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「ヤクザ続けたくない」令和の暴力団組員の本音

プレジデントオンライン / 2019年12月27日 15時15分

刑務所を出所した指定暴力団山口組ナンバー2の高山清司若頭(中央)=2019年10月18日、東京都港区のJR品川駅 - 写真=時事通信フォト

■ヤクザから見た安倍首相は「覇気がない」

「線が弱い。覇気がない。あの迫力では相手を打ち負かせない」

これは週刊ポスト(1/3・10号)に掲載された「ヤクザ世論調査 現役組員100人に聞きました」にある安倍首相の評価だ。なるほど当たっている。

ヤクザというのは政治が好きらしい。ヤクザになっていなければ政治家になっていたと公言する親分たちが多いそうだ。

ハマコー(浜田幸一・故人)なんかは、ヤクザが政治家になったといわれても、そうだろうなと思うしかなかったが、そんな政治通のヤクザたちは安倍首相を評価していないというのである。

東京オリンピックに関しては賛成が多いそうだ。なぜなら、前の東京オリンピック(1964年)では建設現場に作業員を派遣したりして、えらく儲けたそうだから。

山口組の分裂抗争については、回答無し、そう簡単には収まらないという見方が多いようだ。

「自分たちの組の上の人間からまったく説明がない。何があったか知りたければ週刊誌を読むしかない。今はネットで即時に情報が流れるが、その分ガセが多い」(関西独立組織幹部)

■「これからも続けたいか」という質問に対しては…

では景気についてはどうか。“悪い”が80%を超えている。意外なのは、かなりの人間が民間の生命保険に加入しているそうである。だが、妻が亡くなっても、暴力団という反社会勢力が受取人では払えないといわれ、今まで払った保険料だけ返金してきたところもあったという。

以前は健康保険証を持っていないヤクザもいたが、今は他人名義を使用すると詐欺罪になるから、国民保険には全員が加入しているという。

国民年金を約1割が支払っていて、以前払っていたというのを加えると、3割近くになるという。“今は年金保険料は払っていない”が約7割。

なぜなら、暴排条例でヤクザは表の仕事ができないことになっているし、銀行口座も持てない。表向きヤクザは無職でなければならないから、無職で無収入。したがって住民税も健康保険料も最低クラス。年金は申請すれば免除になるが、支給されるかどうか。

だが、厚労省年金局事業管理課によれば、基準を満たしていれば年金は支給されるそうだ。払われると、郵便局なら直接受け取れる。

ヤクザをこれからも続けたいというのは少数で、“いいえ”が圧倒的。

令和になってもヤクザは生き残るか? 違法ドラッグや売春がなくならない限り、ヤクザは残る。その通りだろう。

■死者29人、560人が逮捕された史上最悪の「山一戦争」

話は変わるが、現役時代に私が取材したヤクザの話をしよう。

ヤクザは三日やったらやめられない。

そう思ったのは、私が現役の月刊誌の編集者だったとき、「山一戦争」を取材しに一和会の某組長の家に行ったときだった。

「山一戦争」とは、1984年8月から1989年3月にかけて、山口組と一和会が血で血を洗う抗争を繰り広げた事件をいう。

300件以上の抗争があり、山口組側に死者10人、負傷者17人、一和会側は死者19人、負傷者49人が出た。抗争に巻き込まれて警察官、市民4人が負傷し、逮捕者は560人にもなった史上最悪の抗争事件である。

きっかけは、山口組四代目組長に竹中正久若頭が就任したことだった。これに反対する山本広組長代行らが竹中の就任挨拶に出席せず、反竹中派が山菱の代紋を組事務所から外し、「一和会」を結成したのである。

8月に山口組系組長が、一和会の若頭補佐を刺殺して抗争の火蓋が切られた。

そして、1985年1月26日、竹中正久組長(当時51歳)が、大阪・吹田市内のマンションで一和会組員にピストルで撃たれ、翌日、意識を回復しないまま死亡したのである。

MSN産経ニュースWest(2011年10月11日付)「【関西事件史】山口組4代目組長射殺事件(上)病院に組員ら300人」で、打たれた直後の竹中組長の様子をこう書いている。

「胸や腹に銃弾を受け、瀕死(ひんし)の重傷を負った竹中組長は、自力で自分のベンツに乗り込み、配下の組員の運転で大阪市南区(現中央区)内の南組事務所に向かっていた。そこから救急車を呼び大阪警察病院に搬送されたのだった」

山口組は舎弟頭を組長代行にし、後に五代目に就任する渡辺芳則山健組組長を若頭補佐にして、報復を開始するのである。

■一和会系組長にアポを入れ、豪邸へ入った

当時、実話系週刊誌が毎週、この抗争事件を報じていたが、現代や文春などは読者層も違うとして、あまり熱心にやっていなかった。

だが、山口組組長が殺されたとなると、がぜん、読者の関心も高まり、その筋に詳しいライターたちに依頼して取材合戦が熾烈になっていた。

私のいた月刊誌でもやろうということになり、私とトルコ風呂(今のソープランド)に詳しく、そこからヤクザにコネのある記者と2人で一和会系の組長にアポを入れ、取材に向かった。

