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幸楽苑「史上最高額ラーメン」が選んだ豚の秘密

プレジデントオンライン / 2019年12月27日 11時15分

平田牧場金華豚ロース - 提供=平田牧場

ラーメンチェーンの幸楽苑は、この秋、史上最高額となる880円の特別商品「平田牧場コラボWチャーシューめん」を販売した。通常商品の「中華そば」は440円なので、価格は2倍。それでも予定より早く売り切れる人気だった。具材を提供したのはブランド豚を生産・販売する平田牧場。その圧倒的なこだわりを、経済ジャーナリストの高井尚之氏が聞いた――。

■史上最高額の高級チャーシューめんを発売

11月21日から12月11日まで、大手ラーメンチェーン「幸楽苑」で期間限定メニューが登場していた。商品名は「平田牧場コラボWチャーシューめん」、価格は同社史上最高額の880円だ。

ラーメンチェーン「幸楽苑」が期間限定で発売した「平田牧場コラボ Wチャーシューめん」(提供=幸楽苑ホールディングス)

国内に484店舗(2019年9月末現在)を展開する幸楽苑(運営は幸楽苑ホールディングス本社:福島県郡山市)は、価格の手頃さをウリとしている。通常商品の「中華そば」は440円で、2015年までは「290円ラーメン」を掲げていた。880円は通常商品の2倍で、同店としては破格の価格設定といえる。

具材を供給したのは平田牧場(本社:山形県酒田市)だ。全国的に知られる三元豚(さんげんとん)のさきがけ「平牧三元豚」(年間生産頭数は約12万~13万頭)などのブランド豚を持つ。

「この話は幸楽苑さんからのラブコールを受けて実現しました。当社の平牧金華豚(きんかとん)と平牧三元豚をダブルでチャーシューに使い、スープや背脂も平田牧場のものを使っています。化学調味料も使用しておらず、コクがあるのに食べやすい味でした」(社長の新田嘉七氏)

一般には“低価格店”の印象があるチェーン店とのコラボレーションは、豚肉のブランドイメージには影響がないのだろうか。

「幸楽苑さんにとってプレミアムな価格設定ですし、販売予定数は13万食。むしろ、多くの方に当社の豚肉を知っていただくチャンスになると考えました」(同)

幸楽苑ホールディングスも、想定以上の手応えがあったようだ。

「売れ行きは好調で、11日より前に予定数に達したため早めに販売を終えた店舗もありました。両社のニーズが合えばまたコラボレーションがあるかもしれません」(広報マーケティング部)

だが、平田牧場の商品はこれだけではない。

■牛肉より高い「金華豚1万円コース」を提供

12月のイルミネーションが一段と華やかなJR東京駅前――。商業施設「KITTE」(キッテ)の6階に「平田牧場『極(きわみ)』」という名のレストランがある。

同社は高級豚肉料理を提供するレストランを、本拠地の酒田市のほか、東京都内のコレド日本橋(2004年出店)や六本木ミッドタウン(同2007年)にも展開する。

KITTEの店は、平牧金華豚(年間生産頭数2万5000頭)を中心に提供。メニューには、より生産頭数の少ない「平牧純粋金華豚」(同1000~1200頭)もあり、とんかつやしゃぶしゃぶで味わう1万円のコースもそろえる。同社の豚肉は「牛肉より高い」といわれる。

「食肉の序列は、牛肉・豚肉・鶏肉の順に思われています。そのイメージを変えたい。当社の豚肉は、とろけるような肉質で甘みもあります。それを消費者のみなさんにも知っていただきたく、15年前から東京都心でもレストランを運営しています」(新田氏)

新田氏の社長就任は1999年。就任時に掲げた経営理念「より豊かな食生活、食文化を創造する、感動創造企業」の最後部分を、今年(2019年)「健康創造企業」に改めた。後述する「食生活で健康をめざす」の徹底だという。

撮影=プレジデントオンライン編集部
平田牧場の新田嘉七社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■看板の「平牧三元豚」は人気ブランドの3位に

現在、平田牧場は東北地方を中心に養豚場を直営で11カ所持ち、それ以外に約50カ所の提携農場(肥育農場と飼育農場)がある。創業者の新田嘉一氏(現会長。社長の父)が半世紀以上前に「米作の将来性を不安視して」転身。最初は2頭の豚を飼い始めた。

「豚」と聞くと、中年以上の世代は白い豚を思い浮かべる人が多いかもしれない。だが、あれはかつて主流だった「中ヨークシャー」という品種で、肉質は良いが脂身も多く精肉の割合が少なかった。嘉一氏が最初に飼った2頭もこの品種だったが、他の品種と交配させて品種改良が進んだ結果、今ではあまり見かけなくなった。

平牧三元豚は「ランドレース(L)」「デュロック(D)」「バークシャー(B)」を交配した豚だ。三元豚=三種の豚の交配種の意味で、同社以外の業者も手掛けており、品種はLDB以外もある。こうしたブランド豚(銘柄豚)は、国内で約400も存在するという。

「国産ブランド豚肉に関するバイヤー調査」(2016年12月16日~2017年1月16日、日経リサーチ調べ)の人気ランキングでは、1位「かごしま黒豚」(鹿児島県)、2位「あぐー豚」(沖縄県)に次ぎ、「平牧三元豚」は3位となった。首位の「かごしま黒豚」は江戸時代からあり、純粋(=単一種)のバークシャーとして人気だ。

