橋下徹「憲法改正で公文書保存の原則つくれ」
プレジデントオンライン / 2019年12月25日 11時15分
■なぜ野党による追及は功を奏さないか
野党は桜を見る会を題材に安倍政権の追及を強めたが、各社世論調査によると12月の内閣支持率は50%(日経新聞・テレビ東京)から38%(朝日新聞)で、おおむね40%台を維持している。桜を見る会の追及前よりも若干下がったものの、国民は政権交代を求めているほどではない。そのことは野党の支持率が伸びていないことでも裏付けられる。
結局、野党の追及の仕方は功を奏していない。
それはこれまでも繰り返し述べてきた通り、野党は不正の裏付けがないにもかかわらず安倍政権は不正だという雰囲気を出すことに精いっぱいとなっているだけで、国民はこの点を見抜いているからだ。
野党は、不正の裏付けがないのであれば、不適切な事案としての追及の仕方に変えなければならない。
それは、政権与党に反省・謝罪させ、今後どうするのかの改善策を野党自らが提案することだ。
(略)
■保存期間経過後も文書を廃棄する義務はない
民間に適用される個人情報保護法には、保有する必要のなくなった個人情報は、速やかに消去する努力義務が定められた。しかし行政機関に適用される行政機関個人情報保護法では、行政機関にそのような努力義務は課さなかった。
つまり、民間の場合には情報漏洩のことも考えて、必要のない情報は消去すべきだという要請が働くのに対し、行政機関の方では、そのような消去の要請は働かない。
(略)
ただし、紙の情報は保管場所が必要になる。もちろん行政が金をかけて特大級の保存館(管理館)を作ればいいという考えもある。僕はそのような立場だ。僕はしょうもないハコモノ施設や災害対策名目の過大な公共工事に莫大なお金をかけるくらいなら、超特大級の公文書管理(保存)館を建設することの方が、よほど日本のためになると思っている。
(略)
だいたい保存期間というのは、その期間が経過したら直ちに消去しろという意味で定められているわけではない。保存期間経過後は劣化したり紛失したりしても責任を問わないという意味だけで、保存期間経過後も劣化や紛失がない限りずっと保存されることが本来の姿だ。
日本政府も、公文書管理のやり方について、このようにその思想を抜本的に改め、「原則すべて保存する」ということにすべきだ。ただし紙の書類については、保管場所のことを考えて、メモや軽微な書類については、一定の保存期間経過後、廃棄することも可能とする。また保存期間経過後は紛失したとしても責任を問わないという免責を与えるだけで、わざわざ廃棄する義務まで課さない。
それ以外の記録・情報は、すべて保存。保管場所やその後の検索のことを考えれば、これから情報は全て電子データ化すべきである。そして電子データには保管場所のことを考える必要はないので保存期間などを定める必要はない。そうすれば、保存期間経過後わざわざ電子データを消去するという無駄な作業も発生しない。
これくらいの大きな方針転換を打ち出すべきだ。
このようなルールや職員意識が徹底すれば、「桜を見る会」が終了したからといって、せっせせっせと招待者名簿を廃棄する作業をやることはなくなるし、仮にルールに基づいて廃棄作業に入ったとしても、野党から資料提出要求があれば、廃棄作業はストップすることになるだろう。
(略)
■個人データは「保存するが、公開しない」ルールで
必要以上に個人データを保有することや残すことには漏洩のリスクがあるので、必要がなくなったもの=保存期間を経過したものは積極的に廃棄すべきであるとの見解もある。しかし、情報漏洩のリスクくらいにきちんと対策を講じられない日本政府が、軍事力をはじめとする国家権力を適切に行使できるのであろうか?
これから世界は、データ覇権戦争に突入する。データを握り、活用できる国が勝つ。国防の分野でもそうだ。
そのような時代にあって、政府保有の記録・データが簡単に漏洩するようでは、国家として成り立たない。ある程度の重要性のある記録・データは、きちんと永久保存できるくらいの日本政府組織というものを目指さなければならない。
そして個人情報を保存しているからといって、それを全て公開するかどうかは別問題である。保存することと公開することはまったく別のことであり、保存していても公開になじまない個人情報は公開すべきではない。逆に公開になじまないからといって、どんどん廃棄すればいいという話でもない。
(略)
■維新・足立議員の「公文書管理館を憲法に明記」案に大賛成
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/3/200/img_3323ee99d713efecc791ee102205b7bd313400.jpg)
公文書管理についての日本政府の思想を抜本的に改めようと思えば、まさに憲法を利用することが極めて有効だ。
ちまちまと個別に細かな法律を作るのではなく、国家の骨格として憲法に公文書管理の思想を定める。国家を一気に動かすものがまさに憲法だ。
公文書管理館を憲法に明記したらどうかというアイデアは日本維新の会の足立康史衆議院議員が提唱している。僕は大賛成だし、これこそ野党が国民の支持を掴む重要な戦術だと思う。安倍政権の不正にこだわるのではなく、自民党にはできない大胆な提案。
まず公文書管理館を憲法に明記して、憲法機関にする。現在明記されている国会、内閣、裁判所、会計検査院という機関に加えて、公文書管理館も憲法機関にする。民主国家を支える重要な国家機関だとはっきりと位置付けるんだ。
その上で「国家権力が動いたことの記録は原則全て保存する」という趣旨の一文も憲法に明記する。これを公文書管理の根本思想とする。そして、保管方法、保存期間等の技術的事項は法律で定めることにする。
(略)
憲法は国家組織に対する国民からの命令規範である。すなわち、国家組織は憲法に従わなければならないし、憲法に沿う法律がなければ、それを作らなければならない。通常の法律は、それを作るかどうかは国会議員の裁量に委ねられるが、憲法に方針が明記されると、その方針に基づいた法律を作らなければならない義務が国会議員に生じる。裁判所も憲法に沿うルールを作らなければならないことになる。各国家機関が法律や内部ルール(規則)などでちょこちょこと個別対応するよりも、国家権力に携わる者の意識を一気に変え、国家の根本哲学として「記録・データは原則すべて保存すべき」ということを根付かせるためには、憲法改正を利用すべきだ。
不磨の大典のごとく、何も変えずに奉り続ける存在が、憲法なのではない。憲法とは国民が国家を動かす道具だ。
(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万1200字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.181(12月24日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【桜を見る会問題(5)】データ廃棄を「罪」とは思わない日本政府の意識を変えるためにすべきこと―憲法改正―》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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