懇親会で「サンタ」に扮した社長がスベったワケ
プレジデントオンライン / 2019年12月24日 15時15分
※本稿は、永井孝尚著『超実践マーケットイン企画術 7つのテンプレートで「お客様のニーズ」がつかめた』(PHP研究所)を元に書き下ろしたものです。
■社長自らサンタクロースになってみたが…
誰でも企画を考える立場にある。実際には企画はとても身近なものだ。たとえば社内パーティには、企画に必要な要素が詰まっている。
「たかがパーティでしょ」
「カンタンじゃん」
と考えて企画をおろそかにすると、イタい失敗を招くこともある。
ある知り合いの社長は、社内の雰囲気がどんよりしていて、社員に活気がないのが悩みの種だった。ネットを見ていたら、こんな記事を見つけた。
「社内イベントは効果絶大。社員の気分が開放的になる。普段と違う仲間の一面も見える。一体感も味わえる。パーティの様子をSNSに投稿すると、会社のいい宣伝にもなる」
ここで社長はひらめいた。
「そうか! 来週はクリスマスだ。最近はオフィス飲みも流行(はや)っているし、コレやるぞ」
早速社内に「来週火曜18時から、クリスマスパーティやります!」と告知。
当日は、秘書にスナック菓子、ドリンク、シャンパン、お酒、クリスマスグッズを買いに行かせ、会議室にスチール机とスチール椅子を並べて、机の上にスナック菓子を紙皿で展開して準備万端。さらに社長がサンタクロースに扮(ふん)して社員にプレゼントを配る段取りまで考えた。
■思いつきで企画を立てると、失敗する
しかし時間になっても社員は来ない。オフィスにいる社員に声をかけて、なんとか5名が集合。
その日、私は社長が「クリスマスパーティやりました」というメッセージともにSNSに投稿した写真を見た。
社員の表情が硬い。社員2名がスーツ姿のままサンタ帽子をかぶり、ぎこちなく笑っている。机の上には大量のスナック菓子とお酒が手つかずのまま残っていた。
一方で私のSNSのタイムラインには、他の会社のクリスマスパーティの様子も流れていた。飾り付けも華やかで、社員はドレスアップしたり、トナカイやサンタの格好をして集合写真でVサインを決めたりして凄い盛り上がり。楽しそうな雰囲気が伝わってくる。思わずタイムライン上で比較してしまう。
「これって、むしろ逆効果じゃないの?」
この社長は「社内がドンヨリしているから、クリパで一体感を持たせて、ついでに会社の宣伝もしよう」とひらめき、イベントを企画している。これはスジがよくない企画である。思いつきで企画を立てている限り、失敗を続けてしまうのだ。思いつきの企画が成功することもあるが、それはマグレであり再現性はない。
■「課題」がわからなければ「解決策」も的外れ
企画にはヒラメキも大切だが、ヒラメキだけでは失敗するのだ。企画には必要な型、言い換えればプロセスがある。
・その上で、相手の課題をしっかりと理解する
・課題の解決策を考える。これが企画だ
・共感する人たちを巻き込み、企画を実行する
・成果を出す
こう考えると、社長が失敗した理由がわかるだろう。
・そして相手である社員の課題も理解していない
・課題がわからないから解決策(=クリスマスパーティ)も見当外れである
・社長の独断で企画を立てていて、社員を巻き込んでいない
・結果、成果が挙がらずむしろ逆効果だった
■成功する企画には「型」がある
ではどうすればいいか? 成功する企画の「型」を理解することだ。今回の場合、企画はこのような流れで進めていくべきだった。
②相手の痛みを考え、バリュープロポジションを考える
③実行計画を立てる
④実行して検証する
⑤成果を見える化する
ここで役立つのが「テンプレート」である。私も常にテンプレートを使い、テンプレートに沿って企画を考え、実行し、結果から常に学んでいる。テンプレートは、メリットが多いのだ。
・やるべきことも明確になる。
・企画を考えて実行する際の効率も上がる。
・さらに企画の成功確率も上がる。
そもそも企画が100%成功することはあり得ない。必ず失敗する可能性がある。しかしテンプレートで考えれば、企画が失敗する可能性は大きく下がる。そして失敗した場合も、どこが悪かったのか、どのように改善すればいいのかが、後から検証できる。
テンプレートを使わないとどうなるか? 企画は行き当たりばったりの思いつきで考えることになる。失敗してしまうことも多い。さらに失敗しても何が悪かったのかが検証できない。だから成功確率もなかなか上がらない。さらに仕事の効率も下がる。
では、今回、あの社長はどうやって企画を進めればよかったのか? ポイントは最初の「①解決すべき問題を定義する」にある。問題の定義を間違えているのだ。