実は、平田牧場の主要販路は、大手スーパーではなく、組合員数約40万人の「生活クラブ生協」だ。食品添加物や残留農薬にも厳しい基準を持つ、同生協の組合員(家庭の主婦が中心)に長年鍛えられており、「無添加ポークウインナー」は40年以上前から販売する。東京都世田谷区内には生協の直営店もあり、平牧の豚肉を買うことができる。

提供=平田牧場
同社の人気メニュー「平田牧場金華豚 厚切りロースかつ膳」 - 提供=平田牧場

■先代が不安視した「米作」が、豚の品質を支えている

生活クラブとの連携で始めた活動のひとつに「米育ち豚」がある。

山形県遊佐町や酒田市などの休耕田で栽培した米(飼料用米)を、豚のエサ(飼料)に混ぜて食べさせる。エサに飼料用米が占める割合と、食べて育った豚肉の味わいのバランスが大切で、現在は約30~35%の配合に伸びた。以前、生活クラブの組合員を取材した際は「(肉の味わいが)最初は少し水っぽい気がしたけど、今はおいしくなったわね」という本音も聞いてきた。

「飼料用米で育てた豚の脂身には、オレイン酸が多く含まれていて甘みとうまみがあり、リノール酸が少ないことから脂の酸化を抑制する効果もあるといいます。世界のブランド豚を見ても、スペインの『イベリコ豚』はドングリを、イタリアの『パルマ豚』はホエー(乳清)を飼料とするように、その地方の産物を飼料に使うのは珍しくありません」(新田氏)

課題は単独栽培だけでは採算が合わず、国の補助金の後押しがないと成り立たないことだ。補助金の減額(当時)や東日本大震災による田んぼの被害など、一時的な停滞はあったが、飼料用米の作付面積は2018年に2156ヘクタール・集荷量1万1204トンまで拡大した。豚1頭当たりのエサに占める量もスタート時の4倍近くになったという。

「休耕田を耕作放棄地にせず、水田を守りたい。それによって日本の食料自給率を上げたいというのは長年考え、何度も挑戦してきたが、採算が合わず断念してきた。1997年に補助金が認可されたのを機に再チャレンジしたのです」と話す新田氏。

歴史の視点では、父が将来性を不安視した「庄内のコメ」が形を変えて会社を支えたことになる。庄内の食糧米も進化し、レストランでは山形県産「つや姫」が提供されている。

■大手外食チェーンとは違ったアプローチ法

養豚業は農業のひとつだが、大手外食チェーンが農業を営むケースはある。例えば国内店舗数で1500店を超える「サイゼリヤ」は、店で提供するレタスを自社の「サイゼリヤ農場」で育てる。開発当初は、大玉でたくさん提供でき、食感がよくて味のあるレタスは世の中に存在せず、種の品種改良から始めたという。

居酒屋「和民」「坐和民」などを展開するワタミグループも「ワタミファーム」を中心に有機栽培の農業を推進している。

こうした外食大手と平田牧場の手法はどう違うのか。

「そもそも川上分野である養豚から始めて、川下のレストラン事業に進出したわれわれとはアプローチの仕方が異なります。当社では、飼料用米を食べた豚の排泄物を堆肥として有機農作物の栽培に活用するなど、循環型農業も行っています」(新田氏)

豚を健康に育てる安全管理にもこだわり、生活クラブの組合員は毎年、酒田市内の飼育農場を見学。ソーセージなど加工肉の工場も視察し、安全や衛生面も注視する。

提供=平田牧場
平田牧場が飼育する豚。飼料用米で育てた豚の脂身には甘みとうまみが多く含まれるという - 提供=平田牧場

■健康でおいしく食べられる豚肉で貢献したい

このように高い理想を掲げて取り組むが、課題も残る。例えば消費マインドの冷え込みだ。

今回の取材は12月の平日に都内の店で行ったが、店内は満席で、空席を待つお客もいた。だが消費税増税後の10月は、各店舗で客足が伸び悩んだという。

主要販路である生活クラブ生協も、組合員数は伸びているが、かつてのように大量購入する組合員は減ったという声も聞く。ちなみに平田牧場の売上高は約151億円(2018年3月期)。10年前と比べ下降気味だが、店舗整理などを行い微減にとどめている。

それでも酒田市における同社の存在は大きく、期待も高い。江戸時代の料亭「相馬屋」を受け継ぐ「相馬樓」を運営し、酒田舞妓の育成を行うなど、地域の文化貢献も担う。以前、会長の嘉一氏を取材した際、次の言葉が印象的だった。

「地方では、大企業の工場を誘致しても経営不振になると撤退してしまい、地元に雇用も残りません。結局は地元企業が頑張るしかないのです」

その思いを継ぐ嘉七氏は、ブランド豚肉や循環型農業を通じて未来像を描く。

「人が生きるために最も大切な『食べること』に、おいしさと健康で貢献したい。食事は毎日の行為ですが、安心して食べられるのが当社の商品の特徴です」

江戸時代は北前船で栄えた港町・酒田。地方都市にある企業の心意気に期待したい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)

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