トランプ発言に学ぶフェイクニュース見破り術
プレジデントオンライン / 2019年12月28日 6時15分
■“誤解”“誇張”で都合のいい数字を使う
“フェイク(FAKE)”とは日本語で“偽”という意味。でっち上げの内容や数字がメディアを騒がせている。米国のトランプ大統領についての著作がある中林美恵子さんが、なぜ大統領にフェイク発言が多いのかについて語った。
「彼は、それまでの米大統領と違い、SNSを使った発信や、アドリブ演説で世論に訴える“身近な庶民派”がウリ。特に彼が好きなツイッターでは、思いつくまま、つぶやきたいがままを投稿できるので、自分の発言の正確さには重きを置いていないようです。発表する数字も同様です」
米有力紙のワシントンポストやニューヨークタイムズがファクトチェックを行ったことで、フェイクや不確かな情報が露見した。しかし、超大国の絶大な権限を握る大統領が発信する数字は、本来なら厳密であるべきだ。裏どりもしないままに発信するということはあるのだろうか?
「ホワイトハウスのオフィシャルな演説では、官僚が用意した草稿を読み上げますが、その中に前述のようにアドリブを入れてしまう。多くの支援者の前で演説すると気分が高揚して、聴衆が盛り上がるようなネタを入れたくなるのでしょう」
その一方で、トランプ大統領のしたたかな戦略家としての資質も見逃せないと、中林さんは続ける。
「前回の大統領選で、トランプ氏は最初キワモノ扱いされていたのに、優勢だったクリントン氏をおさえて当選できたのも彼の優れた選挙戦略にあります。ツイッターやアドリブ演説も、戦略的に発言している場合があるのです」
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彼が発信した数字は、全くの嘘の場合もあるが、わざと誤解したり誇張する、もしくは前後の文脈から離れた表現も多い。例をみてみよう。①はイラク戦争に関する10年間の経費。ブラウン大学での見積もりでは1.7兆ドルの数字を、大差ないと思ったのかざっくり2兆ドルと発表。②は戦闘機調達コストの削減について。トランプ大統領がそのコスト削減に関与する前から空軍が6億ドル以上の削減を発表していた。
しかし、あたかも彼の力だけで節約できているかのように発言。③は中国との貿易赤字について。米商務省経済分析局によると2016年の全体の正しい赤字額は3100億ドルだが、実際より1940億ドルも多く貿易赤字があると発言した。
あやふやで不確かな数字を、発言の中に上手に織り込んで、あたかも真実のような印象を聞く人に与えるという“高等テクニック”を駆使している。しかし、対日本の貿易赤字額、在日米軍への日本の支出額など、トランプ大統領が発する数字が不確かであると、我々日本人にとっては大きな痛手になることも。「この数字は本当なのか」といった疑いの目を持ち、メディアのファクトチェックなどを検証すべきだろう。
■フォロワー数が急変したら偽アカを疑え!
中林さん同様、ツイッターの危険性を説くのがフリージャーナリストの烏賀陽弘道さんだ。
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「ツイッターは“治安の悪い”メディアです。なぜなら本人確認が不要なので、他人になりすましてアカウントを無制限に作ることができるからです。これがツイッターの致命的な欠陥で、偽アカウントの温床になっています。ツイッター社自体もそれを察知して、18年に数千万規模の偽アカウントを削除しました」
これにより、著名人のフォロワー数が激減した。たとえばアメリカの人気歌手であるケイティ・ペリーとレディー・ガガはともに約250万人、オバマ米前大統領は約210万人もフォロワー数が減少。急激なフォロワー数の変動は、偽アカウントが関与していることの証しでもある。しかしこのように情報がフェイクと判明したのは相当まれなケースだ。トランプ大統領の発言ならファクトチェックという機能があるが、それ以外のツイッター上に流布するニュースや数字の真偽を追究するのは大変難しい。
■フェイクニュースのネズミ講的拡散
「ツイッターはRT(リツイート)によって、もともとの発言をどんどん拡散していけるシステムがあります。あくまで例ですが、私が『烏賀陽弘道の新刊が出ました。大人気です!』と投稿し、その後A、B、C、D……と偽アカウントでRTし続ければ、すぐに情報を拡散できる。私の本がすごい注目を浴びていることにできるワケです。私はこれを“フェイクニュースのネズミ講的拡散”と呼んでいます(苦笑)。だから恐ろしい勢いで拡散するニュースは、最初から疑ったほうがいいですし、安易にRTしないほうがいいのです」
ネズミ講的に拡散していく情報は事実より、フェイクニュースのほうが伝わる速度が速い。人間は扇情的な数字や情報におどらされやすいという心理を持っているからだ。
ニュースに数字が含まれているほうが、情報が具体化し、それが正しい情報であるかのように受け取られがちである。繰り返しになるが、情報をうのみにせず、どんなメディアで紹介されているのか、誰が発言しているのかなどを確かめることはマストなのだ。
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早稲田大学教授
1960年生まれ。大阪大学博士。米国連邦議会上院予算委員会補佐官を務める。2017年より現職。著書に『トランプ大統領とアメリカ議会』(日本評論社)ほか。
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フリージャーナリスト
1963年生まれ。京都大学卒業後朝日新聞社に入社。AERA編集部を経てフリージャーナリストに。著書に『フェイクニュースの見分け方』(新潮新書)ほか。
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(東野 りか 写真=iStock.com)
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