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「体罰禁止」に眉を顰める日本人が知らないこと

プレジデントオンライン / 2019年12月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/princessdlaf

体罰は国が禁止すべきなのか。カナダの研究者たちは2018年、「体罰を禁止している国は、若者の暴力数が少ない」という調査結果を発表した。しかも、国が裕福かどうかは暴力の多寡と関係がないという。どういうことか。ハンガリーのセンメルワイス大学で医師を目指す吉田いづみさんが解説する――。

■世界88カ国で若者の暴力を調査した

カナダ・モントリオールの研究者たちが2018年、英国の医学雑誌「BMJ Open」に「88カ国の調査を踏まえた体罰禁止と若者の暴力の関係(Corporal punishment bans and physical fighting in adolescents: an ecological study of 88 countries)」という論文を発表しました。「体罰を禁止している国は若者の暴力数が少ない」という調査結果を記したものです。

この調査は、経済的に所得の低い国から高い国まで、全88カ国の8545校、約40万人の若者(11歳から25歳まで)を対象に実施しました。国によって調査の仕方や対象年齢は違ったものの、基本的な質問は「過去12カ月間のうち、何回暴力を振るったことがありますか」というものでした。調査後、年齢のばらつきは標準化されています。また、体罰に関しては各国の法律によって禁止されているかどうかが基準となっています。

研究は、WHOが11歳、13歳、15歳を対象に4年ごとに実施しているアンケート(the WHO Health Behaviour in School‐aged Children(HBSC))の34カ国分と、WHOが低・中所得の国の13~17歳を対象に実施しているアンケート(the Global School‐based Health Survey(GSHS))の55カ国分のデータを使って行われました。ニュージーランドと南アフリカでは独自のアンケートを使用していますが、質問内容は他と同様に「過去6カ月または12カ月間のうち、何回暴力を振るったことがありますか」というものです。

■裕福な国ほど暴力が少ないわけではない

ドイツやスペイン、ノルウェーなど、欧州の多くの国を含む30カ国は、「体罰を学校でも家庭でも全面禁止」しています。これらの国では、「全く禁止していない」国に比べて男性の暴力は69%、女性は42%低い結果となりました。

またアメリカやイギリス、カナダをはじめとする「学校での体罰は禁止されているが家庭では禁じられていない」38カ国では、「全く禁止されていない」国に比べて男性は大差なかったものの、女性は56%も低い結果となりました。

2015年に同じ研究者たちが発表した論文(Structural Determinants of Youth Bullying and Fighting in 79 Countries)には、「国の裕福度と若者の暴力は直接的に関係しており、経済的に豊かでない国も教育費を増やすことにより、若者の暴力が減らせるのではないか」と書かれています。そのため、調査前は裕福な国ほど暴力は少ないと予想されましたが、今回の調査結果は、その予想と反するものでした。

全ての国の中で特に男性の暴力が少なかったのが、裕福とは言えないカンボジア(1位)、ミャンマー(2位)、マラウイ(3位)、タジキスタン(4位)、コスタリカ(5位)だったのです。また女性ではコスタリカ(1位)、タジキスタン(2位)、中国(3位)で、頻繁に暴力を振るう人が1%以下という結果になりました。

■親から子供への暴力も減っている

一方、男女共に圧倒的に暴力が多かったのはサモアで、男性35%、女性27%という結果でした。また、男女の差は明らかで、ザンビアとガーナ以外の国では、男性の暴力は女性に比べて大幅に多い結果となりました。

断片的ではありますが、国によって家庭や学校で暴力が禁止されていると、男女ともに若者の暴力は少なくなることがわかりました。

また、調査の最後には、一昔前は親や教師を含む大人たちから子供への暴力が多かったものの、現在では政府の介入や新しい法律によって改善されていると書かれていました。アメリカで行われた身体的・性的・心理的虐待、ネグレクトの報告件数を見ると、1990年代では1000人中13人の子供が虐待を受けていたのに対し、2017年には1000人中9人まで減少しています。また、カナダや北欧でも同様の報告がありました。

■いまだに「体罰容認」の風潮が強い日本

今回の調査に日本は含まれていなかったものの、調査結果からは、体罰の禁止が若者の暴力を減らすことが明らかです。

しかし、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2017年に全国2万人の大人を対象に行った意識調査によると、日本ではしつけのための体罰を容認する人が56.8%いることがわかっています。また2019年に朝日新聞が行った世論調査では、親による体罰を法律で「禁止する方がよい」と回答した人は46%だったものの、「しない方がよい」という回答が32%ありました(「(ニュースQ3)「しつけ」でも体罰禁止、法制化の実現性は」2019年2月22日朝日新聞朝刊)。これは日本には体罰を容認する風潮が残っていると言えそうです。

日本では根が深く、歴史も長い体罰。特に教育の場では「熱くなって手が出てしまった」という話がいまだに美談として語り継がれています。しかし、体罰は単なる暴力です。

親や教師は、思いや意見を口に出して伝え、とことん子供と話し合うことが重要でしょう。そうすれば、暴力に頼らない指導ができるのではないでしょうか。また、親や教師も、なるべくストレスを溜め込まず、心に余裕のある生活をすることが求められます。育児への支援を手厚くすることや、教育現場を働きやすい職場にしていくことが、体罰を減らし、暴力のない社会につながるのだと思います。

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吉田 いづみ(よしだ・いづみ)
センメルワイス大学 学生
1994年福岡県生まれ、千葉県浦安市育ち。高校を卒業後、ハンガリー国立医学大学への留学を決意し、2013年6月に単身でハンガリーへ。1年間のPre-medical schoolを経て、現在Semmelweis大学医学部に在学中。

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(センメルワイス大学 学生 吉田 いづみ)

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