組長の豪邸の周りを多くの警察官が取り囲んでいた。身分証の提示を求められたが、「取材だ」というと通してくれた。

大きな門をくぐると、若いヤクザたちに取り囲まれ、「何しに来た? どこの者だ?」と、口々に誰何(すいか)される。月刊誌の名前を告げても、「しらねぇな、そんな雑誌」とニベもない。

後でヤクザの一人から聞いたのだが、彼らは現代や文春などは読んだことがないという。愛読書は実話や大衆で、ここから情報を得る。一般人の現代や文春のようなもので、一番クオリティーが高いのがアサヒ芸能だそうだ。さしずめヤクザ界の中央公論といったところか。

アサ芸に自分の名前が載ると切り抜いておいて、みんなに自慢そうに見せて回るそうである。

■一斗樽にふぐ刺し、呼べば燗酒が出てくる

ようやく通された大広間には、組長が床の間を背に座り、その周りに子分衆、といっても幹部たちだろうが、ズラリと座って、まるでヤクザ映画の1シーンのようだった。

組長の横には一斗樽がいくつも並べられ、膳にはふぐの刺身が人数分置かれていた。組長曰く、警察がうるさくてゴルフにも行けない。外へも出られないから、知り合いが酒やコメ、名産品を山ほど送ってくれるので、こうやって毎日、宴会をやっているというのである。

その口調にも、態度にも、抗争の渦中にいるという緊張感は感じられなかった。あまりのなさに、これで山口組と闘えるのかと心配になったほどだった。

そんなとき、先のような感想を持ったのだ。兄貴がタバコを取り出すと、若いのが飛んできて火をつけてくれる。「酒」といえば、すぐに燗酒が出る。まるで大学のスポーツ部のように、きびきびしていて動きに無駄がない。

チンピラのうちは辛いだろうが、ある程度の役職が付けば、ヤクザって居心地はいいのだろうなと思わせた。

だが私には、命じられるまま鉄砲玉になって、敵を殺す度胸はない。

■「上から命令されれば殺しもやる?」と聞くと…

ここでの話ではないが、それ以前に、福岡県の道仁会というヤクザ集団を取材したときのことである。九州一凶暴な集団と恐れられていたのだが、そこから泣きの電話が編集部に入った。

電話口でヤクザが、県警のやり方があまりにもひどい、そのことを取材して書いてくれと、切々と訴えるのである。

先輩ライターと取材に行った。話を聞くと、たしかに道仁会を何が何でも潰してやるという県警のやり方は、やや行き過ぎているのではないかと思うところがあった。

帰りに、まだ20歳前後の若い組員がクルマで駅まで送ってくれた。「ヤクザって面白いか?」と聞くと、そうでもないけどといいながら、背広の内ポケットからチャカを出した。

「上から命令されれば、殺しもやる?」と聞くと、「やりたくはないけど、仕方ない。でも、そうならないうちに組を抜けるかも」。その顔が寂しげに見えたのが、今でも忘れられない。

「山一戦争」は、一和会側が追い詰められ、稲川会と会津小鉄会が仲裁する形で抗争は終結した。当初、2000人近くいた一和会の構成員は200人までになり、その後、消滅した。

■山口組が3分裂した理由は「食えないから」

この後、渡辺芳則が五代目、司忍が六代目に就任して山口組一強時代が再び続く。だが、1992年に暴力団対策法が施行され、2002年には全国で暴力団排除条例(通称暴排条例)が制定され、ヤクザたちは、以前のように稼ぎのいいシノギがなくなり、金銭的に追い詰められていくのである。

ジャーナリストの伊藤博俊はNIPPON.com(2017.09.11)でこう書いている。

「2年前に起きた山口組分裂は、ある意味でヤクザ組織の“悲鳴”だった。六代目山口組から神戸山口組が分派したのが2015年8月のこと。さらに17年4月、そこから任侠(にんきょう)団体山口組(現・任侠山口組)が枝分かれし、3つの組織が併存する状況となった。

一連の分裂の理由を一言で説明すると、『食えないから』である。かつて山口組の『菱の代紋』を背負い、体を張る若い衆を抱えていれば、『直参』と呼ばれる本体の直系組長たちは『いい家・いい車・いい女』という“不良の夢”を実現できた。しかし、近年の暴力団対策法の度重なる改正と、暴力団排除条例の全国的な整備によって、ヤクザは『食えない職業』になった。

六代目山口組の『会費』と呼ばれる上納金は月85万円で、そのノルマのキツさに加え、さらに締め付けを強める執行部に反発し、最大派閥・山健組の井上邦雄組長を中核とするメンバーは組を割った。ところが、新しくできた神戸山口組は直参の負担こそ30万円以下と軽くしたのに対し、その分中核団体である山健組幹部たちの上納金は重くなり、『話が違う』と不満が鬱積(うっせき)し、任侠山口組の誕生となったわけだ」

