1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

日本企業を苦しめる「課題解決」という深刻な病

プレジデントオンライン / 2019年12月19日 15時15分

フィールドマネージメント代表の並木裕太氏 - 撮影=三浦 咲恵

コンサルタントは課題解決のプロだ。だが、そもそも依頼する「課題」が本質的なものでなければ、本領は発揮できない。マッキンゼー出身で、フィールドマネージメント代表の並木裕太氏は「課題が『幹』か『枝葉』かを見定めなければ、事業は成功しない。そのために僕はある手法を編み出した」という——。

■週に一回は「だらだら」話す

だらだらと話す。

これは僕が仕事で大切にしていることです。

コンサルタントは企業の持つ「本質的なアセット(資産)」がわからなければ事業を成功に導くことはできません。そのためには中で働く人との継続したコミュニケーションとその絶対量を増やすことです。

何が好きで、何が嫌いなのか。どんな理由で、過去に重要な意思決定をしてきたか。僕はクライアント企業の経営者と週に一度くらいのペースで、特にゴールを設けることなく話し合っています。経営層が難しければ社員の方でもいいです。

ただし、その企業のことをよく知る経営者と話した方が本質的なアセットに早くたどりつける可能性が高い。中で働く人のリアルな情報からどんな会社なのかをつかむことが目的です。

でも、コンサルタントの多くの仕事では、本質的なアセットに到達しづらい。それは与えられた課題に対する答えを出すだけの単発のプロジェクトがほとんどだからです。全体像がわからないから、その問いがクライアントにとって「重要な課題(幹)」なのか、それとも「瑣末(さまつ)な課題(枝葉)」なのか、判断することができなくなってしまう。

■「真に感謝される」ことを実感したかった

僕もマッキンゼーで働いていたとき、担当するプロジェクトによっては「自分の仕事の成果がよくわからない」と感じることがありました。一生懸命に解いている課題が、幹か枝葉かもわからず、手応えがない。しかも問いの答えを出し終わったらコンサルタントの役目は終わり。その後の成果は、数カ月後に新聞記事をたまたま読んで「あぁ、あの事業、成功したんだ」と知るくらいのものもありました。

これではクライアントから「真に感謝される」仕事はできない。もっとコンサルティングというサービスは進化できるはずだ。そんな思いがフィールドマネージメントの創業につながっています。

撮影=三浦 咲恵
並木氏が自身の体験から定めたフィールドマネージメントの6つの理念 - 撮影=三浦 咲恵

そして起業後。僕は大手コンサルの3分の1のリソースで、3つの提案をし、3倍の期間クライアントと一緒にいるという手法を試みることにしました。

たとえばAという課題を3カ月で解決してほしいという依頼があったとします。僕らはそれを大手と同じ人員で受け持ち、最初の3カ月でAに対する方向性を提示します。ここでは大手が300ページの完璧なパワポを用意するとしたら、クライアント企業の意思決定に必要なポイントをついた100ページのパワポでいい。

その次の3カ月ではクライアント企業全体の課題を整理し、最後の3カ月で課題を幹と枝葉に分けて解いていく順番までを含めて提案します。3分の1のリソースしか使わないから予算も他社と変わりません。

■「トリプルキューブアプローチ」と「ズラシ戦略」

「トリプルキューブアプローチ」と名付けたこの手法をクライアントに提案すると、多くの経営者に共感してもらい、結果が出ただけでなく、クライアントとの付き合い方も変わってきました。創業から10年経った今では継続してお付き合いしているクライアントがほとんどです。その組織の本質的なアセットもわかっているから、それを活かした新規事業の創出を手がけることも増えてきました。

“新規事業”と言ってしまいましたが、なんだか会社の命運を賭けたような肩に力が入った言葉ですよね。だから僕たちはこれを「ズラシ戦略」と呼ぶことにしています。自分たちの得意技をほかのところで使うだけ。そうすることで新たな顧客を獲得できる可能性が高くなるのです。

このアプローチはコンサルタント以外の職種の方にも役立ちます。新しいビジネスを立ち上げたり、インパクトのあるビジネスを生み出しやすくなります。

■「まぐれ当たり?」といわれたミクシィの戦略

成功している新しいビジネスは往々にして「ズラシ」ています。まぐれ当たりにみえるものでも、構造を分析するとその企業の本質的なアセットを活用している。日本のSNSの草分け的存在であるミクシィの例でみるとよくわかります。

