10年後、世界の指導役は国家からGAFAに変わる
プレジデントオンライン / 2020年1月1日 11時15分
■中国は5000年の歴史の中で常に「内憂」を抱えていた
――12月12日、東京・六本木のグランドハイアット東京で開かれた「東京会議」。冒頭、アタリ氏は、混沌とした世界の未来を予見するためには、まず過去を知ることが必要だと力説した。
我々が今後どこに行くのかを知るためには、これまでどこにいたのかを知ることが大事です。今、世界は混沌としています。地政学、環境、人口動態、イデオロギーといったさまざまな危険な問題がありますが、これらは突然現れたわけではなく、カオスには原因があり、過去がある。カオスは、立場によって見え方が違います。ですから、問題を見るときには我々がどういう立ち位置にあるかを知る必要がある。
ヨーロッパにとって関心の深いことが必ずしも日本にとってはそうでないということもあります。その一方で、グローバルな問題もあります。現時点の状況を長期的なトレンドで考えるために経済的・地政学的な歴史を振り返ってみたいと思います。
これまで世界は、常にリーダーが支配していました。中国は5000年の歴史を持ちますが、統一された中国帝国であったというわけではありません。戦いや内戦を経てさまざまな困難や脆弱(ぜいじゃく)性を抱えてきました。これまでの中国は、西の文明が考えるようなものではありませんでした。中国は常に内向きであり、さまざまな理由から文化的イデオロギーがありました。
■アメリカも中国も巨大だが、脆さがある
中国もアメリカも今は巨大な国ですが、それは「脆い巨人」です。アメリカはひどい脆弱性を抱えています。中国もやはりそうです。
中国共産党が永遠に支配するとは思えませんし、中国の不均衡な成長が社会に及ぼす大きな影響や内乱が発生する可能性も排除できません。今、豚コレラがはやっていますが、これも中国にとって重要な危機の引き金になるかもしれません。安定しているものなど何もなく、かつ、永遠なものもありません。
世界は12世紀以来、多くの異なる社会によって支配されてきました。世界にはさまざまな中心地がありました。ベニスのような地中海都市もありました。アムステルダム、ブルージュ、アントワープ……。大西洋側にはロンドンがあります。それから太平洋に移り、カリフォルニアから、今ではアジアにその中心地がシフトしました。
■最終的な覇権は、争いの外にいる第三者がとる
我々が忘れてはならないのは、中心地に取って代わるものがたくさんあるということです。それはテクノロジー、新しいリーダーを引き付けるようなもの、財力、発明、自由、冒険をする能力など、さまざまあります。リーダーがリーダーたるためには他者と競争する必要があります。必ず誰かが新しいリーダーになろうとします。誰かがライバルの攻撃を受けると、常にライバルが負け、第三者が勝つのです。
例えばオランダが世界一の大国であった時代は、オランダが世界を支配し、日本までやって来て範囲を拡大しました。その当時のライバルはフランスでした。しかしフランスは敗退しました。結局、どこが勝ったかというと、オランダではなくてイギリスでした。
また、20世紀初頭にドイツがイギリスに戦いを仕掛けて英独が戦いましたが、勝者はドイツではなくてアメリカでした。そこから将来を占ってみれば、リーダー同士の戦いで潜在能力のあるリーダーというのは最初に戦うリーダーではなくて、どこか別のところから現れるという法則を見いだすことができます。
■トランプ大統領でなくても下落していく
――アタリ氏は過去の歴史から、“2つのライバルが争うと、第三者が「漁夫の利」を得る”という法則を見いだす。そして、その歴史の法則から米中の近未来の予測を始める。
新しい別の中心地が出てくるかもしれません。中心地が地中海、北海、大西洋、太平洋の西側につながって、引き続いていき、中国が新しいリーダーだと言う人がたくさんいます。私はこの先の段階は次のようになると思います。
まず長期にわたって米国が凋落(ちょうらく)して、その支配が弱まります。10年、20年以上かかるかもしれませんが、緩やかに下落していくでしょう。誰がアメリカの大統領になるかは、関係ありません。アメリカ国民の生命を犠牲にしてまで他国民の自由を守るということはしない。アメリカが焦点を当てるのは自国内の問題だけです。もはや普遍的な国家ではありません。これは事実です。
■中国が「第2のアメリカ」になれない理由
それでは、次にその立場に取って代わるのはどこでしょうか。今後、多くの国がアメリカに取って代わろうとするでしょう。私の考えでは、どこも成功しないと思います。アメリカの後釜にはなれないでしょう。ヨーロッパは後継者になれると思いますが、統一されていません。
中国はどうでしょう。私の考えでは、中国はアメリカの後継者にはなれません。なぜなら、前にも言ったように中国はこれまでの歴史において内側にのみ目を向けていて、文化、言語、生活水準、生活様式を他のところに拡大しようとしませんでした。中国は強力な大国になると思います。日本を含めて支配するかもしれませんが、世界の覇権は握れないと思います。
