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エモいメッセージが情報や意見よりも強いワケ

プレジデントオンライン / 2020年2月2日 11時15分

労働者の味方を標榜するトランプ大統領。型破りながら根強い人気を誇る。(AP/アフロ=写真)

■固定観念をぶち壊すのは攻撃ではなく「共感」だ

最近、世の中を見ていると、興味深い現象がある。日本でも世界でも、世論を二分するような対立軸があると、相手を批判したり攻撃したりしても、なかなかその効果が上がらないのだ。

例えば、ある政治家に対して、アンチの人たちがあれこれと攻撃しても、その支持率が下がらない。むしろ、支持者の結束が高まってしまう。

その好例がアメリカのトランプ大統領。弾劾の手続きが進むなどピンチのはずなのだけれども、その支持者たちの熱さは変わらない。

周囲のアメリカ人に聞いても、2020年の選挙の結果がどうなるのかわからないと真顔で言う。これだけいろいろと批判されて、傷だらけにも見えるトランプさんだが、その支持者の間での人気は変わらないようだ。

トランプさんだけではない。さまざまな国の大統領、首相が批判を浴びつつも支持者の間では人気を集め、結果として世論が二分されたまま膠着状態になるということがしばしば見られる。

イギリスでも、フランスでも、そしてこの日本でも……。人々の意見が分断される現象は、どう解釈すればいいのだろうか?

■人々が分断された「クラスター」になっている

鍵になるのは、現代社会においてはもはや「マス」とか「メジャー」といった視点、価値観が存在せず、人々が分断された「クラスター」になっているということである。

誰もが知っていたり、価値を認めたりするものが減ってきて、一つひとつのクラスターが、それぞれの情報を持ち、価値観や考えを持つ。そのような傾向が強まっている。

加えて、クラスター間の移動が起きにくい構造になっている。例えば、トランプさん支持のクラスターに属している人は、どれだけトランプさんを批判する議論を聞いても、その結果としてトランプさん不支持のクラスターに移動することはない。

人々が自分の意見を変えることが難しい社会状況になっている。「エコーチェンバー」と呼ばれる、自分と同じ意見の人の声や情報だけが流通する領域にずっと浸っていると、結果としてクラスター間での移動がなくなってしまうのだ。

このような時代に、1つのメッセージを広げようとすると、クラスターの壁を越えなければならない。その一番の武器が、実は「感情」だ。

感情は、情報や意見よりも強い。「正しい」「正しくない」という価値判断を超えて、一気にその人の心をつかむスピードとパワーがあるのだ。

感情の中でも、とりわけ「共感」には、それぞれの人がそれまで持っていた固定観念を壊す力がある。だからこそ、政治家は共感のメッセージを出そうと腐心し、フェイクニュースの作り手は、人々の共感を呼ぶ言葉やイメージを広げようと試みる。

クラスター化、分断化の時代にどのようにメッセージを届け、広げればいいか。議論や理屈だけでは足りない。クラスターの壁を越えた「共感」の輪を広げていく必要がある。

先日13年ぶりに来日公演したU2のステージのように、極上の音楽の中にさりげなく社会的メッセージを入れるようなやり方が、現代においては結局一番遠くまで届く。

ビジネスにおける教養としてのアートの必要性が叫ばれ、ベストセラーも生まれている。

なぜ、ビジネスにアートが必要なのか。分断の時代の「共感」の大切さの中に、その理由を考えるためのヒントが隠れていそうだ。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎 写真=AP/アフロ)

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