「年金を払うのは損」と主張する人が知らない事
プレジデントオンライン / 2020年1月17日 9時15分
※本稿は、坂口孝則『日本人の給料はなぜこんなに安いのか 生活の中にある「コスト」と「リターン」の経済学』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■「未納率が半分」は数字のカラクリ
年金に関する誤解①:年金を払わない人がたくさんいる
新聞などを読んでいると、「多くの人が年金を払っていない」と書かれています。年金制度への不信感から「年金なんて誰も信じちゃいない、だから払わない」というわけです。年金の支払いをしていない人の率を未納率と呼びますが、中には「未納率が半分」と書き立てるメディアもあります。
でも、不思議じゃないですか? みなさんのまわりに未納者っていますか? たぶんいないと思います。年金は基本、誰もが平等に、会社員だったら会社が天引きするシステムだからです。ただ、そこには「数字のカラクリ」が存在します。
年金には2通り(厚生年金に加入する夫をもつ専業主婦を含めると3通り)あります。それぞれの人数は以下になります。
・厚生年金加入者……4356万人
・国民年金加入者(専業主婦等)……870万人 合計6731万人
この数字のうち、払っていない人は次のとおりです。
・ほんとうの未納者……157万人 合計731万人
この731万人の母数は「国民年金」になりますから、先の1505万人と比べると、たしかに半数近くが未納に見えます。しかし、免除されている574万人は、行政が認めた「支払う能力のない人たち」です。文脈上は総数6731万人のうち、未納者157万人という、こちらの比率を見るべきです。そうなると未納率はたった2.3%です。騒ぐにはあまりにも一方的な報道だと思いませんか?
2.3%だから、みなさんのまわりに未納者がほとんどいないわけです。年金は現実には、多くの国民で支えているある程度健全な状態にあるわけです。
■2040年頃をピークに受給者は減り続ける
年金に関する誤解②:年金制度は崩壊する
私が大学生だった20年前から年金崩壊説はささやかれてきました。大学のとき、仲が良かった佐藤くんも「考えれば成り立つはずがないので、年金なんて払うやつがバカだ」と言っていました。しかし(世の中に100%はありませんが)私は次の2つの理由で年金制度は崩壊しないと考えています。
〈賦課方式だから〉
日本は現役世代が受給世代にお金を渡す「仕送り方式」です。現役世代が減っても、あくまで「減る」だけでゼロにはなりません。これはあくまで喩えですが、100人の若者と、30人の老人がいる村があったとします。それが30人の若者と、30人の老人になったとしても、年金保険料の総額が減るだけで、年金制度自体は崩壊しません。
ただしこの場合、受給金額は減らざるをえません。日本も現状、ただでさえ半分は、他の税金から補填されていると本書で説明しました。ですから今後はその比率を上げる必要があります。しかしその税金は、結局のところ国民の生活から捻出されるものですから、実質的な負担は上がるはずです。
さらには受給年齢の繰り下げや、現役世代の負担額アップもあるかもしれません。もっともそれこそが「崩壊」であると揶揄(やゆ)されるわけですが、ほんとうの崩壊とは1円の受給もなくなることです。私はその可能性はまずないと考えています。
また、少子高齢化といいますが、人口の多い年金受給者層も、つねに増え続けるわけではありません。2040年頃がピークで、そのあと年金受給者は減り続けます。
■選挙で「年金廃止」を掲げる党があるとは思えない
〈年金を廃止できる政治家がいないから〉
「老後に2000万円が足らない!」という説明であっても、政治家は火消しに躍起になりました。それが比較的現実的な数字であっても、国民に老後不安を抱かせる内容に政治家たちはフタをしたわけです。この状態で、私は年金を廃止できる政治家がいるとは思えません。
もちろん、「選挙後なら年金を廃止できるだろう」と言う人もいます。しかし、社会保障はどんな国政選挙であっても、大きな焦点の一つで、選挙に「年金廃止」を掲げる党があるとは思えません。万が一、年金を廃止したい党があったとしても、少なくとも、「社会保障の充実」くらいは書くでしょうから、それを完全に覆す政治家はいないはずです。いたらきっと、次の退陣を余儀なくされるでしょう。
■「損する投資」という思い込み
年金に関する誤解③:年金保険料は払った分ほど戻ってこない
先ほど「年金は支え合いであり、預貯金ではなく保険料である」と説明しました。ですから年金は掛けた金額だけが戻るのではなく、長生きしたら長生きした分、受給できるシステムになっています。年金はそういった相互扶助のためのしくみです。
ただ、それでもなお、年金を税金や保険料と考えることができない人がいます。そういう人たちは、年金を「損する投資」だと考えています。この疑問は根深く、年金不信にもつながっています。
そこで実際に年金はいくらもらえるのかを見てみたいと思います。よく「払うほどにソンをするから、年金は払いたくない」という声を訊きます。また、「なぜ、自分に戻ってこないお金を払うべきなのか」と怒っている人もいます。
「いまのご老人は受け取る額が、払った額よりも多いんでしょ。でも私たちは払う額のほうが、受け取る額より減るんでしょ!」と怒るのはいいのですが、その理由は不明解、イメージが先行してしまっています。ほんとうにそうなのでしょうか。
■2015年に45歳なら「2.5倍」の試算
次の図は2014年時点の経済状況を鑑みて計算されたものなのですが、支払った金額の、何倍年金がもらえるかを試算したものです。(図表1)
たとえば厚生年金を支払っている方のうち、2015年に45歳になった方は、経済前提ケースG(もっとも経済状況がよくない場合)でも、給付負担倍率は2.5倍になっています。
国民年金のみの場合も見てください。同じく2015年で45歳の方は、1.6倍になっています。ということは信じられないかもしれませんが「支払い損はない」と結論がつきます。
国民年金に加入している自営業者の方の中には「えー、国民年金は不利なんだ」と感じる方がいるかもしれませんがそれは間違いです。先に厚生年金の加入者の負担額は会社負担分もあり大きいと説明しましたが、厚生年金の加入者は負担額の分、受取額が大きくなっているだけです。
■「ねんきん定期便」でもらえる額を試算する
では実際に、自分がもらえる年金額を確認するために「ねんきん定期便」も確認しましょう。
50歳以上の方は、60歳まで働いたときの受給見込額が書かれています。一方、50歳未満の方は、次のようなちょっとややこしい計算式を必要とします。
50歳未満の方の「ねんきん定期便」には「加入実績に応じた年金額(年額)」という箇所があります。そこに70万円と書かれていたとしましょう。そして60歳まであと15年は年収500万円で働くと仮定します。
この場合の年金額は、次のように計算されます。
2万円というのは、給料でいうところのベースアップのような概念です。また「0.005481」という乗数は、年金の支給額を計算するときに用いられるものですが、正直、誰も根拠まではわかっていません。私たちは学者ではないので深く考えずに、この数字を受給額の試算に使っておけば、現状問題ありません。
この141万1000円を12(カ月)で割り算すれば、現時点では月に約12万円の年金を受け取れることがわかります。
なお、これはあくまで仮の数字です。前述のとおり、受給額の平均値は厚生年金で16万円、国民年金で6万5000円くらいです。ご自身の年金受給額の詳細を知りたい場合は、「ねんきんネット」というウェブサイトでも見込額を試算できます。
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調達・購買コンサルタント
未来調達研究所株式会社取締役。講演家。2001年、大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。2012年、未来調達研究所株式会社取締役就任。製造業を中心としたコンサルティングを行う。『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体』(すべて幻冬舎新書)、『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』(幻冬舎)など著書多数。
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(調達・購買コンサルタント 坂口 孝則)
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