ミクシィは2004年にSNSの「mixi」を世に送り出すと大ヒットとなり、06年には上場をはたします。しかしその後は、08年に日本語版を開設したFacebookなどの多様なSNSの普及とスマホ対応への遅れなどが原因となり業績は停滞。

撮影=三浦 咲恵

そこで起死回生の大ヒットになったのがスマホゲーム「モンスターストライク」(モンスト)でした。13年10月の発売後、売上高は2014年度の121億円から2015年度の1129億円、2016年度の2087億円へと約10倍、20倍と跳ね上がっていきます。

そのため、ミクシィは世間からは最初の「mixi」のブレイクで「一発屋」、次にモンストが当たると「2回もまぐれ当たりを出した」という見られ方をしてきました。でもサービスやゲームのヒット要因をまぐれで片づけていたら、次にヒットを出そうとしたときに運頼みになってしまいます。

組織には必ずDNA、得意技とも呼ぶべき本質的なアセットがあるので再現性を持たせるために見定めるべきです。

■「モンスト」は偶然ではなく、必然的なヒットだった

では、ミクシィの本質的なアセットは何でしょうか。実はそれを「ズラシ」て完成したものこそが2回目のヒットになった「モンスト」でした。

mixiが広まった経緯を振り返ると次のようになっています。

ある人が「mixiっていうおもしろいサービスがあるよ」と友人に勧める。

友人もまたmixiの楽しさを知り、別の友人に「これ、面白いからやってみなよ」と勧める。

①②の連鎖によって若者を中心にあっという間に浸透。

これらの要素を抽出すると、ミクシィの最大のアセットは「口コミをマーケティングに活用する」ということでした。口コミを発生させるためには利用者と紹介を受ける人の間にコミュニケーションの機会がなければなりません。だからモンストは「携帯端末を持ち寄り実際に会って最大4人まで遊べる」というゲームになった。偶然ではなく、ズラシ戦略だったのです。

撮影=三浦 咲恵

モンストのように口コミで広がるゲームは時間軸とともにユーザー数が増えていくことが特徴です。これはプロモーションによってリリース直後がピークになるオンラインゲームとは逆の軌道になります。

モンストのリリース直後の月商は1000万円程度でしたが、おおむね7倍ペースで推移しました。16年に月商150億円前後をコンスタントにたたき出すと加速度的に広まっていきました。

■ズラシ続ければ、インパクトは生まれる

さらに僕がモンストの生みの親である木村(弘毅)社長やミクシィの社員と話していると、mixiとモンストの2つの成功事例には「最初は無料で参加できるけどいつのまにかクセになってしまうこと」など共通点があることも分かってきました。木村社長はよく言います。

並木裕太『ズラシ戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「うちの強みは、バイラル(コミュニケーションにより広がる)であり、フリーミアム(最初は無料からの課金)のビジネスモデルなんですよ」

本質的なアセットを見つめ直して更新すること。これが次のヒットの創出にまたつながっていきます。

新規事業をはじめとしたインパクトのあるビジネスを生むことは決して難しいものではありません。組織の中に眠ったままの資産や可能性を秘めたスキルを認識できていないだけ。それさえ見定めることができたら、あとはちゃんとズラシて、試し続ければいいのです。

----------

並木 裕太(なみき・ゆうた)
フィールドマネージメント 代表取締役
1977年ベルギー生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ペンシルヴェニア大学ウォートン校でMBAを獲得。2000年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。09年にフィールドマネージメント設立。日本航空やソニーといった日本を代表する企業のステップゼロ(経営コンサルティング)を務める。15年MBA母校のウォートン校より、40歳以下の卒業生で最も注目すべき40人として、日本人で唯一「ウォートン40アンダー40」に選出。スポーツ分野では、プロ野球オーナー会議へ参加し、ジャイアンツやファイターズ、イーグルスなど、多数のチームビジネスに関与。現在、Jリーグ理事。18年12月、経営人材採用のためのWEBメディア『STAY TRUE Sign UP』を開設。著書に『ズラシ戦略』『コンサル一〇〇年史』など。www.field-mgmt.com

----------

(フィールドマネージメント 代表取締役 並木 裕太 構成=梅澤 聡 )

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください