スタバの顧客満足度が低い理由
プレジデントオンライン / 2019年12月23日 15時15分
■フェイクニュースが蔓延しているようだ
原則的に屋内禁煙が義務付けられる「改正健康増進法」の2020年施行に向けて、東京都では禁煙の波が押し寄せている。首相官邸も屋内の喫煙所は撤去された。行きつけの飲食店からも灰皿が消えていく。私のようなヘビースモーカーは肩身が狭いどころか、生命の危機を感じるレベルで追い詰められている。
お酒が好きな人のお酒を禁止したら暴力事件が起きてしまう。しかし、タバコを禁じても暴動は起きない。お酒のほうが社会的にも損失が大きいのに、社会がお酒に寛容なのは、お酒が暴力傾向を促し、タバコが社交性を高めることと関わりがあるのではないだろうか。お酒好きの声が大きすぎる半面、タバコ好きは自身への迫害に対して寛容すぎる。
日本社会の極端な喫煙バッシングの中で、逆に禁煙からビジネスチャンスが生まれる可能性もあると考えてしまう。特に飲食店経営者のみなさんには、非喫煙者をターゲットにすれば業績がアップするというフェイクニュースが蔓延しているようだ。
18年6月に業界内で先陣を切って全面禁煙に踏み切った「串カツ田中」は、禁煙化の成功事例と見られていた。加熱式も含めて全店の全席を禁煙としたことで、喫煙者の来客は減少したものの、子どもを含むタバコを吸わないファミリー客が増加するなど新たな客層を開拓できたことで業績がプラスになったと喧伝されている。
しかし、全面禁煙開始から1年が経過すると、喫煙者の店離れがじわじわと売り上げに影響を及ぼすようになってきた。店舗数が増えたことで串カツ田中チェーン全体としては増収だが、19年度の第3四半期の決算で、既存店の売上高が9カ月連続前年割れとなり、てこ入れ策は功を奏していない。11月も既存店売上高は前年同期比11.9%減と復調することはなかった。
同社では「家族客の多い土日は好調だが、サラリーマン客が減った平日の落ち込みが響いた」と説明したが、まさに喫煙者の店離れが原因だといえる。平日は、月・火・水・木・金曜と5日あり、土・日曜は2日しかない。差し引きマイナスは当たり前の結果だった。そもそもお酒をたくさん飲む場に子どもを連れて行って危険はないのだろうか。ファミリー向けをアピールする串カツ田中にはぜひともアルコールも禁止してほしい。子どもを店に連れてくるよう宣伝しておいて、飲酒による事件が起きたら店は知らんぷりというのでは社会的責任が果たせないのではないのだろうか。タバコだけを禁止する金儲け至上主義で、売り上げをただ落とした経営者は、即刻辞任すべきだと思う。
実は、禁煙が業績に影響しているのは串カツ田中だけではない。「ちょい飲み」ブームの火付け役ともいえる「サイゼリヤ」も全席禁煙になった店舗で売り上げ減少に苦んでいるという。サイゼリヤは、本格的なイタリア料理を安価に楽しめることで客を集めて急速に規模を拡大したファミレスチェーンだが、なんといっても人気の秘密は格安のアルコール類だ。1000円以内でべろべろに酔えるほど飲める居酒屋が「せんべろ」と話題になったが、サイゼリヤワインはまさに「せんべろ」の優等生。居酒屋のように利用する客も多く「サイゼ飲み」という言葉も広まった。しかし、サイゼリヤは17年末に全店舗を禁煙化する方針を表明して以来、既存店の客数は前年度割れが続き売上高にも影響が出ている。酒類を多く消費する喫煙客が離れ、仮に来店してもタバコの吸えない場所には長居しないことが影響しているのだろう。
■懐かしき銀座4丁目ドトールの思い出
以前に対談させていただいた「浅草おかみさん会」の冨永照子さんは、老舗のそば店を経営しながら、浅草でさまざまなイベントを企画して集客に成功し、浅草を観光地として復活させた伝説的な存在だが早くから改正健康増進法による禁煙の影響を危惧していた。「お酒を飲むとタバコが吸いたくなるでしょう。禁煙にすると店の外に出て吸うから、酔いが醒めて帰りたくなるもの」と喫煙客の心理を分析していたが、まさにその通りである。
私のようなヘビースモーカーはタバコを吸えない場所には長くいられない。全席禁煙の店には近寄らないようにしているが、仕事上の付き合いでどうしても入らなければならないときには、すぐに用事を済ませてできるだけ短時間で店から出る。もちろん店に余計なお金は落とさない。
禁煙よりも分煙のほうが望ましいと考えている人は多い。6月に日本生産性本部がまとめた19年度日本版顧客満足度指数(JCSI)調査によると、カフェ分野では、1位ドトールコーヒー、2位カフェ・ベローチェ、3位スターバックスで、禁煙派のスタバを分煙派のドトール、ベローチェが上回る結果となった。評価理由に「分煙」を挙げる人が多かった。この結果は、この年に限ったものではなく、スタバの顧客満足度は、例年、分煙のカフェよりも低い。調査対象は分煙派、絶対禁煙派などと分けることがないので、「自分はタバコを吸わないが喫煙席があってもいい」と考えている人も存在する可能性があるということだ。
■「タバコが吸える」ことが店を選ぶ理由の第1位
少し古い調査になるが、14年に日経リサーチが飲食店の選択理由に関するアンケートでは、居酒屋とカフェにおいては「タバコが吸える」ことが店を選ぶ理由の第1位となった。タバコを吸うために店に入る人は確実にいる。喫煙者を排除する全面禁煙は愚策といえるだろう。
原則屋内全面禁煙をうたう改正健康増進法でも抜け道はある。客席面積が100平方メートル以下で、個人や中小企業(資本金5000万円以下)は禁煙の対象外だ。国より厳しい東京都の条例でも従業員を雇っていない個人営業の飲食店では、喫煙可を選択できる余地がある。
大手チェーンは、串カツ田中やサイゼリヤのように影響を受けるかもしれないが、これまで大手に押されて経営状況が厳しくなっていた個人営業の純喫茶などは喫煙客の増加で息を吹き返すかもしれない。
しかし、法律の条文をよく読んでみれば、大手チェーンだって、喫煙専用室を設置すれば紙巻きタバコが吸える。加熱式タバコ専用喫煙室にすれば飲食可能になる。さらに喫煙を主目的とするバーやスナックの営業も認められている。分煙設備に投資すれば、喫煙客を失わず、売り上げの向上も見込める。小池百合子東京都知事にいくらいじめられようとも、飲食店のみなさんは廃業などせず、現行制度をうまく使って生き延びてほしい。それが私の願いだ。
選挙になると、銀座4丁目のドトール2階の喫煙席から、候補者たちの演説やその聴衆たちの熱気に触れるのが、私の楽しみだった。喫煙席の並びには、右の人も左の人もいて、みんなタバコを吸いながら、日本の行く末を思い思いに議論していたのだ。しかし、その喫煙席は奥へ奥へと追いやられてしまい、もうあの雰囲気は味わえなくなった。
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内閣参与(特命担当)
1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理首席秘書官。現在、内閣参与(特命担当)、松本歯科大学特命教授、ウガンダ共和国政府顧問、シエラレオネ共和国名誉総領事、コソボ共和国名誉総領事。
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(内閣参与(特命担当) 飯島 勲)
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