日本人の8割が罹患済み"歯周病"の重大リスク
プレジデントオンライン / 2019年12月31日 11時15分
※本稿は、井上裕之『「歯」を整えるだけで人生は変わる』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■歯茎の健康をおろそかにすると最悪の事態に
「美しい口元」を構成するのは、歯だけではありません。その土台と言える歯茎も、非常に重要なパーツです。
健康な歯茎は、ハリがあってピンク色に輝いています。
話をするとき、笑顔になったとき。美しく輝く歯茎は清潔感と好印象をもたらします。できるビジネスパーソンは、歯だけでなく歯茎の状態にも敏感です。仕事ができる人で、歯茎が黒く変色していたり、赤く腫れ上がっていたりする人はいません。
なぜかというと、歯茎の健康をおろそかにすると、最悪の事態に発展してしまうことを知っているからです。
それは「歯周病」という歯茎の病気から始まります。
歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる歯茎の炎症性疾患です。
■最終的には歯が自然と抜けてしまう
歯磨きをはじめとする日々のケアが不十分なことにより、歯と歯茎の境目に歯垢(しこう)(プラーク)がたまると、そこに多くの細菌が停滞することになります。すると、歯茎が炎症を起こしてしまいます。痛みはほとんどありませんが、赤くなったり腫れたりします。
そして病状が進行すると、歯周ポケットと呼ばれる歯と歯茎の境目の溝が深くなり、歯の土台である歯槽骨(しそうこつ)が溶け始めます。歯槽骨が溶けてしまうと、歯がグラグラと動くようになり、最終的には歯が自然に抜けてしまったり、あるいは治療上、人為的に抜歯をしなければならなくなったりします。
現在、日本人の実に8割以上の成人が歯周病にかかっていると言われています。歯周病セルフケアをサポートするさまざまなアイテムを発売しているシステマ(ライオン)が、「平成28年歯科疾患実態調査」(厚生労働省)を基に発表した情報によると、30代以上の3人に2人が歯周病に罹患(りかん)していると言います。まさに国民病と言っても過言ではありません。
■「痛くないから」と放置する人の末路
さらに恐ろしいことに、歯周病は自覚症状が少なく、痛みもなく進行するため、気がつかないうちに重度になっていることが多々あります。
歯周病の始まりのサインは、「歯茎の腫れ」「歯茎からの出血」「口臭」「朝起きたときの口のねばつき」などですが、こうした症状で「歯医者に行かなくては!」と思う人は多くありません。
しかし、とりあえず痛みがないからといって、「大丈夫かな」「まあいいか」と問題を放置してしまうのは、放置した先にどんな結果が待っているのか予想できていないからだと言えます。
歯周病を放置すると、最終的に歯を失うことになります。歯を失ってしまうと、見た目が悪くなるだけでなく、健康にも悪影響が及びます。そこまで考えて、きちんとした手が打てるかどうかが大事なのです。
それはすなわち、ビジネスにおける「先読み」と同じことです。虫歯の治療だけでなく歯周病治療に関しても、ビジネスに対する姿勢が反映されているとさえ言えます。
■歯周病は命にかかわる
できるビジネスパーソンには先を読む力があり、今起きている問題を軽視せずにきちんと向き合おうとする姿勢があります。だからこそ、進行すれば最終的に歯が抜けてしまう可能性のある歯周病に対しても、抜かりなくメンテナンスをしている人が多いのです。
そういう人は、歯周病のもうひとつの暗黒面を知っています。それは、歯茎の病気である歯周病が「命にかかわる重大な疾患を誘発する」ということです。
歯周病は、まさに「サイレントキラー」。無自覚のまま進行し、ある日突然命にかかわる病気を引き起こす可能性があります。
では、歯周病になることで、どんな病気にかかりやすくなるのでしょうか。
・心臓病
心臓は体中に血液を巡らすポンプであり、人間が生命活動を維持する上で欠かすことのできない臓器です。その重要性は説明の必要もないでしょう。
心臓に血液を供給する動脈を「冠状動脈」と言い、それに起因する心臓病を「冠状動脈性心疾患」と呼びます。そのなかでも、血管の中に“プラーク”と呼ばれる沈着物が作られて、血管が狭くなったり詰まったりすることによって起こる病気があります。心臓のポンプ機能が働かなくなる心筋梗塞や、心臓に血液が供給されなくなる狭心症などの「虚血性(きょけつせい)心疾患」です。
最近、この虚血性心疾患の原因となる血管内沈着物の形成を促進するのが、歯周病原性細菌なのではないかと考えられるようになってきました。
歯周病に罹患している人の、これらの病気の発症リスクは、歯周病を持たない人に比べて15〜20パーセント高まると言われています。
・脳血管疾患(脳梗塞)
心臓の病気と同様の理由から、発症が心配されるのが脳梗塞です。
脳梗塞とは、脳の血管にできたプラークが詰まったり、頸動脈や心臓から、プラークや血の塊が飛んできたりして、脳血管が詰まる病気です。歯周病の人はそうでない人に比べて、なんと2.8倍も脳梗塞になりやすいと言われています。
