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「今度は中国と競合」停滞が続く韓国経済の憂鬱

プレジデントオンライン / 2019年12月25日 18時15分

今年10月に発売されたサムスン電子の折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold 5G」。閉じた状態は4.6型、開くと7.3型のディスプレイになる。日本では5G非対応の機種が約24万円で販売中。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■韓国経済を支えてきた輸出の落ち込みは深刻

足元で輸出依存度の高い韓国経済は不安定だ。米中の貿易交渉で事実上、第1弾の協定が成立したものの、今後の展開は不透明な部分もある。そうした状況下、韓国経済の下振れを警戒する経済専門家は多い。

景気下振れの要因として、韓国経済を支えてきた輸出の落ち込みは軽視できない。中国経済の減速、米中の貿易摩擦などによる世界的なサプライチェーンの混乱などを受けて韓国の輸出が減少し、個人消費を中心に内需も冷え込みつつある。

ただ、わずかながら明るさも見え始めている。世界の半導体市況には反転の兆しが見えつつある。その背景には、世界各国で5G通信の本格的なサービスが始まりつつあることがある。目先、5G関連の需要は韓国経済にとって部分的な下支えの要因となる可能性がある。

問題は、その持続性だ。韓国にとって最大の輸出先である中国は「中国製造2025」の下でIT先端分野の競争力向上に取り組んでいる。IT先端分野における米中の“覇権国争い”も当面続くだろう。また、文在寅(ムン・ジェイン)政権下、労働争議が激化するなど経済環境も悪化傾向にあるとみられる。外需依存度が高く内需の厚みを欠く韓国経済が自律的な安定を目指すことは容易ではないだろう。

■韓国から海外に拠点を移す企業も増えている

足元、韓国経済は不安定ながらも、経済全体が大きく混乱する展開を何とか回避している状態にある。

2018年以降、韓国経済は、外部環境の悪化によって下り坂を転がり落ちるような勢いで減速し、それが内需の低迷につながったとみられる。特に、韓国にとって最大の輸出先である中国経済が成長の限界を迎えたことの影響は大きかった。

中国では、過剰な生産能力や債務問題が深刻化し、経済成長が限界を迎えている。共産党政権は減税や公共事業によって景気を支えようとしているが、目立った効果は出ていない。また、中国は生産年齢人口の減少を迎え、労働コストが上昇している。

それに加え、米中の貿易摩擦や米トランプ大統領の通商政策などを受けて世界のサプライチェーンが分断され、混乱に陥った。労働コストの上昇も重なり、“世界の工場”としての中国の地位は徐々に低下し、中国からベトナムなどの東南アジア新興国に生産拠点がシフトしている。韓国から海外に拠点を移す企業も多い。

■米国経済が減速すれば、より大きな下押し圧力に直面

その結果、世界各国で製造業の景況感が悪化した。それとともに、輸出依存度の高い韓国経済では半導体の輸出で業績を拡大してきたサムスン電子をはじめとする大手財閥企業の業績悪化が鮮明となった。韓国にとって輸出は成長のエンジンであり、内需も弱含んでいる。

内需の落ち込みに関しては、文政権の経済政策も無視できない影響を与えた。文氏が所得主導の成長を目指して導入した最低賃金の引き上げは、中小の事業者を中心に企業経営を圧迫し、若年層などの雇用・所得環境が悪化した。

そうした状況に直面しつつも、韓国経済が“底割れ”というほどの急速かつ大きな減速・あるいは景気後退に向かう展開は避けられている。それは、個人消費を中心に米国経済が緩やかな景気回復を維持しているからだ。米国経済が世界経済全体の安定を支え、その中で韓国経済も不安定ながら景気が急速に冷え込む展開をどうにか回避できているというべき状況にある。見方を変えれば、中国の成長の限界に加え、米国経済の減速が鮮明化すれば、韓国経済はより大きな下押し圧力に直面するだろう。

■「5G」でサムスンなどが上向いてもおかしくはないが…

その中で、韓国の半導体業界では、最大手であるサムスン電子の業績に底入れの兆しが出始めている。追い風となっている要素の一つとみられるのが、世界的な5G通信の普及だ。

