丸山桂里奈「テレビに出るとW杯より緊張する」
プレジデントオンライン / 2020年1月2日 9時15分
■その日その時、感じたことをパッと書く
――共演者の方に必ず駄菓子とお手紙をお渡しするそうですが、「手洗い、うがいをしてください」という意味で、「目にはみえないものに気をつけて」と書かれるなど、表現が独特ですよね。自分をさらけ出す怖さ、みたいなものはないですか?
【丸山桂里奈さん(以降、丸山)】ないですね。本当に自分が感じたことだけを書いていますし……それに、人に恐怖を与えるようなことってこんな手紙じゃなくて、もっとすごいことだと思いませんか?
手紙を受け取った方から「意味がわからない」ってよく言われるんです。それに対しては全身全霊で答えるようにしています。書いている私自身はその意味をわかっていますから、それが相手にも伝わればいいなと思って、ちゃんと説明するようにしています。
ただあんまり考えると手紙を書けなくなってしまうので、その日その時、感じたことをパッと書くようにしているんです。
■現役時代から「バラエティー部」所属だった
――現役時代、オフサイドを知らないままフォワードとしてプレーしていたそうですが、芸能界でのお仕事も戦略的に、というよりは感覚で勝負されているのでしょうか。
【丸山】私は自分のことはよくわからないんですけど、場に応じてキャラを変えるようなことができないんです。だからなのか、まだそんなにテレビに出ていなかった現役時代にバラエティーに出させてもらった時、サッカーをやっている私しか知らない共演者の方が、「丸山さんってこういう人だと思わなかった」って驚かれていて。
それを澤(穂希)さんに話したら、「私は逆に、テレビに出るのに普段とまったく同じまま出られる方がすごいと思うよ」って言われました。他のなでしこJAPANの子も、「よくそのまま出られるね」とか「そのままでもテレビっていけるんだ~」って言っていましたね。それを聞いて、自分らしくいることを評価してもらえたみたいで嬉(うれ)しかったです。
――とはいえ、世界的サッカー選手として活躍した丸山さんがテレビの世界を選んだのはどうしてなんでしょうか。
【丸山】現役時代から人の紹介で今の事務所(ホリプロ)に所属していたんです。その時から事務所の人たちが「丸山にはこれが向いてるかな」みたいな感じで、今の道に導いてくれた感じです。というかそもそも私、なぜか現役時代から「バラエティー部」所属だったんですよ。
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■もともとは「サッカー解説」を期待されていた
【マネージャーさん】ホリプロの場合、武田修宏や大林素子といった元アスリートの方は大体、「スポーツ部」の所属になるんです。丸山がさまぁ~ずとかと同じバラエティー部に入ったのは、スカウトした人間がそこの所属だったからというだけで、本当にたまたまなんです。なので、初めは事務所としても、サッカー解説やスポーツキャスターとしての活躍を期待していました。
――丸山さんのキャラクターを知っていて、バラエティータレントとしてスカウトされたわけではなかったんですね。
【マネージャーさん】そうです。スカウトした時は誰も彼女のキャラを知りませんでした。僕はサッカーが好きだったので「丸山さんのマネージャーをしたい!」と、すぐに手を挙げたんです。そうして初めて会った時、サッカー選手から見た試合の選評がどんなものか聞きたくて、「昨日の男子代表の試合、どう見ましたか!?」と話しかけたんです。
そうしたら丸山さんは、「リプレイは見ましたけど」って言うだけ。アレ? と思ってさらに話を聞いてみたら、僕でもできるような解説をしてきて……選手目線というより、なんなら素人目線の話でした。その時、丸山さんは解説に向いていないとはっきり思いました。ただ現役時代からポツポツ出ていたバラエティーではいつもばっちり爪痕を残していたので、早々にそちらに舵を切ったという感じです。
【丸山】サッカーはやるもので見るものじゃないですから!
