プレゼンはじめの「ポイントが3つ」は時代遅れ
プレジデントオンライン / 2020年1月19日 11時15分
■働き方改革で長話がNGに
「説明は『速さ』で決まります。現代人は受け取る情報量がものすごく増えていて、脳の余裕がなくなってきています。そして、膨大な情報を処理する必要があるために『無駄な情報はいらない。時間をむやみに奪われたくない』という意識が芽生えます。長い説明が受け入れられる土壌はなくなっているのです」
こう話すのは、博報堂でコピーライターとして活躍する中村圭氏だ。働き方の変化も追い打ちをかける。
「働き方改革が進み、どの会社でも短い時間で成果を出すように言われています。僕自身、広告会社で働いていて実感するのは、打ち合わせの時間がどんどん短くなっているということ。以前は長々と説明する余裕もあったけれど、今はもう、短くわかりやすく話さなければ、打ち合わせでも成果が残せなくなっているのです」(中村氏)
中村氏は言葉を続ける。
「プレゼンのはじめに『ポイントが3つあります』と言うのも、もはや時代と合っていません。このフレーズがすごく効率的な伝え方だと思い込み、定型句として多用しているのだと思われますが、蓋をあけてみると、その3つ目にはほぼ意味がないとか、ひどい場合は最後まで話を聞いても3つ目がわからず不明ということもある。
また、スピードや速さが勝負の今の時代において、『3つもポイントがあるなんて多いな』と受け取られ、最初の段階で、聞き手の聞く気を損ねてしまいます」
大東文化大学文学部准教授の山口謠司氏も、これまでの話し方の常識を疑ったほうがいいと指摘する。
「最後まで聞かないとオチがわからない“起承転結”型の文章は、ビジネスではもう通用しません。私が人に話し方のアドバイスをするときは、結→起→結→承→結の順で話すことを勧めています。コツは、結論を何度も繰り返して話す相手に印象づけること。さらに、自分が一番伝えたいことを初めに提示すると、人は興味を持って話の続きを聞いてくれます。話が見えないままだらだらしゃべってはだめです」
話のテンポも速さを求められている。
「先日、タレントの中川翔子さんと話をしたら『先生は話し方が遅い!』と言われてしまいました(笑)。私はかなり早口のほうですが、それでも若い人にとっては遅く感じられ、聞く気を削いでしまう。話は速く、短くないとわからない、ということです。ひとつの文を短くして、その文を重ねていくような話し方が求められる時代となった、ということでしょうね」(山口氏)
■「話が迷子」を避け内容の圧縮を目指す
そもそも、なぜ話が長くなってしまうのか。中村氏の分析では、「話ながおじさん型」と「パニック型」の2パターンがあるという。
「話ながおじさん型は、話すことに対する自信があり、話しているうちにどんどん長くなっていってしまいます。一方、パニック型は、話すことに対して自信がなく、話しているうちに『何を話せばいいんだっけ』『今、何の話をしているんだろう』と話を見失い、焦ってさらに時間がかかってしまいます。両方に共通しているのは、何を話すかを事前に決めてないという点です」
改善方法は、事前に自分が話したいことを箇条書きにすることだ。箇条書きは、できるだけ簡潔に、短くまとめること。新書や実用書の見出しをイメージするといい。
「初めからポイントを絞る必要はありません。まずは話したいことをすべて箇条書きにしてみる。出し切ったら、優先順位をつけていく。たとえば10個出したなら、そのうちの4つだけ選んでみる。その次は、選んだ内容をどんな順番で話すか組み立てます。
この作業を行うだけで内容が圧縮され、簡潔に、中身の濃い話ができるようになります。道筋ができているから、話している途中にパニックになることもありません」(中村氏)
■副詞に感情を乗せ接続詞で方向づける
箇条書きにするつもりが、どうしても文章が長くなってしまうこともある。相手に理解してもらおうと思えば思うほど、言葉や要素も増えていってしまう場合は、どうすればいいのだろうか。中村氏が、コピーライターの技術を伝授してくれた。
「コピーライターは、普段から文章を一文字でも短くすることを考えていますが、ポイントは『書き出す時間』と『削る時間』を明確に分けることです。書くこと、削ること、それぞれを意識することができるので、どこが無駄かがよくわかります。日本語は、英語のように文章の型が決まっているわけではなく、自由度が高いところが難しい。気を抜くと、どんどん長くなってしまうので注意しましょう」
山口氏も同様に「文章を短くまとめて書き出す」ことを提案する。
「まずは結論を、原稿用紙2行分にあたる40字にまとめて書いてみる。この練習を続けると、考えが整理され、思考を無駄なく言語化できるようになります。話の論理が外れないようにするためにもとても効果があります」
