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"一強多弱"有力企業の寡占はいつまで続くのか

プレジデントオンライン / 2019年12月23日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

世界的に進む大手企業による市場寡占

世界経済全体で、一握りの有力企業による市場の“寡占”が進んでいる。言い換えれば、特定の企業が、社会や経済に与える影響が高まっている。

1つの例を挙げると、IT業界では米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が大量の個人のデータを収集し、社会に対する影響力を増大しているケースがある。ほかにも、自動車や航空機など多くの産業分野で同様の傾向がみられる。

寡占が進んできた背景の1つには、世界経済が急速かつ大きく変化していることがある。世界各国で新しいテクノロジーの開発と実用化が“秒進分歩”の勢いで進んでいる。それにより人々の行動様式も大きく変わり、企業を取り巻く競争環境は激化している。対応するために、企業は体力をつけなければならない。そうして多くの分野で大手企業の経営統合や買収が増え、特定企業のシェアが高まっている。

今後も、寡占は続く可能性がある。その中で企業が変化に対応し、持続的な成長を目指すためには、成長が期待される新しい分野に進出し、より付加価値の高い新しい商品やサービスを生み出すことなどが求められる。同時に、企業のイノベーション創出を支えるために、政府が構造改革などに取り組むことの重要性も増していくだろう。

私たちの生活には無視できない影響が及ぶ

寡占が進む業界は枚挙にいとまがない。最も顕著な業界がIT分野だ。米国のグーグルは検索エンジン分野で圧倒的なシェアを誇っている。モバイル端末の検索エンジン分野において、グーグルのシェアは約94%に達している。スマートフォン用OS市場においてもグーグルのアンドロイドは85%程度のシェアを誇る。

ITデバイス、半導体、自動車、造船、金融、医薬品、機械、5Gをはじめとした通信設備など、多くの業界で一部企業にシェアが集中している。世界全体で、競争を優位に進めることのできるシェアやテクノロジーを持つ企業がより多くの需要を取り込んで成長し、その存在感がさらに大きくなる展開が続いている。反対に、変化に対応することが難しい企業は、急速にシェアを落とし、淘汰されてしまうケースが増えている。

寡占が進むと、私たちの生活には無視できない影響が及ぶ恐れがある。その1つに“データの寡占”がある。

2016年の米国大統領選挙の際、米フェイスブックのユーザー約5000万人分のデータが不正に英国の分析会社に取得された。それは、大統領選挙の結果に影響を与えた可能性があると指摘されている。

また、多くの個人や組織が特定の企業が提供するITサービスに依存するようになると、その企業の経営方針などが個人、企業、公的部門に無視できない影響を与えることも考えられる。

データの寡占化を食い止めるために、欧州連合(EU)を中心に大手ITプラットフォーマーへの規制強化に取り組む国は増えている。一方、規制の強化は、企業の成長を抑制し、経済成長にはマイナスに働く部分もある。各国ごとに、規制強化への取り組みには温度差がある。その間も、最先端のネットワーク・テクノロジーの開発などを受けて、企業の優勝劣敗は鮮明化し、寡占が進んでいる。

寡占化を後押しする不確定要素

世界経済を取り巻く不確定要素が増えていることも、寡占化を後押しする要因の1つだ。企業が急速な変化や先行きのリスクに対応するためには、どうしても体力をつけなければならない。

最先端のがん治療薬などの分野では競争力ある新薬やその開発に関するテクノロジーの確保、新薬候補(パイプライン)の取り込みなどを目指し、世界の大手製薬企業が買収や提携などをくり返している。このようにして、大企業がさらに巨大化し、寡占が鮮明となってきた。

世界経済が大きく、加速度的に変化している要因として、急速なネットワーク・テクノロジーの開発とその実用化の影響は軽視できない。人工知能(AI)の実用化などに伴い、次から次に新しいデバイスや、サービスが生み出されている。

新しいテクノロジーの登場とともに、人々の生き方も変化する。たとえば、わが国でも自動車のシェアリングが普及している。カーシェアのサービスを利用することで、人々は自動車の所有にかかるコストを抑えられる。同時に、浮き出た資金を用いて趣味を楽しむなど、より満足度を高めることもできる。

■企業が長期存続するためにやるべきこと

見方を変えれば、浮き出た資金を引き寄せられるだけの魅力あるモノやコトを生み出さなければ、企業が長期の存続を目指すことはむつかしくなっている。この結果、企業間の競争が激化し、対応力をつけるために事業規模の拡大が重視されている。

それだけではない。世界経済の基礎的条件=ファンダメンタルズも変化している。まず、世界各国および企業が一大消費市場として注目してきた中国経済は成長の限界を迎えた。中国では、生産年齢人口が減少し、世界の工場としての地位も低下している。同時に、中国政府は国有企業などに補助金を支給し、IT先端分野を中心に世界シェアの拡大に取り組んでいる。

米国ではトランプ大統領が企業の国内回帰を目指している。また、米国はIT先端分野で中国と覇権国の地位を争うなど、世界全体で供給体制が混乱している。そのほか、中東の地政学リスクなど世界経済の不確定要素は増大傾向にある。それに対応するために、大手企業などが体制強化に取り組み、寡占が進んでいる。

寡占を食い止めるために必要な官民の取り組み

今後も、さまざまな分野で大手企業が新しいテクノロジーの研究・開発を進めたり、競合企業を買収したりすることによって、より大きな市場シェアを手に入れる可能性がある。市場の寡占度はさらに上昇し、特定企業の影響力がより強くなる展開も考えられる。具体的には、特定の企業の価格決定力が強くなり人々の生活に影響が及ぶ、あるいは、経済格差が拡大するなどの展開が思い浮かぶ。

そうした展開を食い止めるためには、企業と、政府の取り組みが重要だ。

まず、激化する競争、加速化する変化に対応し持続的な成長を実現するために、企業は常に新しい取り組みを進め、従来にはない“ヒット商品”の創造を目指さなければならない。人々が「ほしい!」と思ってしまうモノやサービスを生み出すことができれば企業は成長できる。企業が自力で寡占に対応し、成長を目指すには、一部の大手企業以上のエネルギーをもって事業戦略や組織を変革し、新しい取り組みを進めることが大切だろう。

そのためには、企業経営者の役割が重要だ。まず、経営者は自社の強みをしっかりと認識しなければならない。そのうえで、より高い成長が期待できる分野に経営資源を再配分する。同時に人々の多様性を重視し、さまざまな価値観や理論が研究開発などに反映されやすい組織体制を整備する。そうした発想を持つ企業が増えれば、競争は促進されるはずだ。

■企業家のアニマルスピリッツを刺激せよ

企業がイノベーションの発揮を目指すにあたっては政府の取り組みも欠かせない。寡占の進行を防ぐためには、規制を強化する発想に加えて、より大胆に新しいルールや起業支援策などを設け、企業家のアニマルスピリッツを刺激する政策運営が目指されてよい。

それは、特定企業にヒト・モノ・カネが集中しやすい状況に変化をもたらすだろう。政府が規制の緩和などを推進することは、より高い成長期待に基づいて経営資源の再配分が促されダイナミズムに富む経済環境の整備につながると期待される。寡占化を防ぎつつ、富の公平な再分配を実現するためにも、企業が変革を目指し、それを政府がサポートしていくことの重要性は高まっていくだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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