冗談でも「うちのバカ息子」と言ってはいけない
プレジデントオンライン / 2020年1月6日 11時15分
※本稿は、柳沢幸雄『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■比較するなら「過去の子ども自身」
子育てにおいて、比較することはいけないと言われがちですが、それは比較の仕方が間違っているからです。たいていの場合、私たちは子どもを、兄弟、友達、過去の自分などと比べてしまうものです。このような比較が、お子さんにとってプラスになることはありません。
私は親御さんには、「子どもは垂直に比較してください」とお伝えしています。これは、その子自身の3日前、1カ月前、3カ月前、半年前、1年前と比較するやり方です。過去の状態と比較して、よくなった部分を具体的に褒めていきます。つまり比較対象は、常に過去のお子さん自身というわけです。
人間は千差万別ですから、成長の早さには凹凸があります。ある部分が早く成長しても、ある部分は遅いということは、普通にあるものです。幼い頃を振り返っても、立ち上がるのは早かったけど言葉は遅かった、文字を書くのは早かったけど計算は苦手だった、など違いがあったはずです。
■赤ちゃんのときには「ハイハイ」で喜んでいたはず
私たちはともすると、優秀な兄弟や友達、いもしない理想の子どもと、わが子を比べてしまいます。それでは、子どもは苦しくなるばかり。比べるなら、過去のその子と比較して、前よりもよくなったところを見つけてあげてください。そうすればお子さん自身が自らの成長を確認でき、それが自己肯定感や自信につながってきます。
このことは、じつはみなさんやってきたことなのです。赤ちゃんのときには、「寝返りができるようになった!」「ハイハイできるようになった!」「つかまり立ちができるようになった!」など、お子さんの垂直の成長の中に喜びを見出していたはず。いつしかこの気持ちを忘れてしまい、他人との比較に躍起になってしまっているのです。
たいていのお子さん自身、自分の苦手なことはイヤというほどわかっています。それを親にまで言われたのでは、気持ちの持っていきようがありません。足が遅い子に向かって、「お兄ちゃんはリレーの選手だったのに……」「お父さんは小学生の頃、いつもアンカーだった」などと話したところで、その子にとってなんのプラスにもならないどころか、自己肯定感を大きく下げるだけです。
その子自身、何も言われなくても、「足が遅い」ということに関するコンプレックスをイヤというほど感じています。わざわざ周りが、それを言葉にする必要があるでしょうか。
■「具体的に褒める」のが自信をつけるコツ
親ができることは、リレーの選手になれないことを嘆いたり、徒競走の順位を比較したりすることではなく、「去年より練習のタイムが上がってるね」などと、具体的に褒めることです。去年の100メートル走の記録をメモしておいて、それから何秒伸びたかなど、数字で伝えられるといいですね。
このように具体的に褒めると、子どもは容易に納得することができます。そのために必要なのは、お子さんのことをよく観察しておくこと。そうしなければ、小さな成長(でも、子どもにとっては大きな努力の賜物)に気がつかないかもしれません。
自己肯定感や自信をつけさせるために必要なのは、その子を垂直に比較し、向上している部分を見つけて、具体的に褒めることなのです。
■褒めることは、価値観を伝えること
親が褒めるということに関して言えば、それは道徳を伝えることにもつながります。つまり、親の価値観です。褒めるということは、親が「望ましい」と思っていることを、子どもに示す行為なのです。
例えば、今まで汚かった部屋が最近ちょっとキレイになってきた場合、「最近部屋がキレイだね」と伝えることは、親にとって、あるいは社会にとって「整理整頓しておくことはプラスである」という価値観を伝えることになります。逆に今までキレイだった部屋が最近汚くなってきた場合、この変化を褒める親はいないはずです。
ですから、褒めるということは、価値観を伝えることでもあるのです。親が子どもを褒めるときには特に、この部分を意識しておかなければなりません。
成績ばかりを褒める家と、周囲の人のためにしたことを褒める家では、その子の価値観は自ずと変わっていきます。前者の家の子どもは「いい点を取る」という行動が強化されるのに対して、後者の家の子どもは「人に優しくする」という行動が強化されていきます。親の価値観は、このように子どもに根づいていきます。昔から、「子は親の鏡」と言われるゆえんです。
■垂直比較で褒められるのは親だけ
子どもに名前をつけるとき、みなさんも「こんなふうに育ってほしい」という願いを込めたはずです。しかし、それ以来忘れているなんてことはないでしょうか。じつはその願いは、日々の「褒める」という行動の中で、実践することができるのです。
「なかなか褒めるところが見つからない」という話もよく聞きますが、それは親の観察力が足りないからです。今の瞬間だけ見ているから、見つからないのです。
先ほどお話ししたように、褒めるためには、子どもの過去の状態を思い出さなければなりません。それはやはり面倒なもの。目の前の状態だけを扱ったほうが、ラクに決まっています。
しかし、考えてみれば、核家族化した社会で垂直に比較して褒めることができるのは、子どもの成長をずっと見ている親しかいません。垂直比較で褒めることができるのは、親の特権。「前はできなかったのに、こんなにできるようになった」と褒めることができるのは、親だけなのです。
■鉄板ネタでも「うちのバカ息子が~」は言わない
私が親御さんにお子さんのことを褒めると、「いえいえ、うちの子は本当にダメで」と謙遜する方が多くいます。日本にとって謙遜の文化は必要なものとして機能してきました。しかし、それを理解するためには、日本で育つ、外国に滞在していたとしても日本文化の中で育った親の元で育つなど、親和性がある程度なければなりません。それがない子どもにとっては、親が「うちの子は本当にバカで」「全く運動神経がなくて」などと他の人に話しているのを横で聞いていたら、自分はけなされていると思い傷ついてしまいます。
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お母さん方にとって、どうやら「ダメな息子」というのは鉄板ネタで、それだけでママ会が盛り上がるそうです。しかし、これを息子に聞かれてはいけません。少なくとも、息子が謙遜の文化をしっかりと理解できる年齢になるまでは、言わないのが懸命です。なぜなら、せっかく育てた自己肯定感が、何気ない一言で失われてしまうことがあるからです。
同じような理由から、旦那様の悪口もお子さんの前で言わないほうがいいでしょう。息子にとって、父親は一番のロールモデルです。それを否定されると、子どもはロールモデルを失ってしまいます。子どもが大きくなってくると、何気なく大人の会話をしてしまうものですが、やはり子どもの世界と大人の世界は、完全に切り離して考えるほうがいいのです。
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開成中学校・高等学校校長
1947年生まれ。東京大学名誉教授。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに複数回選出)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て2011年より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。著書に『ほめ力』『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』など多数。
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(開成中学校・高等学校校長 柳沢 幸雄)
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