また、緊張しやすい人に山口氏が推奨するのは、口を動かすウオーミングアップだ。
「緊張して言葉が出てこないといいますが、朝から口を動かす練習をしておくと、言葉が出やすくなります。早口言葉でもなんでもいいですが、もし文学作品を使うなら、おすすめは『あめんぼ あかいな アイウエオ』で有名な北原白秋の『五十音』。歌舞伎の口上である『外郎(ういろう)売り』もいいですね」
文体の優れた名作を音読することで、人に聞いてもらいやすい話し方のリズムが身に付くという利点もある。
「五七調や七五調のリズムを意識して話すと、相手に内容が伝わりやすくなります。それぞれのリズムには特徴があり、五七調で話すと強い印象、七五調では優しい印象になります。広告でも、車や栄養ドリンクなど強いイメージを求める商品は五七調でキャッチコピーが作られていることが多いです。一方、女性が身につけるものなど、優しいイメージを求める広告は、七五調で作られているものが多い。自分が話すときも、目的によって五七調と七五調を使い分けられるといいですね。
七五調を身に付けるのにおすすめなのは、島崎藤村や北原白秋の作品。一方で、萩原朔太郎や、高村光太郎は五七調でガンガンいく感じの作品が多いです。私も授業で学生に戦記物などを教えるときは、五七調で畳みかけるように意識しています」(山口氏)
営業は、相手への印象づけも重要だ。短い話のなかでも、言葉の選び方ひとつで個性を出すことができる。
「文章になくても成立するような部分にも気を使うことがポイントです。副詞や助詞など細かいところにも丁寧な言葉遣いをする人からは『教養がある人』という印象を受けるものです。
仕事ができる人は、副詞を上手に使ってそこに自分の感情を乗せています。状態を表す『やっと』『そっと』や、呼応する『決して~ない』『到底~できない』などの副詞を上手に使いこなすことで、言葉に熱意や愛情といった感情を自然に乗せているのです」
すぐにでも使いたいのは、接続詞を使って話をロジカルにわかりやすくするテクニックだ。
「日本語は、動詞が最後にくるので、最後まで聞かないと否定なのか肯定なのかがわかりません。そこで、文の最初に『しかし』とか『ところが』といった逆接の接続詞を使うと、聞き手は『あ、今言っていることとは逆のことをこの後言うんだな』と、話の展開を予想できるため、話が聞きやすくなります」(山口氏)
意外に思われるかもしれないが、特に話し言葉では、接続詞が欠如していて、言いたい文を並べているだけの話に脈絡がない人が多く見られるという。
■キャッチフレーズで伝達力アップ
言葉をうまく使いこなせれば、成約率を上げることもできる。中村氏は、自身がクライアントと商談をする際には、コピーライターとしてのこんな技術を使っていると言う。
「営業しにいったとしても、直接やりとりを行っている担当者には決定権がないこともありますよね。その場合は、担当者から決定権を持つ上司への説明が行いやすくなるキーワードやキャッチフレーズがあると喜ばれますし、うまく伝えてもらえる可能性も高くなります。たとえば経費精算のソフトを相手に売り込みたいとします。その場合『今、経費精算も生産性の時代なんですよ』というようなキャッチフレーズがあると、担当者は覚えやすく、上司にも伝えやすい。ポイントは、“精算”と“生産”という言葉をかぶせていることです。
このように、同じ音や同じ韻のワードを重ねると、相手の記憶に残りやすくなります。あるいは、『経費処理が速くなればなるほど、仕事のスピードも速くなる』というように、“速い”という同じ言葉を重ねて使うのも効果的です」(中村氏)
事前に話す内容を準備し、短い話のなかでも印象を残すテクニックを身に付けたら、自分の営業トークにかなりの自信がつくはずだ。心の余裕ができたら、次のステップへ。聞き手に対する想像力を働かせてみよう。
「言葉を選ぶときは、聞き手がどういう人なのか思いを馳せることが重要。営業の場合は、広告のように不特定多数の人に向けてメッセージを発するのとは違い、相手の顔やパーソナリティがわかるので、その人に狙いを定めて、響く言葉を選ぶことができる。ヒントは、話している会話のなかに結構あるものです。『それって結局どれくらい効果があるの?』と尋ねるような効率型の人には、数値やデータをまじえて話すといいですね。一方で、『このソフトを使うと社員の幸せ度が上がるかどうか』というような意義が響く人もいますので、見極めが大切です」(中村氏)
■▼言葉のプロ直伝 速く短く話す技術
(ライター 吉田 彩乃 撮影=岡村隆広)
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