■出発点は「現状」の理解、それから「あるべき姿」を決める
企画の出発点は、問題を正しく定義することだ。社内イベントでも同じである。最初に「何故やるのか?」を考え、問題を正しく定義した上で「何をやるのか?」を決める。
社長はこのように考えていた。
「社内の雰囲気がどんよりしている→クリスマスパーティをやろう」
「雰囲気がどんよりしている」のは単なる現象だ。そもそも「雰囲気がどんよりしている」原因が何なのかを正しく理解していないから、クリスマスパーティがイタい失敗に終わったのだ。
まず「どんよりしている」という現状を具体的に捉える。次にあるべき姿を考え、現状と比較する。その差がギャップである。
その上で、ギャップが生じている原因を分析する。しかし考えるだけでは原因はわからない。実際に状況を観察して事実を把握し、何が起こっているのかを理解することだ。
この会社では、仕事の効率を上げるために社員は一人一人仕切りに囲まれた机で仕事をしていて、社員同士のやり取りはチャットで行われていた。シェアオフィスで仕事をすることも多く、社員同士の対面コミュニケーションがほとんどなかった。
入社数年目のある女性社員はこう語る。
「毎朝会社に来て自分の席に座り、パソコン上で仕事して、夕方6時に帰るだけの生活。たまに上司と話す他には、誰とも話さない。昼食も一人。なんか孤独です……」
つまり社員同士のコミュニケーションが圧倒的に足りないために社員同士の連帯感が生まれず、社内がどんよりしているのだ。
ギャップと原因がわかれば、解決すべき問題もわかる。
必要な対策は、意識的に楽しめる対面コミュニケーションを増やすことで、社員同士の距離を縮め、お互いに理解を深めることだ。
問題定義テンプレートで考えると、図のようになる。
■「正しい問い」を立てているか
社長が「どんよりした雰囲気を変えよう」と思いつきで声をかけてお手軽にクリスマスパーティを単発で行っても、社員は戸惑うばかりだ。
一つの解決策は、むしろ手間をかけて全社員が参加するイベントをすることだ。たとえば社員有志の企画による全員参加の社内旅行。あるいは自由参加のランチ会を毎週定例化する。さらに、現在のワークスタイルそのものも見直す必要があるだろう。お互いを知り、距離が縮まるような仕組みを作り、その仕組みを着実に回すことだ。
このように企画の出発点は「正しい問いを立てること」だ。そのためには相手を理解した上で、解決すべき正しい問題を見つけることである。
経営学者のドラッカーは、このように言っている。
「間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはない」
思いつきで企画を立てても、最初の問いが間違っていれば、何の役にも立たないのである。
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マーケティング戦略コンサルタント
1984年に慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャー、人材育成責任者として同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社後、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供しマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。さらに仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」を毎月主宰。主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』、7万部『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(以上、KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『売ってはいけない』(PHP新書)。最新著書は『超実践マーケットイン企画術 7つのテンプレートで「お客様のニーズ」がつかめた』(PHP研究所)永井孝尚オフィシャルサイト
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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚)
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