通信教育だけで開成に合格した「神童」の育て方
プレジデントオンライン / 2020年1月10日 9時15分
■四谷大塚の通信教育に入会したものの……
東京から遠く離れた地方在住のSくん(現中学1年生)は、「記念受験」にもかかわらず開成中学校、渋谷教育学園渋谷中学校という最難関校に見事合格し、現在は、県内にある中高一貫校の高等学校附属中学校に通っている。
小学3年生のとき、ほんの腕試しのつもりで受けた四谷大塚の「全国統一小学生テスト(全統小)」で全国50位以内に入り、東京で行われた決勝大会に招待されたのがすべての始まりだったと母親は言う。
■通信生だけではなく、通塾生も合わせた中で1位になった
決勝大会の会場で息子のテストが終わるのを待っていると、母親は塾のスタッフから声をかけられた。
自宅は地方在住であることを告げ、入塾を断ろうとしたら、「(四谷大塚には)通信教育もあります」と聞き、母親は通信教育の入会を決めた。
当時、Sくんは国立大学附属小学校に通っており、そのまま附属中学校に進学する予定だった。つまり、中学受験をする予定はなく、通信教育に入会したのも「学力を伸ばせれば」ぐらいの軽い気持ちだったそうだ。
ただ、小3の間は通信教育の教材にほぼ手をつけなかったという。幼稚園から自宅で公文に取り組んでおり、その当時、すでに高校生レベルに達していたため、小3向けの教材を解く意味が見出せなかったのだ。
新4年生になり、教材が中学受験向けの「予習シリーズ」になった。学習のまとめとなる「週テスト」が同封されているのを見て、母親は「一度ぐらいやってみる?」とSくんに週テストを解かせてファックスで答案用紙を送った。
「そうしたら、通信生だけではなく、通塾生も合わせた中で1位になったんです! まあ、1位になったのはそれきりでしたが(笑)、うれしくて、それから真面目に教材に取り組むようになったんです」
■アメリカから帰国後、息子は「将来はMITに行きたい」と言い出した
親子の意識を大きく変えたのは、小4の夏休みの四谷大塚の「アメリカ アイビーリーグ視察団」だった。これは、小4の6月の全統小で全国30位以内に入った子供たちが無料で参加できる研修旅行で、ハーバードやMIT、国連などを10日間かけて巡る。
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優秀な友だちと共に世界一流の大学を見て回る機会などまたとないと、Sくんが小3の冬に母親は勤めていたパート先を辞め、勉強のサポートに徹した。
その甲斐あって、無事、研修旅行に参加したSくんは、帰ってきてから「将来はMITに行きたい」と言い出したほど充実した時間を過ごせたようだ。また、「困っている人の助けになりたい」「社会をよくしたい」といった理由で医師や研究者などを目指している友だちにも大きな刺激を受け、全統小の決勝大会で友だちと会うことを目標に勉強も頑張るようになった。
母親にとっても、このアイビーリーグ視察団で首都圏の教育熱心なママ友と知り合えたことが大きかったという。
「勉強方法や成績の分析の仕方、学校選びのことなど、たくさん教えていただきました。同時に首都圏と地方の教育に関する温度差にも驚きました」
しかし、そういったママ友とのおしゃべりや通信教育を通じて首都圏の教育事情に触れるにつれ、「地元で普通に暮らしていては知り得ないような世界を知れて、それはとても幸福なことだと感じるようになりました」と話す。
■母親に「なんで通信教育なんかはじめた」と言って荒れる息子
通常、中学受験において塾通いはマストといっても過言ではない。通信教育だけで最難関の開成に合格したと聞くと驚くが、母親は「もし塾に通わせていたら、逆に息子は中学受験という経験をしようと思わなかったかもしれない」と話す。
なぜなら、好奇心旺盛なSくんはさまざまなことにチャレンジをしたがるタイプで決められた時間に塾に通う、というのが無理な子だったからだ。「自分で好きなようにスケジュールを決めたい子なので、塾に通わせたら中学受験は嫌だと言ったかもしれません」と母親は語る。
特に幼稚園の頃からスポーツが大好きで、サッカーやテニス、フットサル、バドミントンと多種多様な習い事に通っていた。「スポーツと両立したいなら勉強を頑張って終わらせよう」と発破をかけるのが一番モチベーションアップにつながっていたのだ。
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また、Sくんにとってスポーツは受験勉強の息抜きでもあった。体を動かすことが大好きなので、勉強の合間の休憩も親子で卓球などをしていたほどだ。
