バブル世代の男と女「働く意識」の顕著すぎる差
プレジデントオンライン / 2019年12月17日 9時15分
■「均等法第一世代」=バブル世代の女性のあっぱれな働きっぷり
男女雇用機会均等法が施行されたのは、33年も前の1986年のことでした。
事業主が、採用・配置・昇進・定年・退職・解雇などに関する措置をするにあたり、「性別を理由にした差別の禁止」などが定められました。
1986~90年に「総合職」として就職した女性を「均等法第一世代」と表現することが多いですが、彼女たちの年齢は現在50代前半。この「均等法第一世代」と呼ばれた女性たちは、30数年間、男性と同じくらい(家庭の事情によってはそれ以上の)ハードワークをこなし、今は管理職や役員など責任ある地位で活躍している人も少なくありません。管理職として活躍している女性は、男性管理職と比べてどのようなキャリア意識を持ち、働いてきたのでしょうか。
今回、21世紀職業財団の協力のもと、50代女性管理職の働き方の現状や今までのキャリアについて述べます。
■同じ50代でも「働くことへの意識」は男女でかなり違う
【1:仕事やキャリア形成における50代管理職の男女の違い】
21世紀職業財団では、2019年に、「女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査*」という報告書を発表しました。
*調査は、50歳時に300人以上の企業に正社員として勤務し、現在も正社員として勤務している定年前の50〜64歳の男女と、50歳時に300人以上の企業に正社員として勤務し、現在働いている定年後の60〜64歳の男女、計2820人を対象とし、男女による比較を実施。
同調査では、50代かつ管理職の男女に着目をし、キャリア形成の違いを調査しています。
キャリア形成に役立ったものとして、男性、女性ともに「職場内で仕事を通じて学んだ教育・訓練(OJT)」がいずれも約8割と最も多くなっていますが、女性は「自己啓発」(男性7.9%、女性17.5%)に熱心であることが特徴的です。
「将来的な目標を定め計画的にキャリアを考えてきたか」という問いに対しても、「計画的にキャリアを形成してきた(「そう思う」「ややそう思う」)と回答した女性管理職は52.5%と、男性管理職41.5%より多くなっています。
■「計画的にキャリアを形成」した50代女性が自宅で密かにしたこと
インタビュー調査でも、50代女性管理職から下記のようなコメントが得られています。
<親に、先生にならずに就職したいという話をした時に、ずっと仕事を続けるという前提でこの会社を選ぶと宣言して入ったというのがあって。親から「教師が、女性が働き続ける上で一番いいんだ」みたいなことを中学生ぐらいの頃からすり込まれていたのですけれども、実際に大学まで行ってみると、うーん、教師はどうかなというところもあって>
<六法、弁護士試験向け、弁理士試験向けの工業系の法律は会社に入ったときからずっと勉強しましたね、専門学校とかに行って。結果的にそういうところでの法律の知識というのはビジネスの中で役に立つので無駄ではなかったです。資格とかは取っていないですが>
50代になって管理職として活躍している女性は、入社当時の20代の頃から「将来も働き続けること」を前提にキャリアを選択し、そのための自主的な勉強をプライベートの時間にするなど、継続した努力を行ってきたことがうかがえます。
■男性以上に積極的に「学ぶ姿勢」を維持し続けた50代女性
【2.キャリア形成で役立ったこと・50代管理職の男女の違い】
同調査によると、男性管理職と女性管理職で、「キャリア形成に役立った」と考える会社の取り組みや制度にも違いがあることが読み取れます。
「キャリア形成に役立った」取り組みや制度として、男性管理職、女性管理職ともに、「上司によるキャリア形成の後押し」(男性管理職77.3%、女性管理職81.0%)が最も多くなっており、「資格取得や研修受講の費用援助」(男性管理職63.2%、女性管理職77.3%)、「外部組織への会社からの派遣(セミナーなど)」(男性管理職52.1%、女性管理職68.2%)と続きます。順位は同じであるものの、いずれも女性管理職の回答選択率が多くなっている点が特徴的です。
「均等法第一世代」は結婚・出産後も仕事を続ける女性が少なかった時代に働きました。男性に比べて会社から与えられる機会は女性のほうが少なかったはずです。しかし、彼女たちは、与えられた機会から積極的につかみ取ろうという姿勢を常に持っていました。
この結果を踏まえ、21世紀職業財団の上席主任・主任研究員、山谷真名氏はこう語ります。
「今回の調査結果からは、男性に比べて女性のほうが、自身のキャリアをつなげていこうという意識が強く感じられました。若い頃から、キャリアについて考える機会が多かった(あるいは考えざるをえなかった)からこそ、ライフイベントはもちろんのこと、上司からの支援や研修機会など、さまざまな経験や機会を自分のキャリアの糧にしていると感じます」
■善良な男性上司がいたから彼女たちは出世できた
インタビュー調査でも、50代女性管理職から下記のような声が聞かれました。
