年賀はがき「1等30万円」税金がかかる人の条件
プレジデントオンライン / 2020年1月1日 9時15分
■年賀はがき1枚でつながる関係性
小学生の頃、冬休みが近くなると授業の中で、年賀状の書き方を教えてもらった。
宛先は自宅。自分自身に1枚書き、仲のよいお友だち数名にも書いた。担任の先生が自宅の住所を黒板に書かれ、先生にも出した。個人情報がうるさく言われる昨今では、ありえない授業の風景だろう。
その先生とはいまだに、年賀状のやり取りが続いている。卒業して、40数年。年賀はがき1枚で何十年も繋がっていることを感慨深く思う。
言葉の流行り廃りの流れは速い。
あけおめ~。
ことよろ~。
という言葉も、最近はあまり耳にしなくなった。
携帯電話やインターネットの普及で、一言で、一瞬で、年始の挨拶ができる。
常に新しいものを吸収し発信する10代20代の若者が、アナログな紙媒体である年賀状を郵便ポストに投函することは、少なくなったのかもしれない。
■2014年、賞品に現金が加わった
2020年のお年玉付き年賀はがきの賞品が、日本郵政グループのHPで公表されている。
ミシンから始まり、白物家電、ビデオカメラなど……。お年玉付き年賀はがきの賞品をみると、時代の流れをうかがい知ることができる。
2014年、賞品に現金が加わった。飽食の時代に突入し、誰もが等しくほしいと願うものが選び辛くなったということだろうか。賞品がゲンナマというのは、ちょっと味気ない気がするのは、筆者だけだろうか。
一方で、本来お年玉とは現金を渡すものだから、“お年玉付き年賀はがきの賞品として現金を渡すのは妥当だ”とするむきもあるようだ。
もし、1等の現金30万円が当たったら、家族で船旅でもしようか、そのまま貯金しておこうか、はたまたG1レースの本命で手堅く増やしてみようかなどなど、頭の中で、空想するのは自由だ。
■お年玉付き年賀はがきに当たったら納税の義務はあるのか
さて、ここで、常に税金に関心をお持ちの読者の皆さん。お年玉付き年賀はがきの賞品に税金がかかるのかどうか、気になってきたのではないだろうか。
所得税法では、第9条の非課税所得にうたわれているもの以外は原則課税対象である。
「国民のみなさん、お金が儲かったら、国にもその一部を税金として納めてくださいよ」
というのが法律の主旨だろう。
当選した、お年玉付き年賀はがきは、そのはがきが誰あてに送られてきたものかによって課税関係が変わってくる。
2.会社あてに送られてきた年賀はがきが当選した場合
まずは、1.あなた個人にあてて送られてきた年賀はがきで30万円が当たった場合について考えてみよう。
■一時所得の税金の計算方法
個人が賞金として得たものは、一時所得に該当する。
国税庁のHPには、下記のように書かれている。
1 一時所得とは
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。
この所得には、次のようなものがあります。
(1)懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)
計算方法は次の通りだ。
一時所得は、臨時的な収入が一時期に得られるため、特別控除として50万円が設けられている。
一時所得の金額は、次のように算式します。
総収入金額-収入を得るために支出した金額(注)-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
3 税額の計算方法
一時所得は、その所得金額の1/2に相当する金額を給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。
他の所得と合計する前に課税額を1/2に圧縮するのも、一時的な収入の税負担を少なくするためだと考えられる。
■1等が1本当たっただけでは税金はかからないが…
では、実際に一時所得の計算をしてみよう。
30万円-50万円=-20万円
30万円が一口当たっただけで、他に合算すべき一時所得がないというのであれば-20万円。マイナスは0円と考える。1等の30万円が一口当たっても税金はかからないということになる。
では、2口60万円になった場合はどうだろうか。
で、一時所得の金額は10万円となる。
特等の東京2020オリンピックご招待(開会式又は閉会式ペアチケット)の場合、チケットが1枚30万円相当だとすると、ペアなので、60万円で計算することになるだろう。
同じ「くじ」でも宝くじはいくら当たっても非課税だが、年賀はがきのお年玉くじは、計算のルール上税金がかかる場合があるのだ。
収入を得るために支出した金額として、その年の年賀はがきを購入した総額を差し引きできるのだろうかという質問が出そうだが、どうだろうか。
当選することを願って、年賀状として送らず、自分で手元に持っていたということであれば、お年玉付き年賀はがきの購入費用は、その収入を得るための直接的な出費として認められるかもしれないが、現実的ではないだろう。
最寄りの郵便局に、当選した場合税金を払わなければならないのかどうか問い合わせた人がいる。
「昨年、1等でも税金はかからなかったので、今年もそうだと思いますが……。詳しいことは税務署の方にお問い合わせください」
そんな答えが返ってきたらしい。。
この対応からすると、仮に1等が2本当たった人が郵便局に行ったとしても、親切に税金のことを教えてくれるかどうかは定かでない。
ご自身が当選した場合、どんな計算になるのか。国税庁のHPには、確定申告書作成コーナーが設けられているので、実際の数字を入力して確認してみるとよいだろう。
次に、2.会社あてに送られてきた年賀はがきが当選した場合について考えてみよう。
この場合は、個人のときの「一時所得」のような特別控除はない。その法人の雑収入に計上するのが正しい経理処理といえるだろう。