2019年4月には米国や韓国でスマートフォン向けの5G通信サービスが始まった。同年11月には中国の50都市で5G通信サービスが開始された。特に中国では急速かつ大規模に5G通信が普及している。一部の予測では、2025年、中国における5G接続数は6億件に達し、米国の1億9000万件を追い越すとの見方もある。

2019年1~3月期に比べ、4~6月期と7~9月期は、サムスン電子の半導体事業の営業利益が小幅ながら増加に転じた。このデータを額面通りに受け止めると、同社の半導体事業は5G通信関連の需要を取り込み、徐々にではあるが底を打ちつつあるように見える。

また、世界全体での半導体市況のサイクル(シリコン・サイクル)の観点から見ても、目先、サムスン電子など一部大手企業の業況が幾分か上向いてもおかしくはないように見える。2016年から2017年にかけて、世界全体でデータセンターへの投資が増加するなどし、メモリを中心に半導体需要が大きく増えた。これはサムスン電子が業績拡大を実現し、韓国の景気が安定する要因だった。

■自律的に息の長い回復を実現するのが難しいワケ

その後、2017年半ばごろに市況はピークを迎え、2018年半ばごろには世界的な半導体市況の悪化が鮮明化した。2018年下旬から2019年前半にかけて、世界の半導体市況はボトムを迎えたとの見方もある。5G対応スマホ向けのICチップや自動運転向けの半導体需要の高まりなどから、世界の半導体市況の本格的な底入れは近いとの期待もあるようだ。

そのほか、米中が貿易摩擦の休戦協定の締結に取り組んでいるとの期待が高まっていることも世界経済全体の動向に左右されやすい韓国経済にとって重要だ。また、2020年1月、マイクロソフトの“ウィンドウズ7”のサポートが終了する。それを受け、一時的に世界各国でパソコン買い替え需要が高まり、サムスン電子をはじめとする半導体メーカーを中心に韓国経済に部分的な下支え効果が波及することも考えられる。

ただ、韓国経済全体が、自律的に、息の長い回復を実現するのは難しいだろう。引き続き韓国経済は不安定に推移する可能性がある。

■中国と韓国の関係が、相互補完から「競合」に変化

韓国経済が持ち直すには、輸出の増加が欠かせない。問題は、中国と韓国の関係が、相互補完的なものから競合相手へと、急速に変化していることだ。

中国は補助金政策を用いつつ、韓国から調達してきたDRAMなどの国産化に取り組んでいる。すでに中国のCXMT(長鑫存儲技術、旧名イノトロン)がDRAMの量産体制を整えている。ファーウェイ傘下のハイシリコン、アリババグループ傘下の平頭哥半導体(T-Headセミコンダクター)などは5Gだけでなく、推論用のAIを用いたチップ、自動運転向けの半導体を開発している。コスト、開発能力の両面において中国のイノベーション力にはかなりの勢いがある。

それに伴い、韓国製半導体への需要は低下する恐れがある。メモリ半導体を中心に輸出を増やしてきた韓国が、最先端、さらには次世代のテクノロジーを、迅速に、自力で生み出すのは口で言うほど容易なことではないだろう。

■IT覇権国を争う米国と中国の摩擦は当分続く

米国でもAIや拡張現実(AR)に関する開発が進み、6G通信分野でも中国との競争が熾烈化している。農畜産物などの特定分野で米中が部分合意を経て休戦協定の締結に向かう可能性はあるものの、IT覇権国を争う米国と中国の摩擦は当分続く可能性がある。米中の摩擦が激化するなどすれば、世界経済の先行き懸念は高まるだろう。それは、世界の貿易取引を減少させ、韓国の成長率が低下する一つの要因になり得る。

また、文政権の経済政策を見ていると、本来必要な構造改革の推進は期待することが難しい。左派政権下、景気減速とともに労働争議が増えるなどし、資金(資本)の海外流出も続く可能性がある。

このように考えると、韓国経済が5G関連需要を取り込んで相応の安定感を取り戻し、その中で構造改革が進み、潜在成長率(経済の実力)が高まる展開は期待しづらい。今後も、韓国経済は不安定に推移するだろう。米国が景気循環上のピークを迎え減速が鮮明化すれば、世界経済全体の先行き懸念も高まり、韓国経済が長期の停滞に向かうとの懸念が高まる展開も排除しきれない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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