冒険家が信頼する日本人初の国際山岳医の素顔
プレジデントオンライン / 2020年1月11日 6時15分
大城和恵●国際山岳医、1967年、長野県生まれ。東京の大学病院で勤務後、2002年に北海道に移住。10年に国際山岳医資格を取得。11年、同病院に山岳外来を開設。12年より冒険家・三浦雄一郎氏のチームドクターに。同氏のエベレストやアコンカグア登山に同行。
■日本人初の国際山岳医
大城和恵さんは、日本人初の国際山岳医として、世界最高峰を狙う登山隊のチームドクターを務める。自身も登山経験が豊富なアルピニストというので、たくましいアスリートを想像していたが、実際は明るい笑顔が人懐っこい、小柄でチャーミングな女性だ。
「2018年、プライベートでエベレストに登りました。私費で自分のために登っているのに、高地で具合が悪い人がいると放っておけないんです。自分だけ登頂すればいいはずが、いつの間にかその場の全員を無事、下山させることに目的がすり替わってしまって、職業病ですね(笑)」
山にいないときは、北海道の病院に開設した「山岳外来」で、健康に不安のある登山者の治療や相談に応じている。そこでも世界最高峰へ挑む登山隊での経験は役立つという。
「三浦さんとご一緒させてもらうと、高山での高齢者が大変なポイントがわかるので、勉強になりますね。患者さんに具体的なアドバイスができますから」
チームドクターには全員を無事に下山させるという重責がある。何億円というコストがかかる遠征で、山頂を目前にしても、プロとして時には登頂にNOと言わなくてはならない。
「必要なら断念を進言する立場にあります。みんなが登頂したいさなかで、医師として信頼していただけて、下山を受け入れてもらえたときは、ありがたいなと思います」
■本場で学んだ山岳医の神髄。遭難を減らすための医療とは
山岳医をめざしたのは現在の病院で循環器内科医として勤務していたころ、趣味で登ったネパールの山で高山病の人を手当てしたことがきっかけだった。
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「その時を機に、山岳医療について系統だった勉強がしたいと思い、専門の教育機関に留学しました」
病院を退職し、イギリスに留学。海外での経験や出会いを通じて、山岳医の使命を意識するようになった。
「山岳医療が社会で役立つためには、遭難者の治療だけでは足りないんです。医師が山でヒーローになっても意味がない。登山者が高山病になったりケガをして遭難したりしないように予防すること、安全な登山のための情報発信など、山に関わる医師としての道が固まりました」
帰国後は北海道の古巣の病院に復帰し、「山岳外来」を開いた。山での死亡原因に多い心臓死は、事前の健康診断でかなり防げる。現在も健康に不安がある登山愛好者が全国から北海道にやってくる。
「病気があれば治療して、治療後の安全な登山を医学的に提案します。運動負荷試験をして、患者さんが無事に下山できるペースも指導します。指導しても無理をする人はしますが、脈拍を意識してもらえば、リスクは減りますから」
また、北海道警察や富山、長野の県警と連携し山岳遭難救助隊のアドバイザーとして、現場の対応に医療知識を提供している。医療と救助の協力体制が進み、救助隊の安全、緊急時の対応、効果のある応急処置の周知など、成果も出てきている。
■山の現場は体力と経験勝負。生物学的に男性優位は道理
山や災害救助の世界は男性優位というが、そこで女性医師がうまく仕事をするコツはなんだろうか。
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「医師の世界も男社会です。性差を受け入れて分担したほうがやりやすいですね。経験豊富な男性に現場の情報をもらい、私は医学的にアドバイスすることで、包括的な救助が成立するのだと思っています」
仕事が広がると、協力してくれる人がいる一方で、イヤな思いをすることもあるという。
「そんなときは、悔しい思いは横に置いて『やるべきことに集中!』と自分に言い聞かせます。時間は有限、気にしている暇はありません」
今後「登山外来を東京で」という計画もあるが、活動の本拠地はあくまで北海道でと考えているそう。
■遭難時の生存救助率を高めています
「北海道には日本で初めて山岳救助に医療を導入した歴史があり、遭難時の生存救助率を高めています。病院では患者さんやスタッフと非常に高レベルな山岳外来を継続しており、三浦登山隊でも生かされました。今の環境は時間をかけて築いた財産、ありがたいと思っています」
目標に向かって、自分のペースで前進し続ける大城さん。信念を曲げないたくましい山ガールだった。
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(モトカワ マリコ 撮影=本田 匡)
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