■引退後の仕事が心配だから、プロにならない選手たち
――丸山さんのように引退後も大活躍される方がいる一方、スポーツ選手はセカンドキャリアについて悩まれると聞きます。
【丸山】私は昔、東京電力のチームに所属していたんですが(編注:東電マリーゼ。ベガルタ仙台レディースの前身)、当時、会社でやる仕事はコピーとお茶くみでした。与えられる仕事がそうだったんです。そもそも周りは技術系の知識を持って入社してきている人ばかりなので、サッカー選手として入社している私たちがその知識をつけようと思ったら相当大変です。そんな環境だったので、引退後に東電で働き続けたとしても、簡単な雑務しかできなかったと思いますね。
結局私はプロ選手としてサッカーを極めたかったので退社してしまいましたが、「引退後も東電で働けるならプロになりたくない」って選手はけっこういたんです。契約や引退後のことが不安定なプロになるよりも、選手生活が終わった後にサラリーマンとしての生活が保証されているなら、そっちの方がいいってことなんですよね。
でも引退後にそのまま東電で働いた子たちも、キャリアアップに悩んだり、本当にこれがやりたことなのかわからないと言って、会社を辞めちゃったりした人もいるので……難しいですよね。
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■死に物狂いで競技に専念するアメリカの女子サッカー
――今のお話は日本の女子サッカーのレベル問題にも関わってきますよね。
【丸山】東電退社後にアメリカのプロリーグへ行ったんですけど、向こうは全員プロなので、働く必要がありません。だから一日中ずっとサッカーしかしてないわけですよ。そりゃコンディションも違いますし、モチベーションだって違いますよね。ダメならすぐ契約解除になりますから、みんな死に物狂いです。
男子は「働きながらサッカーするなんて嫌だ」って言ってみんなプロになりますよね。でも女子の場合は結婚・出産も視野に入れている人もいるでしょうから、サッカーに100%捧げられる人がどれだけいるのかと考えると……これも難しいですよね。
ただ、今思えば2011年のワールドカップ優勝メンバーは、澤さんはじめみんな過酷な環境から這(は)い上がってきた人たちばっかりでした。負け続けることがあっても、それでも諦められなくて、しがみついてきたんですよね。「サッカーとしっかり向き合いたい」、「絶対世界一になりたい!」と、サッカーのことだけ考えている人たちが集まっていたから、やっぱり強いですよ。かといってモチベーションだけでは女子サッカーのことは語れないですし……。
――日本サッカー協会が、2021年に女子プロリーグを創設すると発表しましたね。
【丸山】プロリーグができることはとてもうらやましいですし、日本の女子サッカーが確実に強くなると思います。ただ、お金をもらって全員がプロとしてプレーするリーグとなると、今まで以上にレベルの高いプレーを見せるという責任が生まれると感じますし、スポンサーさんにも納得してお金を出してもらわないといけないですよね。そういうプレッシャーを乗り越えた先には、再び世界一が待っていると思います。
■自分なりのやり方でサッカーに恩返ししたい
――テレビで活躍されている今でも、女子サッカーに関わりたい気持ちはありますか?
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【丸山】ずっとサッカーにお世話になってきていますから、引退する前から、どこかでサッカーに恩返ししたいと思っていたんです。
私が今、元サッカー選手としてテレビに出ると紹介VTRとして、なでしこJAPAN時代にワールドカップでゴールを決めた動画が流れることがあるじゃないですか。そうやって私がバラエティーに出ることで、少しでも女子サッカーに関心を持ってもらえるきっかけになればいいなって思っているんです。なのでテロップなどの肩書も「元サッカー選手」は外さないようにしてもらっています。
女子サッカーを応援するといってもいろんな立場があって、解説をする人もいれば、指導者になる人、サッカー協会に勤めている人もいます。だから私も自分なりのやり方でサッカーに恩返しをしていく。これはずっとブレずに思っていることなんです。
でも、テレビに出るのは毎回本当に緊張します。ワールドカップでも緊張しなかったんですけどね。サッカーはフォワードだったので、点を決めればモチベーションも上がるし、結果を残したことがはっきりわかります。テレビのお仕事はゴールがわからないし、結果を残せたかどうかもわからない。だから不安ではあるんですけど、いつも現場には助けてくれたり、フォローしてくれたりする人がたくさんいるんです。そこに、サッカーと似たチームワークを感じるんです。
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タレント・元サッカー選手
1983年東京都出身。現役時代のポジションはフォワード。2002年、第14回アジア競技大会の北朝鮮戦でなでしこジャパン代表デビュー。03年、第4回FIFA女子ワールドカップ出場。04年アテネオリンピック、08年北京オリンピック出場。11年、第6回FIFA女子ワールドカップで優勝を飾る。12年ロンドンオリンピック準優勝。16年に現役引退、現在はタレントとしてバラエティー番組で活躍中。
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(タレント・元サッカー選手 丸山 桂里奈 聞き手・構成=小泉 なつみ)
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