■どこも大国になれず、国家の代わりに企業がリーダーになる
私の視点では、この先の10年は大まかに言っていくつかの段階を経ていくと思います。1つ目は、アメリカ帝国が凋落し、それとともに、ひどい出来事がたくさん起こり得る。2つ目は、国家間が戦ってアメリカの後釜になろうとするでしょう。いろいろなライバルが出てくるでしょうけれども、1国が勝利することはない。
3つ目の段階では国民国家が市場によって凌駕(りょうが)され、国による戦いではなくて企業による戦いが起き、国家に対して権力を得ようとします。これは今、GAFAや中国企業などを見れば分かるように、企業間の戦いで権力を握ろうとしています。Facebookの新しい通貨や国民の生活の監視、新しい軍隊の創設といったことに国家が反応しなければ、国家はリーダーの役目を企業に取って代わられるでしょう。
私はアメリカがナンバーワンを続けることはできないと思います。中国もナンバーワンにはなれません。しかし、企業がナンバーワンになることは大いにあり得る。
■これからは世界レベルの紛争が待っている
ですから、我々は今、非常に危険な地帯に足を踏み入れています。どこが大国になるかではなく、どこも大国になれないということなのです。それによってさまざまな矛盾が生じてきます。インフラ、気候変動、環境、貧富の格差といった長期的な問題に誰も関心を持たなくなり、いろいろな問題があるのに、そういうことをやってくれる人がいないということになるのです。それによって世界的な紛争が多発するでしょう。
これが私の言う4つ目の段階です。世界レベルでの紛争が我々を待っていると思います。
我々は予見することはできません。例えば先の第1次・第2次世界大戦の勃発は予見できませんでした。第1次世界大戦が起こる前にも世界的な機関をつくろうという動きがありましたが、結局はできませんでした。第2次世界大戦が始まる前から国連の必要性がいわれていたにもかかわらず、これもできませんでした。それと同じように、国家が支配するのではなくて、新しいチャレンジをしてくれる世界的な機関をつくらなければいけないということは誰もが考えますが、結局は世界的な戦争があった後にできるのです。
新しい問題に取り組むためには、本当にグローバルな組織が必要です。環境問題、技術のコントロール、遺伝子技術、それから人工知能(AI)が支配力を持って人類を変えてしまうかもしれません。技術をコントロールすることは必要で、それによって自然破壊を防ぐことができます。
環境問題や気候変動というのはこの危険な問題のごく一部でしかない、小さな問題です。例えば生命も新技術も全てが人工的になるかもしれません。そのような問題を考えなければいけません。そのためには世界的な組織が必要なのです。
■欧州が挑戦した新たな大陸秩序が求められる
――今後起きうる危機に対応するためには新たな国際的な機関が必要だと訴えるアタリ氏。しかし、過去の歴史では国際連合などの機関は戦争という破局の代償としてつくられたことが多い。戦争を回避しながら危機を回避する先例はあるのだろうか。
かつて、ある1国がリーダーとして存在したことで国際秩序があった時代もありました。ある1国がリーダーとなって国際システムをつくりました。16世紀でも、18世紀でも、征服者となったところが国際システムをつくりました。それは先の第1次、第2次世界大戦でも同じかもしれません。
今は新しい世界的な組織が必要ですが、リーダーがいません。これはボトムアップということでもないのです。ボトムアップで世界組織をつくるのは難しいことです。その例は2つしかありません。1つはスイスです。スイスはボトムアップでつくられましたが、それには4世紀かかりました。今の我々には4世紀もの時間の余裕はありません。
もう1つの例は、ヨーロッパ諸国がつくろうとした新しい大陸秩序です。これもボトムアップです。しかし、それは非常に難しかったのです。これが成功すれば、世界にとっても良いことです。我々はヨーロッパがやろうとした難しいことを世界レベルでやらなければいけないのです。
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経済学者
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業。フランス・ミッテラン仏大統領特別補佐官、欧州復興開発銀行の初代総裁などを歴任。ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、トランプ米大統領の誕生などを的中させた。『2030年 ジャック・アタリの未来予測』(プレジデント社)など著書多数。
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(経済学者 ジャック・アタリ 構成=プレジデントオンライン編集部)
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