1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

晩婚化する日本女性を襲う「ダブルケア」の恐怖

プレジデントオンライン / 2019年12月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/apichon_tee

長らく企業の多くを占めていた「おじさん中心社会」は、女性の中堅社員が増える2025年ごろには崩壊するという。しかし、法政大学ビジネススクールの高田朝子教授は「女性管理職が増えても、今後は『育児と介護の両立』という新たな問題がやってくる」と指摘する——。

■労働力人口女性の7割が就業している時代

夕方6時半すぎの商店街。背広姿の父親が小さな子どもの手を引いてスーパーマーケットに入っていく。背中にリュックサック型のビジネスバッグを父親は背負い、子どもは一生懸命、保育園での出来事を話している——。よく日常で見かける光景である。

最近の親子の姿を観察すると、20年前と比べて相対的に親の年齢が上昇していることに気がつく。若いお父さんお母さんというよりは、もう少し大人の両親が目立つ。子どもを持つ年齢が上昇し、女性は働き続ける。人口減少の中で晩婚化が進みそれに伴い第1子の出産年齢も高齢化しているからである。

数字にもこの現象は裏付けられている。2019年8月末の労働力調査では15歳から64歳までのいわゆる「労働力」とされる女性の就業率が71.2%となり、働く女性の割合が過去最高になった。平成元年(1988年)の59.5%から12ポイント弱増加し、現状では労働力人口女性の約7割が何らかの形で就業していることになる。

同時に平均結婚年齢と出産年齢は上昇し続けている(図表参照)。特に都心部ではその傾向は顕著である。2016年を例に取ると、男性の初婚年齢は全国平均で31.1歳、東京都のそれは32.3歳。女性は全国平均で30.7歳、東京都は32.5歳で、男性は1.2歳、女性は1.8歳全国平均よりも高い。さらに女性の第1子平均出産年齢は全国平均で30.7歳、東京都は32.3歳で1.6歳高い。都会の男女は結婚が遅く出産も遅い。

さらに、わが国の合計特殊出生率は1975年以降2.0を切り低下傾向を顕著に示し、2018年度は1.42であった。これはわが国の標準が「一人っ子と親」という家庭になったことを示す。

平均初婚年齢と出生順位別母の平均年齢の年次推移

■“おじさんコミュニティー”は約5年後に完全崩壊する

一方で本人が希望したか否かは別として、管理職になる女性の数は増え続けている。課長級の女性の割合は平成元年の2.0%から平成の終わりには11.2%になった。5倍になったということもできるし、女性活躍と大騒ぎしている割に1割強しかいないという言い方もできる。いずれにせよ、女性が生涯働き続け、その結果昇進し、マネジメントを担うという流れはもはや珍しいものではない。

社会が女性の管理職就任を真剣に後押しし始めたのは、合計特殊出生率が過去最低の1.26まで落ち込んだ2005年近辺からである。直截(ちょくせつ)に言えば、人手不足を埋めるべく始まったのが、近年の女性活躍推進の流れである。

それは、“おじさんコミュニティー”であるビジネスワールドにおいて、長い時間「蚊帳の外」ポジションだった女性を「活躍させる」ことで、人材を埋め合わせようという苦し紛れの第一手だった。一方で、人口減少はますます進み、2019年の出生人数は90万人を割り込み史上最低を更新している。人口減少はわが国の「人ありき」の社会システムが立ちゆかなくなることと同義である。今後のわが国において、人々は男女の差なく働き続けることが求められるのは自明である。

女性管理職は今後ますます増加していくことは間違いない。わが国の女性活躍が本格的に始動し、企業が総合職女性の採用を増加し始めた2013年近辺に入社をして、男性と同じようにキャリアを積んできた女性たちが企業の中心になり始める2025年ごろには、今まで社会の中心であったおじさんコミュニティーは完全に形が変わるだろう。少なくともおじさんだけが中心のコミュニティーは崩壊する。もちろん、見た目を変えて何らかの形で生き残るであろうが。

■キャリアの転換期と妊娠・出産の時期が重なる

一般にキャリアステージの中でがむしゃらに仕事をする傾向が強いのは30代からである。キャリアを積む中で仕事が面白くなり、組織内でも裁量の範囲も広がる。そして、この時期は男女問わずライフステージでは結婚というイベントが多く行われる時期であり、女性にとってはこれに出産が加わる。女性の通常妊娠の限界が41~42歳とされている中で一気にさまざまなややこしい出来事が噴出する。

マネジメントポジションへの進出が始まる時期の女性たちの間で、「仕事が面白くなってきたので、今結婚や出産でキャリアの穴を開けたくない」「ようやくやりたい仕事ができるようになったので逃したくない」「人手不足の状態で、出産で休めない」などという話は、日本中至る所で聞こえる。

女性の多い職場では、妊娠順番ルールが非公式に定められているところさえあって、マタニティーハラスメントの一種として問題となる。言い古されている事柄だが、女性は、キャリア上の転換点と「子どもを持つ」という人生上の一大イベントの時期が一致しているのが現状であり、女性たちが妊娠を後回しにするという選択をすることも多い。その結果、働く女性の晩婚化、出産年齢の高齢化をますます引き上げ、少子化がどんどん進んでいく。

■近い将来、育児と介護の「ダブルケア」がやってくる

ここで、一つの予測が成り立つ。近い将来、働きながら子どもを産み、育児と介護を同時にしなくてはいけない層、すなわちダブルケアワーカーが近い将来多く出現するだろうという予測である。

一般に、介護が必要になるのは70歳代からである。2016年に実施された国民生活基礎調査によると70歳台で要介護者になる確率が60代の5倍となり(65~69歳の要介護者総数4.4%が70~79歳になると22.2%)、80歳台では48.9%を占める。親が70歳を超えると介護がいつ始まってもおかしくない。介護を共同で行う兄弟がいることもなく、少子高齢化のわが国ではますます介護の重圧が若い世代にのしかかる。