カネと女といい生活ができなければ、ヤクザをやっていても意味がない。実にわかりやすい理屈だ。だが、3つに分裂した山口組が共存できるはずはない。

■10月に出所した高山若頭とはどんな人物なのか

司忍六代目山口組組長は、2005年に就任したが、銃刀法違反事件で有罪が確定して入獄し、2011年4月に復帰する。ストイックに自らを律する人柄だといわれ、神戸山口組が離れ、新たな組を作ったときも、「新しい山口組の始まり」ととらえていたといわれる。

しかし、それが大きく変わったのは、司六代目組長に全幅の信頼を置かれ、司組長が不在のときは、ナンバー2として見事な組織運営の手腕を発揮した高山清司若頭が、恐喝罪で服役していたが、今年の10月に出所してからである。高山若頭について朝日新聞デジタル(2019年12月24日13時00分)はこう報じている。

「山口組トップの篠田建市組長(77)と同じく弘道会出身で、意見が対立した山口組傘下の組長を処分して組を解散に追い込み、自らに近い組を直系に格上げした。月会費に加えて飲料水や雑貨の購入を迫る集金システムを築き、直系組長を総本部(神戸市灘区)に頻繁に詰めさせる『参勤交代』で支配を強めた。その手法が山口組の分裂を招いたとされる」

出所前から、高山が出てくれば動くといわれていた、神戸山口組の幹部5人のうち3人が11月に襲われた。

兵庫県尼崎市の居酒屋で、古川恵一幹部(当時59)が客の男に自動小銃で撃たれ死亡した。

■本格的な報復準備に入ったとの情報もある

犯人は愛知県江南市の朝比奈久徳容疑者(52)。彼は山口組系の元組員だったが昨年12月に破門になっていたといわれる。朝日新聞デジタル(同)はこう書いている。

「発射されたのは28発。自動小銃は米軍がイラク戦争や湾岸戦争でも使った「M16」系統だった。最大射程は約500メートル。京都市内の神戸山口組系の組も襲うつもりだったと説明した。

店には常連客の男性、パートの女性も。銃器評論家の津田哲也さんは『店からほかに人が出てきたら犠牲になるおそれがあった』」

警察庁によると山口組分裂以降、山口組と神戸山口組の抗争とみられる事件は121件(12月17日時点)で死者は9人に上るという。

12月13日には大きな動きがあったと週刊文春(12/26号)も報じている。

この日、神戸市内で行われた神戸山口組の納会で、井上邦雄組長が到着する前に、舎弟頭補佐を務める「太田興業」の太田守正組長が退席したというのだ。

その後、太田組長は大阪府警に解散届を出して、引退を表明したのである。武闘派で知られた太田組長だったから、組内に衝撃が走ったという。

神戸山口組の瓦解が始まったようだが、その指揮をしているのが、ナンバー2の高山清司六代目山口組若頭ではないかと噂されているようだ。

やられて黙っていればヤクザが廃る。神戸山口組が本格的な報復準備に入ったとの情報もある。

■取り締まりを強めるほど裏に潜っていき、進化していく

神戸山口組が壊滅すれば、神戸を批判して出た任侠山口組は古巣へ戻るのではないか。

だが、この抗争を決着させるために残された時間は少ない。なぜなら、2020年早々にもこの2団体が「特定抗争指定」を受けることが決まっているからである。

アサヒ芸能(1/2・9号)はこう報じている。

「特定抗争指定とは暴対法の規定で組織に最大の規制をかけるもの。激突を繰り返す両組織に対して、ヤクザとしての活動を封じて抗争を鎮圧するという寸法だ。まず、各都道府県公安委員会が、両組織の勢力範囲に『警戒区域』を設ける。その区域にある組事務所は使用を封じられるどころか、区域内で組員が5人以上集まることさえ禁じられる」

違反すれば逮捕もある。高山若頭は持病を抱えているという情報もあるから、分裂を終結させるためには手段を選ばないようだ。

今の流れは六代目山口組が神戸山口組を圧倒しているようだが、警察側には高山若頭を別件で逮捕しようという動きもあるそうだし、追い詰められた神戸山口組が起死回生の反撃に出れば、組員だけではなく、一般市民が巻き込まれてケガをする恐れもある。

だいぶ前にMSN産経ニュース(2011年10月1日)で司組長へのインタビューが掲載された。そこで司組長は暴排条例施行について、こういっている。

「山口組というのは窮地に立てば立つほどさらに進化してきた。昭和39年のときもわれわれの業界は終わりだといわれていた。ところがそれから1万人、2万人と増えた。弾圧といえば語弊があるが、厳しい取り締まりになればなるほど、裏に潜っていき、進化していく方法を知っている」

暴排条例はヤクザの人権を抑圧している、憲法違反だという声もある。司組長のいう通り、ヤクザを追い詰めれば裏に潜り、より悪事に走るだろう。必要悪とまではいわないが、彼らが暮らしていける環境を整えてやらないと、この問題は解決しないと思う。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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