屈で、あまり興味を持てないと話した。成績は中の上、奨学金がかろうじて打ち切りにならない程度だった。
それでも彼女を面接したのは、GRE[訳注:アメリカの大学院に入るための共通試験]の点数が満点に近かったのと、大学院の専攻が生化学なのに統計学の論文を発表していたからだ。ジルは研究活動で有名な大学ではなく、カトリック系の小さなカレッジに通っていた。
ユダヤ人のジルがそのカレッジを選んだのは、中世文学のプログラムが充実していたからだった。選択科目でその分野を勉強したかったらしい。ジルは哲学もバーチャルゲームも同じように愛していた。
ジルがロールプレイングゲームのためにパソコンをカスタマイズしたと言ったとき、私はノートパソコンをなくすことが彼女にとってどれだけの災難だったかを悟った。そんなことに気づいただけでも、思わずガッツポーズをしたくなった。それほどその面接は大変だったのだ。
■チームの問題を解決できるのはジルの方だった
ジルはよく、会話の途中でふいに黙り込んだ。礼儀を知らないわけではなかったが、何を尋ねても少しピントのずれた答えを返した。話題があちこちに飛んだ。私が評価表を埋めるために、もとの質問に引き戻そうとしても、ジルはあいかわらず本題からやや外れた、自分にとってより興味があることを話し続けた。
ジルは私と正反対だった。彼女を雇うと苦労するのは目に見えていた。私がしっくりいかないだけでなく、彼女のほうも居心地の悪さを感じているのは明らかだった。ジルと私の会話はこの先も噛(か)み合わないだろう。
それでも、私は気づいていた。わがチームの問題を解決できる人物が欲しいなら、ジャックではなくジルを選ぶべきだと。ジルは視覚的に、そして詩的にものごとを考える。複数の関連しないアイデアを頭のなかで共存させられる。彼女の脳内では、中世の詩人とコンピュータのアプリがなんの違和感もなく結びついている。
ジルは専門外の分野でも生産性がとても高かった。何か気になることを見つけたら、その分野を究めるまで熱中した。食事や睡眠を忘れているのにも気づかず、何時間でも問題に没頭できた。
■天才的な人材は面接において見逃されがちである
天才を見極めるには、目をしっかり開いていなければならない。天才はあなたと似ていないし、あなたを居心地悪くさせるから、うっかりすると見過ごしてしまう。会話が噛み合わないからと見逃している可能性もある。天才を見つけるために、私は「自分と通じるところがある」とか「一緒にいて嫌な感じがしない」といった、ふだん面接で気にする条件を脇に置くことにした。
結局、私は両方を採用した。ジャックには問題を解決してくれるジルが必要だし、ジルにはラボをうまく回すために地味な仕事をしてくれるジャックが必要なのだ。
候補者がチームに必要な天才かどうかを判断したいとき、私は次の6つの問いを自分に向けている。これらの問いを活用すれば、その候補者から天才の考え方の特徴を見極められるだろう。
■天才は専門分野以外に創造的な趣味を持っている
1 直列的ではなく並列的に考えるか。
電気は直列でも並列でも、複数の回路に同時につながっていても流れる。その候補者は、一度にひとつのことしか考えられないだろうか。それとも、同時にふたつ以上の考えを頭にとどめておけるだろうか。
アインシュタインは、質量とエネルギーが相関しているとだれも思わなかったときにそのふたつを結びつけて考えられた。一見相反する考えを同時に脳内にとどめられなければ、ほかの人にはランダムに見えるものの規則性を見抜けないだろう。
2 ふたつ以上の分野を究めているか。
レオナルド・ダ・ヴィンチはたぐいまれな芸術家で、独創性と先見の明に富んでいた。ヘリコプター、戦車、ソーラーエネルギー、計算機、プレートテクトニクス説[訳注:地球の地殻がプレートごとに固有の動きをすることを説明した学説]の概念を、それらを実現する工学の誕生よりもはるか前に思いついた。
アメリカ建国の父にして物理学と電気学の発展に寄与した科学発明家でもあるベンジャミン・フランクリンは、避雷針、遠近両用眼鏡、アメリカ初の公共図書館、走行距離計などを発明した。
あなたが面接する候補者は、仕事の専門分野のほかに、創造性を要する趣味や関心を持っているだろうか。アインシュタインはバイオリンを演奏し、モーツァルトに関するエッセイをいくつか書いた。
3 目の前の問題に没入するか。
その候補者は、答えを見つけたり目標を達成したりすることに夢中になるだろうか。わくわくしながら挑戦し、その過程で喜びを見つけるだろうか。
■天才は自分の専門分野のミスをほとんど見逃さない
4 問題の解決法はユニークで、しかもシンプルか。
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その人の着眼点はふつうと違うだろうか。独創的に考えるだろうか。複雑なアイデアをわかりやすく伝えられるだろうか。
5 生産性が高いか。
エジソンは膨大な数の特許を取った。アインシュタインは何百もの論文を発表した。当然ながら、そのすべてが相対性理論と同じレベルに達していたわけではない。しかし、彼の頭脳は絶えずアイデアを生み出していた。
6 仕事の正確さにこだわるか。
天才の仕事が正確かどうか、私にはわからないことがよくある。その仕事の内容が理解できないからだ。ただし、その人が正確さにこだわるかどうかならわかる。
天才は、自分の専門分野のミスや間違いをほとんど見逃さない(もっとも電気料金の支払いのような、日々の雑事はころりと忘れてしまうが)。
以上の6つの問いを使えば、大半の面接で天才を見極められる。職場で新しく人を雇ったり、既存のメンバーを評価したりする機会があれば、ぜひこれらの問いを活用してすぐれた才能を見つけてほしい。
言うまでもないが、天才はめったにいない。天才を見つけて採用できれば、チームの成功は約束されたようなものだ。さらにその天才を効率的なチームに組み込めれば、だれもが無理だと思った進歩も成し遂げられる。
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理学修⼠、アメリカ内科学会フェロー。テキサス⼤学サンアントニオ健康科学センターのロング医科⼤学院⻑。前職はフロリダ大学医科大学院の内科学部長で、医師の臨床研修プログラム副責任者も兼務。
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フロリダ大学ヘルスのプロジェクトマネージャー。フォーダム大学で博士号取得後、同大で倫理学と人間論を教える。過去の役職に、フォーダム大学大学院協議会役員、フォーダム大学哲学会会長など。
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(医学博士 ロバート・フロマス、学術博士 クリストファー・フロマス)
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