SNS初心者が2年でフォロワー13万の衝撃
プレジデントオンライン / 2019年12月24日 9時15分
■30歳を前に、自分にしかできない仕事がしたい
櫻井さんが、10年間勤めたアパレル会社を退社し、フードコーディネーターの道を歩み始めたのは4年前。商品販売の仕事に不満はなかったけれど、30歳を前に将来を思い描いた時、自分にしかできない仕事をしたいという思いに駆られるようになった。
そんな時に姉が出産し、幼稚園の先生をしていた実母を頼って、ママ友と一緒に子連れで実家に集まる機会が増えた。子ども好きの櫻井さんもその輪に加わり、ベビーシッターをしながらママたちの会話に耳を傾けると、子どもの食事について不安や悩みを訴える声が多く聞こえてきた。
食に関する正しい知識を学んで、伝えていくことで、子育て中のママさんたちを応援できたらいいな。親子で安心して食べられるヘルシーな商品を手がけて、喜んでもらいたい――。
その思いを自分の次のステップにしようと決めた櫻井さんは、一念発起してアパレル会社を退社し、料理学校に通い始めた。
■新しい世界で待っていた厳しい現実
料理学校では、短期間で集中して理論的に知識と技術を学び、フードコーディネーター、食育インストラクターなど、4つの資格を取得。とはいえ、就職のあっせんまでは期待できず、修了後の仕事の口は自分で探すしかなかった。
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ハローワークで仕事を探すも、かろうじて見つかったのは、フードコーディネーターのアシスタント。24時間体制で先生をサポートし、お給料は交通費のみという内弟子のような条件だった。自分でなんとかするしかない――。そう考えた櫻井さんは、レンタルスペースを利用して料理教室を開催してみたものの、すぐに壁にぶつかった。教室に来てくれる人がいないのだ。
「アパレル会社で勤務していた時には、ブランドに知名度があったので、お客さんは向こうから来てくれました。このとき、私は初めてお金もコネも実績もない個人が、人を集めることは難しいということを痛感したんです」
櫻井さんは、自信をなくしなすすべを見失った。
■苦労人のカフェ・オーナーとの出会いが転機に
そんな櫻井さんに手を差し伸べてくれたのが、「MK-CAFÉ」に勤めていた幼なじみだった。櫻井さんの力になろうと、オーナーを紹介してくれたのだ。このオーナーとの出会いが、その後の櫻井さんを大きく変えるターニングポイントになった。
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オーナーは苦労人で、その人生経験は壮絶なものだった。志半ばで亡くなった兄との約束を果たそうと「MK-CAFE」をオープンしたものの、ほとんど客が入らない期間が続き、3000万円の累積赤字を抱えた崖っぷち状態に。そこからSNSが持つ可能性に希望をつなぎ、起死回生の集客を成功させた実績から、SNSプロデューサーとして頑張る人を応援しているのだと耳にした。
「食を通じて、人を喜ばせる仕事がしたい」と語る櫻井さんの熱意を受け止めたオーナーは、店の主力商品である鯖バーガーの新メニュー開発という大役を任せてくれた。さらに、ピンチをチャンスに変えるための切り札として、SNSを活用したセルフブランディングで、自分自身をタレント化する方法をアドバイスしてくれたのだ。
■自分を変えた「7時間ウォーキング」
最初のアドバイスは「自分を応援してくれるファンを作ろうと意識すること」。自分の存在を知ってもらうために、SNSへの露出を途切れさせないことも課題だった。そこから、収益化しやすいインスタを中心に、投稿を続ける毎日が始まった。
「それまでSNSはほとんど使ったことがなく、フォローとフォロワーの違いも分かりませんでした。投稿内容も思い付かず、道ばたを歩いていた猫を撮影したりすることも。面倒くさがりだったこともあり、続けることの難しさを感じていました」
まもなく、櫻井さんはオーナーから「一緒にウォーキングをやらないか」と誘いを受けた。初めは店のある大久保から渋谷まで、片道1時間以上掛けて共に歩いた。やがて自由が丘、さらには横浜と目的地が遠ざかり、ついにウォーキングタイムは7時間に及んだ。
フードコーディネーターの仕事とは全く関係のないことだけに「何のためにこんなことをするのだろう」と疑念がよぎり、もともと運動神経がよいほうでもなかった櫻井さんは、疲れがたまって反発心が芽生えることもあった。
けれど、自分でやろうと決めたのだから、途中で投げ出したくなかった。弱気で受け身な自分を、どうにか変えたかった。今はオーナーを信じて付いて行こう――。そう決めた櫻井さんは、7時間のウォーキング、SNSへの投稿、鯖バーガーの新メニュー開発を日課として、ただひたすら打ち込み続けた。
そうして、半年が過ぎた頃。ひたむきに続けて来た努力の成果が表れ始めた。
■「腹筋」と一緒に鍛えられたもの
まず変化したのは肉体だ。ウォーキングと同時期に始めた筋トレの効果も加わって全体的に引き締まり、腹筋が目立つようになった。有酸素運動と筋トレのダイエット効果を実感してうれしくなっていたところ、「その腹筋は、発信して人に見せた方がいい」とオーナーから強く勧められた。恥ずかしさに戸惑いながらも、トレーニングウエアの自撮り写真を投稿してみたところ、瞬く間にフォロワー数が3万人増えた。
