脳内科医が「電車では端の席を避けろ」という訳
プレジデントオンライン / 2019年12月24日 9時15分
※本稿は、加藤俊徳『脳にいい! 通勤電車の乗り方 脳内科医がズバリ解説』(交通新聞社新書)の一部を再編集したものです。
■席が空いても「座らない」が正解なワケ
(車内で)立つ vs 座る。二つの動作のうち、どちらが脳を活性化するでしょうか?
正解は「立つ」動作です。
人間は「立つ」ことで、運動系脳番地だけでなく脳の小脳や前頭葉の視覚系や思考系にある姿勢保持を調節するための「脳番地」を働かせています。
脳番地とは、脳の働きを大まかに8つの機能(運動系・記憶系・感情系・伝達系・理解系・視覚系・聴覚系・思考系脳番地)に分類し、名付けたものです。脳番地を意識することで、脳全体の成長、能力開発ができるようになります。
電車の振動によって身体が左右に揺れても、体勢を崩すことなく立っていられるのは、右足は左の頭頂部、左足は右の頭頂部にある運動系脳番地を活発に動かしながら、それを大脳の右脳と左脳をつなぐ「脳梁」と呼ばれる神経線維の束や小脳を働かせて、左右の足への力の入れ具合を微妙に調節するからです。
このように、電車内で「立つ」ことにより脳のさまざまな部分が活発に働いてバランスをとることで、脳全体が刺激され、脳の活性化を促進することができます。
さらに、足裏を刺激しながら立つと、運動系脳番地の背後に接している感覚系脳番地に影響を与え、感情系脳番地を刺激して脳をより覚醒させることができます。たとえば、その場で軽く足踏みをして立つと、足の裏がマッサージされ、楽になったり気持ちが良くなるのは感覚系を通じて感情系が刺激された結果なのです。
■「立つ」動作が自分の意志を鍛える
一方、「座る」という動作は、身体の下半身を動かす運動系脳番地を使うことが少なく、刺激が限定的になります。そのため、座ったら力が抜ける、眠くなるという状態に陥ってしまい、最寄りの駅に降りるまで、頭が働かない状態になってしまいます。
ただ、水平に見たり見下ろしたりする「立つ」動作と違い、「座る」と下から上を見上げるように視野が広がります。視覚系脳番地の刺激に変化をつけたいときには、立ったり、座ったりするのも効果的です。
ちなみに「立つ」動作には、自分の意志を鍛える効果もあります。揺れの中でも何とかバランスをとろうと思考系から運動系へ指示を出すので、思考系脳番地が鍛えられます。その他にも、立って身体を動かすことで、その日の身体の調子も把握できたりするので、やはり「立つ」ことでの効能は大きいと思います。
■真ん中の席で無意識の気配り、注意力を鍛える
端の席に座る vs 真ん中の席に座る。どちらのほうが脳を活性化するでしょうか?
これは、「真ん中の席」を選んだ人が正解です。
端の席に座っている人に比べて、周囲の人と関わる頻度や、交差する視線などが圧倒的に多いのが「真ん中の席」。無意識ながらも周囲への気配りが頻繁に行われるので、視覚系脳番地や感情系脳番地などの働きを高めることができます。中でも、「注意力」に関わる理解系脳番地は他の脳番地以上に活発に動くので、鍛えられます。
実は人それぞれ、見ている(注意している)方向には偏りがあります。右利きの人なら右側に、左利きの人なら左側に注意がいきがちです。
私たちの身体は、普段使わない部位には注意が向きにくいようになっています。たとえば、足の爪。普段から靴下を履くときに視界に入るはずなのに、「あ、引っかかる」と思って久しぶりに見ると爪が伸びていた、という経験があるのではないでしょうか。だから、右利きの人なら身体の左側がぶつかりやすい、というような傾向にあります。
「半側空間無視」という高次脳機能障害を聞いたことがあるでしょうか?
脳梗塞が起きると、目では見えているのに片側の空間にある人やモノが認識できなくなるという障害です。お茶碗にあるごはんを半分残したり、認識できないほうから話しかけられると反応できなかったりします。
これは、脳の片方の機能(多くは右脳の理解系脳番地)が損傷することで起こりますが、機能が損傷しなくても、普段からあまり使わないことで機能が衰え、片側にしか注意が向かなくなるといったことは日常的に起こりうることです。
そこで、「真ん中の席」に座り、右利きなら左側を、左利きなら右側を主に意識して見てください。脳の衰えている(弱い)部分を鍛えることができます。それによって、ケアレスミスを解消できたり、人の心の機微を汲(く)みとれたり。
店長や支店長など組織をまとめるような上の立場の人であれば、俯瞰的に店舗やオフィスを見渡したときに、気づくことも増えてくるようになります。ぜひ、電車内では率先して「真ん中の席」を選択してみてください!
■「何もしない」が眠っている能力を引き出す
(満員電車では)何もしない vs 文字を読む。どちらのほうが脳を活性化するでしょうか?
正解は「何もしない」です。
満員電車の中は、自由に動けないことによる身体的負担や、人と人との距離が近すぎることでの心理的ストレスなど、刺激にあふれています。集中して「文字を読む」ことで、それらの不快な刺激をシャットアウトすることも可能ですが、脳番地を鍛えるという意味では実は「何もしない」ほうが効果が大きいといえます。
普段忙しく毎日を過ごしている人であれば、満員電車であっても、少しのすき間があればスマホを見たり、本や新聞を読んでいるのではないでしょうか。
そういう、学びの習慣が身についている人にとってはむしろ、「何もしない」ということは初めての経験に等しいことなので、脳にとっては大きな刺激となります。
実際「何もしない(立ち止まる)」ことは、普段、すぐにスマホの中の活字に目がいく脳習慣を断ち切る意味で、何らかの動作をするのと同じくらい思考系脳番地を使い、前頭葉が非常に活性化します。
普段コーヒーを1日5杯飲んでいる人が、1週間飲むのをやめてみるのと同じくらい、脳の癖になっている衝動を抑えるために、思考系脳番地が働くのです。
■呼吸に専念し、脳が正しいリズムを取り戻す
不快な状況では「何もしない」ほうがいいとはいえ、何かの物に頼らず、自分の呼吸に意識を向けて腹式呼吸を行いましょう。ゆっくり、ゆったり、リラックスして呼吸することで、脳が正しいリズムを維持します。
私たちの脳にあるリズムは、ホルモンのリズム、サーカディアンリズム、食事のリズムなど、さまざまなリズムに影響されており、それらが複合してできあがったものです。しかしこのリズムが、睡眠不足や不規則な食事、運動不足などの影響で崩れてしまうと、不眠症やうつ病、高血圧、肥満などを発症するおそれがあります。
何もせず呼吸に専念することで、脳は正しいリズムをつくり、それによって回復力が高まり、体調も良くなっていきます。そして、朝からしっかりと覚醒できる身体に生まれ変わります。
実は、「何もしない」時間をもつことも、あなたの脳の中で眠っている能力を引き出すために必要な要素なのです。
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脳内科医・医学博士
1961年、新潟県生まれ。脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。胎児から超高齢者まで1万人以上を加藤式MRI脳画像診断法を用いて治療。脳の特徴を知ることでいくつになっても脳を成長させることができる「脳番地トレーニング法」を提唱。著書に『脳の強化書』(あさ出版)、『50歳を超えても脳が若返る生き方』(講談社)、『片づけ脳――部屋の頭もスッキリする!』(自由国民社)など多数。
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(脳内科医・医学博士 加藤 俊徳)
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