<上司がいい人だったのか、厳しかったのか、「もう母親1人で育てていくのだから短時間(勤務)なんてやっていないでフルタイムで働きなさい、しっかり仕事をしないと子育ては一人ではできないぞ」みたいなことをしょっちゅう言われて、そんなに言うなら、じゃあやってやれみたいな感じで(笑)、フルタイムに(子供が)3歳ぐらいの時に戻して、そこからが自分の仕事が変わっていく転機になったのです。(中略)そこから自分が考えた仕事を始めたり、(新しいことに)チャレンジしたり、ということをやり出したと思います>
彼女たちが出世・昇進できたのは何より「自助努力」が大きいですが、それだけでは組織の上の立場になることはできません。上記のインタビューにあるように、陰で支えた男性上司の存在が不可欠だったのです。
昔も今も、男性上司の中には女性総合職などバリバリ働く女性に対してネガティブな考えを持つ人が少なくありません。しかし、理解のある男性上司もいて、実力とやる気のある女性を正しく評価して引き上げようとするのです。そうした善良な男性上司に恵まれるかどうか。それは出世・昇進の鍵と言えるかもしれません。
■今まで働き続けられたのは「仕事で成長」「仕事が面白い」から
【3.退職しなかった理由・50代管理職の男女の違い】
同調査では、50代の男性管理職と女性管理職で仕事を現在まで(定年を経験している場合は定年まで)続けている理由にも大きな違いがあることが明らかになっています。
男性管理職では、「家族を養わなければならなかったから」(69.9%)が最も多く、そのほかの理由は3割に満たない状況です。一方、女性管理職は、「経済的に自立したかったから」(46.7%)、が最も多く、「仕事によって自分が成長できたから」(44.2%)、「仕事が面白かったから」(35.0%)と続きます。
男性管理職は、家庭における経済的責任を理由に仕事を続けているのが現状である一方、女性管理職は、経済的な自立や、仕事を通じた自己成長、仕事内容の面白さが、仕事を続けた大きな理由であることがうかがえます。
前出・山谷真名氏はこのように解説します。
「日本では今でも男性は家族を養わなければいけないという意識が強い一方、女性は仕事の面白さややりがいを感じながら働いています。今後、正社員として働き続ける女性が増え、男性が担う経済的責任の重さを減らすことができれば、仕事の面白さややりがいに目を向けて働ける男性も増えるのではないでしょうか」
世の中全体で見れば、結婚・出産・子育てを機に退職する女性のほうが圧倒的に多い時代です。周囲から「辞めてほしい」圧力がかかることも珍しくありません。必ずしも働きやすい環境とは言えない中、彼女たちは「辞表提出」しなかった。その背景にあるのは、上記のような仕事に対する前向きな気持ちだけではありません。
■結婚・出産しても辞表提出をしなかったのは「後輩のため」
それは、インタビュー調査で50代女性管理職が残したコメントからもうかがい知ることができます。
<不安でした。女性で一般職から管理職というのは(自分が)初めてだったのですね、会社の中で。なので、自分がつぶれますと、次に続く女性が出なくなるという、そういった思いもものすごくあったんですね>
<転職(すること)は常に(頭の)どこかで考えながら仕事をしているのですけれども、やはり自信がなくて。目の前の仕事が面白いのは面白いのでやっているうちに今日に至るという>
本当は働き続けたかった母親の気持ちに寄り添おうとする女性、また均等法第一世代のトップランナーとして次代にバトンを渡さなければならないという使命や責任感を持つ女性など、仕事を続けるか否かを「自分」だけの問題としてとらえていないのが彼女たちの共通点かもしれません。
■50代女性の「働くことを諦めない」姿勢から学ぶべきこと
50代(均等法世代前も含む)の女性管理職を対象とした調査結果やコメントからは、女性が男性と同じように企業の中で働き続けられるようになった時代を契機に、経済的に自立することを目指しつつ、与えられたチャンスを受け止めてきた姿がうかがえます。
数年前、安倍政権の成長戦略として女性の活躍推進が掲げられた時、すでに社会で活躍していた均等法世代の女性がロールモデルとして注目された一方で、「子育てや私生活の時間を削ってまで昇進したくない」という声も若い女性から多くあがっていました。
しかし、キャリアの壁に将来ぶつかった時には、均等法世代の女性たちの姿勢や考え方の中から、ヒントがあるのではないかと感じます。
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日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
女性の活躍推進に関する調査研究及び環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。主な著書に「女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる」(経営書院)
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(日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子)
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