このようなケースを考えると分かりやすい。

四年制大学を出て、企業の営業職として働き、婚活を経て32歳で同じ年のB子さんと結婚したA男さん。子どもを望んでいたが仕事が忙しく自然に任せていたら36歳になっていた。夫婦で不妊外来に行ったところ治療を勧められ、ようやく子どもを授かったのが38歳。B子さんは産休と育休を取り保育園もなんとか確保し40歳で会社に復帰し、2人で交代で育児をしていた。
そんな中、田舎に単身で住むA男さんの母親が自宅で倒れ要介護になった。一人っ子のA男さんは週末母親の元に通う。仕事はやりたかったプロジェクトのメンバーになっているので、介護に通う時間を捻出するのが難しいが何とかやりくりする。B子さんは仕事と育児で手いっぱいである。A男さんは毎日疲れている。

■女性活躍が進むほど介護離職のリスクも高まる

家制度が強かった時代は嫁が婚家の義両親の介護を一手に引き受けていた。女性は専業主婦が大多数であったし、マネジメントポジションにある女性は極端に少なく、女性の就労は代替可能な腰掛けとして扱われた。男性は家の外で働き、女性は育児、介護を含めて家内全般を取り仕切るのが一般的だった。

今日では、「会社を辞められては困る」ポジションに男女問わず就き、介護は実子が主として行うことが当たり前になっている。人口減少の中で、一人が担う仕事の重さは平成の頃と比較してはるかに重い。女性活躍推進が進むとこの傾向はますます進むだろう。

ダブルケアワーカーは女性に限った話ではない。当然ながら、男性も親の介護で仕事をスローダウンしなくてはならない事態は増加するだろうし、事実、近年の男性の介護離職率は大幅に増加している。

今後、晩婚化、そして少子化が進む中で、育児と介護のダブルケアをしながら、仕事量を調整して働き続けなくてはいけない層は大量に出現するのである。ただでさえ人手不足の中で、仕事をスローダウンする人が多く出現することは企業にとっては頭の痛い状態である。ダブルケアで働く人が優秀であればあるほど、企業としては、離職を避けたい。

しかし日本企業の昇進管理は多くの場合、最初から最後まで基本的に同じ労力で働き続けることを前提にして成り立っており、これらの人々を評価するすべを持たない場合が多い。

■“敗者復活ルート“がない日本のキャリア構造

ダブルケア世代の出現に企業はどのように備えるべきなのか。不可欠なのは評価基準を時代に合わせて、より一層柔軟に変化させることである。かなり崩れてきているとはいえども、企業における評価基準は長期雇用が前提で作られてきた。上級職に昇進していくためには毎年複数回ある人事評価でコンスタントに点数を重ねることが重要とされる。一度上位グループから転げ落ちると、元の上位グループには戻りにくい、敗者復活が少ないのが長期雇用を前提とした日本の伝統的なキャリア構造であった。そしてその考え方は現代でも根強い。

敗者復活をルートとして多く持たないキャリア構造では、出産や育児、介護などで働き方をスローダウンさせる必要がある人たちを有機的に拾うことが難しい。

■企業は5年以上の「長期評価」を導入するべきだ

企業は今後さまざまなキャリアパスを作ることをより一層求められる。その際に基盤となる考え方として、さまざまな評価軸の中に、6~10年を一つの評価期間とする長期時間軸を入れることが必要となろう。

個人の働き方とパフォーマンス
個人の働き方とパフォーマンス(図表=高田朝子『女性マネージャーの働き方改革2.0』)

ある程度長いスパンでの評価があるということは、時が満ちたら反転攻勢に出るルートがあることを示す。本人にしてみれば、今数年はダブルケアで時短勤務を取っているけれども、落ち着いたらこのスローダウン分を取り返すと考えることができる。図表の青い部分はダブルケアでアンダーパフォーマンスだが、いろいろ落ち着いた後、フルタイムに復帰して赤のオーバーパフォーマンスとなる。長期の時間軸をとると、赤い部分の面積が結果的に青い部分の面積を上回る。数年の時間軸では期待以上のパフォーマンスを出していることになる。

高田朝子『女性マネージャーの働き方改革2.0』(生産性出版)

もちろん、短期評価で最大の給与を求める嗜好性の人にとっては長期評価軸は好ましくないだろう。そもそも、産休、育休、時短などさまざまなライフステージの人と、短期評価でガッポリ稼ごうという人々を、公平性の名の下に同じ評価軸で評価する現行の制度自体に無理があるのだ。

長期にわたって毎回連続して高評価をとり続けなくてはいけない状態は、人を追い詰める。長期評価であれば、自分のキャリアを諦めることなく、時期が来たらフルスロットルに入ることができるという希望を持つ。自分で働き方をコントロールできることの方が、本人のモチベーションの維持という点では有効である。人口減少と結婚と出産の高齢化で、ダブルケア人口は今後ますます増加するだろう。そこでの取りこぼしを少なくするというのは、企業にとっても合理的行動といえるのではないか。

----------

高田 朝子(たかだ・あさこ)
法政大学ビジネススクール 教授
モルガン・スタンレー証券会社を経て、サンダーバード国際経営大学院にて国際経営学修士、慶応義塾大学大学院経営管理研究科にて、経営学修士。同博士課程修了、経営学博士。専門は組織行動。著書に『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈のできる人 人は誰のために「一肌脱ぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、新刊『女性マネージャーの働き方改革2.0 ―「成長」と「育成」のための処方箋—』などがある。

----------

(法政大学ビジネススクール 教授 高田 朝子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください