"やんわりマタハラ"に騙されないための3か条
プレジデントオンライン / 2019年12月25日 11時15分
■なぜマタハラの相談が増えているのか
妊娠した女性社員が、会社から退職勧告を受けたり、意に添わぬ配置転換をされたりする「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」の相談が急増しています。しかし私が思うに、これは一見増えているように見えるだけで、本当に増えているわけではないと思います。
マタハラという呼び名こそ最近のものですが、昔からマタハラ自体はありました。そしてマタハラをされた女性のほうも、「仕方がない」「そういうものだ」と受け止めてきた。しかし女性の社会進出にともなって人々の意識も変化してきます。2016年には産休や育休を取る社員に対して不利益な処分をすることを禁ずる、女性活躍推進法という法律ができました。そして17年に男女雇用機会均等法で、「会社側が(マタハラを含めた)ハラスメントを防止する措置を講じなさい」と定められてからは、さらに相談件数がどっと増えた印象があります。つまり法整備が進んだことで、隠れていたマタハラが明るみに出つつあるということなのでしょう。
■意外と大企業のケースが多い
それでは具体的には、どのようなマタハラが行われているのでしょうか。
さすがに「妊娠した」というだけで、いきなり解雇を言い渡されることは、ほとんどないようです。実際に相談に来られるケースで一番多いのは、「育休の申請をしたら、辞めてほしいと言われた」というもの。実は産前産後の休業は、労働者の正当な権利として労働基準法で認められています。しかし「お子さんが生まれたら仕事と子育てを両立するのは大変でしょう」などと言って、やんわりと退職に持っていく会社が非常に多い。
その次に多いのが、派遣社員であれば「契約更新しない」というケース。役職がついていたのにそれをはずされるなどの「降格」も目立ちます。その次に多いのは、給料を下げる「減給」、「人事評価でマイナスの査定を行う」など。「正社員だったのに非正規社員にされる」というケースもあります。
このようなマタハラは、子育てを支援する制度が整った大企業には少ないイメージがあるかもしれません。しかし私の経験では、どちらかというと大企業のほうに多いようです。人材に余裕のある大企業ほど「女性社員は妊娠したら辞めるもの」という古い風土が残っているということがありますし、またこの2~3年で法律がどんどん変わっているため、まだ対応しきれていないというケースもあります。
■わかりやすいマタハラはほとんどない
気をつけてほしいのは、さきほども言ったように、「妊娠した以上、いますぐ辞めてもらいます」というような、わかりやすいマタハラは現実にはほとんどないということです。むしろ、「これから出産や子育てで大変でしょう。もっと楽な部署に移ったら?」とか、「正社員のままじゃ、子育てできないんじゃない?」というように、やんわりと退職や異動、降格などを勧められるパターンが圧倒的に多いのです。
本人も出産後について多少なりとも不安に思っているところへ、そのように言われるとつい承諾してしまう。そしてあとで冷静になってみると「あれ? なんかおかしい」と気づく。それで会社と揉め始めると、職場に居づらくなったり、出産が近づいて休みに入らざるを得なくなる。揉めている間は会社に行っていないことも多いので、それを理由に解雇されることも少なくありません。
あるいは育休明けに会社に戻ってみたら、望まない部署に異動させられていたとか、別の支社に転勤になっていたということもあります。本来であれば会社には、産休や育休をとったことで賃金、労働条件、通勤事情、本人の将来に及ぼす影響などについて不利益をこうむることがないように考慮する義務があります。
私たち弁護士が介入する場合は、この異動や転勤が、不利益か不利益でないかが争点になってきますが、ここまでくるともはや会社と対決姿勢になるのは必至。会社との関係がギスギスしたものになることも避けられません。できればそうなる前に、どんな予防策を講じられるかを考えてみましょう。
■マタハラの動きを感じたらすべきこと3つ
まず、「これから子育てと仕事の両立は大変でしょう」などと、一見、女性を思いやったような言葉をかけられ、マタハラをされそうな動きを嗅ぎとったら、すべきことは3つあります。
まず、「辞めることは考えていません」「いまの職場で働き続けたいと思っています」など、申し出を拒絶する意思表示をするか、「持ち帰らせてください」といって、その場で返事をしないことです。
次に「降格する」「減給する」などといわれたらその理由をちゃんと聞き、できれば書面で回答してもらいましょう。そうすることで弁護士などの第三者が、その処分が適法か不適法かを検証できるようになります。
3つめに、降格や減給などの処分が、誰の判断によるものなのかを確認することが極めて重要です。なぜなら会社側の正式な判断として示されている場合もあるかもしれませんが、ただの上司個人の判断の場合もあるからです。もし会社側の正式な判断としてその処分をするのであれば、正当な事由が必要になりますから、「回答書」などの文書にまとめてもらうことが不可欠です。
もしかしたらその回答書には、「妊娠する前から彼女は勤務態度が悪かったから辞めてもらう」というような、身に覚えのないことが書いてあるかもしれません。だとしたらそれはマタハラをごまかすために取り繕った理由の可能性もあります。私の経験からいえば、弁護士がそこを突けば、大企業ほど簡単に譲歩してきます。
■マタハラを予防できる妊娠報告の方法
これから妊娠するかもしれない女性がマタハラを防ぐために大事なのは、妊娠したなら妊娠したという事実を早めに告げ、働けない時期や期間の予想をあらかじめ会社に伝えておくことです。そうすることで、会社も欠員を埋める方法を考える時間ができる。「妊娠・出産はプライベートなことだから、ギリギリまで言いたくない」と思うかもしれません。しかし、だからこそなおさら、上司から尋ねるわけにはいかないことなのです。
いきなり妊娠を告げられた会社は、「妊娠5カ月ね。じゃああと2年くらいは働けないでしょう」などとざっくりとした判断を下すことがあります。そんなとき、「私は何月までは働けて、何月から復帰できると伝えてあります」と主張できれば、自分にとって有利になります。やはり何ごともそうですが、「言い出しにくいことほど早めに具体定に伝えておく」ようにすれば、悪い結果にはなりにくいものです。
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弁護士
2010年慶應義塾大学総合政策学部を経て15年慶應義塾大学法科大学院修了。同年司法試験合格。16年弁護士登録、虎ノ門法律経済事務所所属。18年慶應義塾大学法科大学院助教。2019年銀座さいとう法律事務所開設。離婚や不倫など男女問題に強い。
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(弁護士 齋藤 健博 構成=長山清子 写真=iStock.com)
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