すでに血圧やコレステロール、中性脂肪が高く、脳血管疾患の発症リスクの高い人は、特に歯周病の予防が重要です。
・糖尿病
生活習慣病としてよく知られている糖尿病も、歯周病が影響している可能性が指摘されています。
厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、2016年(平成28年)に「糖尿病が強く疑われる者」の推計人数は1000万人となりました。
糖尿病には、血管障害・神経障害・網膜症・腎症などの合併症がありますが、近年、歯周病も合併症のひとつととらえられるようになりました。
糖尿病になることで歯周病になりやすくなり、また、歯周病になることで生成される炎症性物質が、血糖値を低下させる働きをするインスリンの働きを阻害することもわかりました。歯周病があることで、血糖コントロールがしにくくなるのです。
糖尿病のみならず、糖尿病が引き起こす合併症についても考慮すると、その脅威はかなり大きなものになります。
■「自分は大丈夫」と楽観してはいけない
そのほかにも、誤嚥(ごえん)性肺炎や動脈硬化、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、女性の場合は低体重児出産、早産の可能性が高まる……など、歯周病によるさまざまな体への悪影響が指摘されています。また近年では、歯周病の病原菌がアルツハイマー病の発病に関連しているという研究結果も出ています。
歯周病をきちんと治療し、予防することで、これらの命を脅かす病気にかかる可能性をぐっと下げることができるのです。
このように、歯周病はたんなる歯茎の疾患ではなく、命をも左右する重大な疾患です。しかし、日本人の多くがその事実に気づいていません。または気づいていても、「自分は大丈夫だろう」と楽観視しています。だから、日本人成人の8割が歯周病という深刻な状況なのです。
歯周病を防ぐためにも、適切な歯のメンテナンス、特にクリーニングが欠かせません。歯を適切にメンテナンスすることは、健康を守る上で必須なのです。
■歯周病のセルフチェックリスト
歯周病は、痛みなくやってきて、あなたの歯や、歯を支える骨を破壊していきます。「歯磨きをしたら血が出た」「体調不良のときに歯茎が赤く腫れている」などの初期症状を敏感にキャッチするようにしてください。早期発見・早期対策をすることによって、後に起こる可能性の高い、歯が抜けたり大病をしたりといったリスクから自分を守ることにつながります。
以下、日本臨床歯周病学会のHPに掲載されているセルフチェックです。
□ 朝起きたとき、口の中がネバネバする
□ ブラッシング時に出血する
□ 口臭が気になる
□ 歯肉がむずがゆい、痛い
□ 歯肉が赤く腫れている(健康的な歯肉はピンク色で引き締まっている)
□ 硬い物が噛みにくい
□ 歯が長くなったような気がする
□ 前歯が出っ歯になったり、歯と歯の間に隙間が出てきた。食物が挟まる
※3つ当てはまる……… 油断は禁物です。ご自分および歯医者さんで予防するように努めましょう。
※6つ当てはまる………歯周病が進行している可能性があります。
※すべて当てはまる……歯周病の症状がかなり進んでいます。
いかがでしょうか。
ぜひ、ご自身の歯茎の状態をチェックしてみてください。そしてもし問題があるなら、すぐに治療を始めるようにしましょう。早期発見・早期対策が何よりも大事です。
■目の前の問題を先送りしていないか?
そしてこれは、そっくりそのままビジネスシーンにも当てはめることができます。今あなたの目の前にある問題が、1カ月後、半年後、1年後、5年後……時を経て大きく膨らんでしまう可能性はありませんか? あなたはそれをちゃんとイメージしていますか? その上で、今自分が何をすべきか、対策を考え適切に実行しているでしょうか。
歯茎のメンテナンスをするということは、まさにそういうことです。歯周病は、先送りしても自然に治ることはありません。できるビジネスパーソンほど、今ある問題や問題の火種を敏感にキャッチし、それが後にどうなるか、先読みして対策を“今”やっています。
だからこそ、ハリがあってピンク色に輝く美しい歯茎を保っているのです。
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医療法人社団いのうえ歯科医院理事長
1963年、北海道生まれ。東京歯科大学大学院修了後、ニューヨーク大学をはじめペンシルベニア大学、イエテボリ大学などで研鑽を積み、故郷の帯広で開業。著書に『自分で奇跡を起こす方法』(フォレスト出版)、『会話が苦手な人のためのすごい伝え方』(きずな出版)、『本物の続ける力』(WAVE出版)など。
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(医療法人社団いのうえ歯科医院理事長 井上 裕之)
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