しかし、小6の秋以降、本格的な勉強を自宅で始めてからは休憩時に卓球をする時間すらなくなるほど、ハードな日々が始まった。次第にSくんはストレスをかかえ、「なんで通信教育なんかはじめたんだよ。そうでなければこんな勉強しなくていいのに」と母親を責めるようになったという。
母親は、勉強はハードかもしれないが、レベルの高い勉強ができること自体が恵まれているのだと理解してほしくて何度も話をした。しかし、Sくんのモチベーションは全くあがらず、逆に派手な親子喧嘩に発展する日も多かった。
■同じ開成を目指す友だちから受けた大きな刺激
そんな折、小6の11月に全統小の決勝大会への参加が決まり、いい機会とばかりに四谷大塚の先生に親子で面談をお願いした。そして、その面談で、親子はある重大な決意を表明する。
なんと国立大附属小学校から同中学校への内部進学をせずに、地元の中高一貫校の付属中学を第一志望に中学受験をすると決めたのだ。同時に、迷った末に、開成中学と渋谷教育学園渋谷中学校の受験も決めた。
もし、合格しても東京の開成に通うことは現実的ではなかったが、これまで息子が頑張ってきた成果を試す場としてチャレンジさせたいと考えたのだ。
その際、塾の先生から「冬期講習に来てみる?」と誘われたことが母親の背中を押したという。もともと母親には「一度、頑張っているライバルたちの背中を見せたい」という思いがあったのだ。きっと同世代の優秀な友だちの存在は刺激になる、と。その場で冬期講習の申し込みをし、冬休みに東京のホテルに親子で泊まり込んで7日間の講習を受けた。
■なぜ、「記念受験」なのに開成に合格できたのか
冬期講習の効果はてきめんだった。
自宅に戻った後も、人格が入れ替わったかのようにSくんは勉強に熱中した。
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「『部屋で勉強する。集中したいから入ってこないで』と言われたときは、本当に我が子か? と疑いました(笑)。どうしても信じられなくて、何度もこっそり覗きに行ってしまいましたね」
これまでは一人でテストを解き、インターネットで結果を確認していたが、冬期講習では皆で一斉にテストを受け、翌日には結果が張り出される。通信教育用の映像授業は見るだけだが、実際の授業では質問や雑談が飛び出す。何より、同じ開成合格を目指して頑張る友だちとのやりとりが大いにモチベーションアップにつながったのだ。
■全国に散らばるライバルたちの存在
開成の合格発表でSくんの発した「あった! あった!」といううれしそうな声を母親は忘れられないという。「記念受験」ではあるが、努力した証としての“合格”を手にできたことはとても誇らしかった。
開成の合格発表会場では、アイビーリーグ視察団で知り合ったママ友とも会話を交わした。彼女の息子も開成に合格したのだが、「じゃあ、次は東大でね」と言われ、ひどく驚いたと言う。
「中学に入学した途端、大学のことを考える感覚なんて地元にはないんです。その意識の高さに驚いてしまって」
さらに、お礼に行った塾でも同じセリフを先生から言われ、「これが首都圏では当たり前の感覚なんだ」と改めて驚いたという。
現在Sくんは、地元の中高一貫校の附属中学校で運動部に入部し、勉強に部活に学校行事にと忙しく充実した日々を送っている。中学受験で頑張った分、今度は大好きなスポーツを思いっきりやってほしいと話す母親だが、同時に全国統一中学生テストを受けさせるなど、勉強への意識がだらけないようにも注意している。
「息子が東大を目指すのかどうかはまだわかりません。ただ、全国に良きライバルがいることを常に意識はしておいてほしいと思っています」
地方在住でありながら、開成合格までたどり着けたのは、母親が時間もお金もかけてライバルの背中を見せたから、ということに尽きる。それは中学受験だけで終わるものではなく、Sくんにとって同世代のライバルの存在を心に刻む機会にもなっただろう。
「息子に自分のライバルを可視化することが、息子の人生をより良い方向へ進めることになる」と信じた母親の賢い選択が、開成合格という勲章をもたらしたのだ。
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フリーランス編集・ライター
熊本県出身。子育て情報誌や教育情報誌の編集に長く携わり、2017年に独立。現在は、ビジネス誌や教育誌、書籍・ムック、企業社内報などで幅広く編集やライティングを担当。屋号は松本明生堂(まつもとめいせいどう)。
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(フリーランス編集・ライター 松本 史)
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