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作り置き料理をやめた大型旅館のすごい働き方

プレジデントオンライン / 2020年2月11日 11時15分

内藤 耕『時短の科学』(日経BP)

■「まとめてやる」より「こまめにやる」ほうが効率的

非製造業の生産性向上については近年、経済産業省や日銀もレポートを出している。しかし、この重要テーマの体系化を試みたビジネス書は珍しいのではないか。少なくとも私は「こんなことを言う人は初めて」と感心しながら読んだ。

小売り、飲食、宿泊等のサービス業の年間休日数は製造業より平均10日以上少ない。時短を進め、労働環境を改善するために何をすべきか。製造業との違いは目の前の「顧客」の存在だ。いつ来るかわからず、ニーズもバラバラ、このやっかいな生モノがサービス業の効率化を阻んできた。ここに科学の目を向けなければ、生産性向上はありえない。これが本書の主張の柱である。

「手が回らない」「人手が足りない」と感覚的に嘆くのではなく、まずは現状把握。プロット分析では、横軸に客数、売り上げ、注文数等の作業量を反映するデータを、縦軸に労働時間を取る。すると作業量の割に労働投入量が少ない時間帯(つまり多忙)とその逆(つまりヒマ)がかなりはっきり表れる。顧客動向を完璧に予測するのは無理にしても、曜日や時間帯の傾向を摑んで人員を配置すれば、時短に貢献できそうだ。

■必要時に必要な人数が必要な場所にいる

現状把握後に取り組むべきは繁忙時間への対処より、むしろ仕事の少ない手待ち時間をどうするかである。必要時に必要な人数が必要な場所にいるシフトを実現するためのリアルタイム・サービス法。そんなに簡単にいくか? とも思ったが、料理の作り置きをやめた旅館の実例に説得力があった。人は何ごともまとめてやることが効率的と考えがちだ。しかしそれは業務に大きな波をつくることにもなる。注文に合わせこまめに作る(仕事を小ロット化する)ほうがシフト上も有利であり、結果、顧客満足にも貢献する。

著者発案の「稼働対応労働時間制」も興味深かった。これは一日の労働時間を、変形させない固定労働時間と、稼働状況で変動する稼働対応労働時間に二分割するもの。詳しくは本書で読んでもらうとして、既存の変形労働時間制、裁量労働制、フレックスタイム制などの問題点をうまくフォローしていると感じた。

突っ込みどころがないわけではない。稼働対応制にしても(賃金への配慮はあるにせよ)個人の都合より会社の都合を優先してほしいという制度である。子どもが保育園にいる時間は無駄なく働きたいのに……といった声も聞こえてきそうだ。仕事量を平準化するためのマルチタスクの提案も、業務の単純化・マニュアル化が不可欠。一周回って、20世紀初頭の「テイラーの科学的管理法」の薫りが漂う。

とはいえ1000社を超える企業訪問を行い、その調査結果をモデル化した提言は貴重だ。本書を端緒として非製造業、とりわけサービス業の生産性向上へ向けて、方法論の議論が高まればと思う。

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大島 武(おおしま・たけし)
東京工芸大学教授
1963年生まれ。一橋大学社会学部卒業。ロンドン大学インペリアル校経営大学院修了。NTT勤務などを経て、2012年より現職。弟・大島新氏との共著に『君たちはなぜ、怒らないのか――父・大島渚と50の言葉』

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(東京工芸大学教授 大島 武)

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