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それこそがオーナーの狙いだった。鍛え上げられた腹筋のインパクトは大きい。その人が長期にわたって努力を継続してきたことの証しだ。しんどくて人が敬遠しがちな努力をひたすら続ける姿は、勇気と感銘を与え、自然と応援の気持ちを呼び起こす。フードコーディネーターとして活躍し、エプロン姿が似合う癒やし系の櫻井さんから受けるイメージとのギャップも、多くの人の興味を刺激するのに功を奏した。
「声のトーンが高く、やわらかいイメージが強かったからか、企業の年上の男性に向けて鯖バーガーをプレゼンする際、どこかなめられているような上から目線の対応をされることが多かったんです。それが、腹筋バキバキの投稿が話題になったことで、信頼も得られるようになっていきました」
「面倒くさがりのうえ、運動神経がない。それだけではなく話すことも苦手だったんです」と苦笑する櫻井さん。ウォーキングは、腹筋以外にも、数々の副産物をもたらした。一緒に歩く間は会話しかすることがないので、必死になって頭を回転させながら話題を見つけ、話をつないだ。自然と質問力やトーク力が身に付き、苦手だったプレゼンやイベントでのMCが苦も無くこなせるようになっていた。なによりメンタルが鍛えられ、「やる気になればなんだってできる」という大きな自信を手に入れた。
■時間をかけて信用を積み上げていく
櫻井さんのイメージアップは、鯖バーガーの注目につながり、イベントに合わせて数々のコラボ商品が生まれた。メディアでも取り上げるようになり、一緒に記念写真を撮った著名人が自発的にSNSで紹介してくれることで、人が人を呼んだ。
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話題性が増すごとにフォロワーの数もうなぎ上りで、インフルエンサーとしての影響力を見込まれ、企業からのPR案件なども舞い込むようになった。そんな櫻井さんの成長を喜び、前に勤めていたアパレル会社の社長が、1日20万規模の人が集まる野外イベントでの出店に口添えしてくれたりもした。
極め付きが、クラウドファンディングの成功だ。自分を引き上げてくれたオーナーに恩返しがしたいと、MK-CAFÉのリニューアル資金を募ったところ、1週間で300万、最終的に1060万円もの支援金が集まった。
「お金は、私ひとりで集めたものではありません。MK-CAFÉのスタッフそれぞれが、店での出来事を継続的に発信し、応援してくれるファンを増やしてきました。そうやって時間を掛けて積み上げてきた信用が、お金に替わったのだと思っています」
■誰でも真似できる、3つのポイント
一般の人が持つ、インフルエンサーの華やかなイメージとは裏腹に、フォロワー13万人の裏にはこうした地道な努力があった。
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「SNSは、始めてしばらくは鳴かず飛ばずの時期があります。手応えが得られるまでに少なくとも半年はかかると思います。私もアドバイスをいただきながら『毎日少しずつ』を何百回と繰り返してきました。そのアドバイスの一つが、毎朝決まった時間にあいさつの投稿をすること。投稿を習慣化することが難しい場合は、あいさつの投稿だけはしっかりやるというところから始めてみてもいいのではないでしょうか」
櫻井さんは、地道な努力を続けること以外にもう2つ、SNS活用のポイントを話してくれた。
「SNSを活用する目的をしっかりもつことが大切です。私たちの場合、フォロワー数を増やすことが目的ではなく、どれくらいお店に来てくださるか、どれくらいイベントに参加してくださるかを大事にしています。そしてもう一つのポイントは、SNSはチーム戦ということです。MK-CAFÉは、ほかのスタッフもそれぞれにフォロワーが多いインフルエンサーですが、イベントを開催するときなどは、互いに送客しあって相乗効果を出しています」
商品やサービスのマーケティングの一環として、SNSの活用やイベントの集客で工夫をしたいと考えている人には参考になるはずだ。
■続けたからこそ、今がある
「遠回りのように見えて、ものすごく近道だったような気がします」
SNSを始めたばかりの時には思いもかけなかった自分が、そこにいた。新たな挑戦にも意欲的で、フルマラソンにも挑戦しているという。「いつも歩いていた距離を、走ればいいだけですから」。そう語った櫻井さんの笑顔は、自信に満ちあふれていた。
心と体を鍛える努力を続け、自分の強みにしたこと。その姿を恥ずかしがらずに発信したこと。そのひたむきさが、熱心に応援してくれるファンの獲得につながり、櫻井さんの今を輝かせている。まさしく継続が力になったのだ。
今は自信がなくても、周りを見渡せば、客観的な視点から、自分では気づかないような自分の良さを見つけてくれる人はいる。それを強みとして育ててみる。そこから道が開けるかもしれない。
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フードコーディネーター
1986年生まれ。フードコーディネーターとして企業の商品開発、カタログ撮影、ケータリング、イベント登壇など幅広く活動。定期的にトレーニングに励み、食と運動を通して健康の大切さを発信する。
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(フードコーディネーター 櫻井 優)
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