家族経営の会社で、総務担当は奥さまというような場合、賞金の30万円を会社の収入には計上せず、自分の財布に入れてしまっても、バレないかもしれない。が、日本郵政グループが当選番号のはがきの宛名をリストアップしているとしたらどうだろうか。
お年玉付き年賀はがきの賞金が資料化され、税務調査の対象に選ばれるきっかけになったというのも、おもしろくないだろう。
30万円きちんと、雑収入に計上すべきだ。
■オリンピックの報奨金は特別措置がとられている
今回の特等は、オリンピックのチケットだ。
オリンピックと言えば、オリンピックの報奨金には税金がかかるのだろうか。
一般に、賞金などは所得税法上一時所得に分類され課税対象となることは上に書いた通りだ。しかし、日本オリンピック委員会(JOC)から贈られる報奨金に関しては、租税特別措置法第41条の8第1項において「オリンピック競技大会において特に優秀な成績を収めた者を表彰するものとして財団法人日本オリンピック委員会から交付される金品で財務大臣が指定するものについては、所得税を課さない。」ことが明記されている。
この規定は1994年に設けられたものだが、これは1992年に行われたバルセロナオリンピックにおいて金メダルを獲得した当時中学2年生の岩崎恭子選手に対し支払われたJOCの報奨金が、一時所得に当たるとして課税され、注目されたことがきっかけともいわれている。この報奨金への課税問題は、当時国会審議においても多く取り上げられた。
筆者が国税に入った1982年、税法の間違えやすい事例として、クイズの賞金や当選金は一時所得として課税であると覚え込まされたのだが、世論が法律を変えた事例といえるだろう。
■HPでお年玉付き年賀はがきと年賀切手の発行数がわかる
先日、旭化成名誉フェローの吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞されたが、ノーベル賞も同様に所得税はかからない。ちなみにこの「ノーベル賞」という文言は、昭和43年の川端康成氏のノーベル文学賞受賞をきっかけに、法律上明記することになったようだ。
オリンピックに出場できる選手を育てるには、お金も必要だ。いろいろなスポーツの間で、かつてプレイヤーとして活躍した選手が協会を作り、理事になるという図式が出来上がっているようだ。スポーツは正々堂々と戦うことに意義があると思っているのだが、組織の中で行われていることには、がっかりするニュースが多いように思う。
■年賀状販売で日本郵政グループに入る莫大な収入
お年玉付き年賀はがきに話を戻そう。
日本郵政グループの2020年用お年玉付き年賀はがきの発行枚数は23億5千万枚だそうだ。掛け算すると、お年玉付き年賀はがきの売上金額を算出することができる。
仮にだが、全てが売れたとすると、売り上げ総額は、1480億5千円となる。
この天文学的な数字をどう見るか。
日本郵政グループは、小泉政権以前は、国営だった。郵便局は、民営化されたことで、安っぽい事務服があか抜けた制服に代わり、窓口の応対も丁寧になったような気がしていた。
数年前、かんぽ保険の営業担当の青年が筆者のオフィスにやってきた。筆者のオフィスには、たまに飛び込み営業の若者がやってくる。片言の日本語しか話せない、外国人がやってきたこともある。外資系の証券会社だった。どの企業も最初は、飛び込み営業を強いられるのだろう。
筆者は保険に加入する気持ちはなかったのだが、そのかんぽ保険の営業担当の青年は、何度かオフィスにやってきた。筆者は産業カウンセラーでもある。あまりにも辛そうだったので、少し話を聴いたことがあった。
「ノルマがきつい。先輩のパワハラ、モラハラが酷い」
青年はぼそぼそと話し、
「聴いてもらって、少し気持ちが楽になりました。」
と言って帰っていった。
年末になって、年賀状のノルマがあるとやってきた。年賀状はどこで買っても同じなので、その青年から購入した。
しかし、翌年以降、その青年は筆者のオフィスに姿を現さなくなった。転勤したのか、退職したのか、知るすべもない。
■日本郵政グループにできることは何か
奇しくも、2019年12月、日本郵政グループは、かんぽ契約で、法令、社内規定違反が、12836件もあったと調査結果を発表した。
日本郵政グループは民営化されて何がどのように変わったのだろうか。かんぽ保険の担当者たちは、古くて悪い慣習をそのままにし、若手の社員をつぶす構造ができ上がっていったのではないだろうか。
日本郵政の強みは、地域の住人との接触割合が高いことだろう。今あるリソースを活かせば、お年寄りを騙して保険の二重契約をするようなこと以外に、もっと役に立つ事業を思い付くことができるのではないかと思う。
郵便配達員が持っている情報を、地域で暮らしているお年寄りを見守るためのサービスに繋げることはできないのだろうか。お年寄りの身体にGPSをつけて、道に迷って家に帰れなくなることを防ぐサービスというものもあるようだが、そんなデジタル機器ではなく郵便配達員の人海戦術で独居老人の問題に取り組むことができるのではないだろうか。
年賀はがき一枚で、何十年も繋がっているという関係がある。日本郵政グループには、人と人との繋がりを大切にすることで、地域の住民の方の役に立つ事業を展開していってほしいと願ってやまない。
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税理士
元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)がある。
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(税理士 飯田 真弓)
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