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日本の「赤いおもてなし」に白ける中国人の本音

プレジデントオンライン / 2020年1月10日 15時15分

春節の1カ月ほど前から、中国の百貨店やスーパーに行くと、真っ赤な下着が大量に売られている - 撮影=中島恵

中国は、赤い国旗や中国共産党がシンボルカラーに赤色を用いるなど、“赤”のイメージが強い。しかし、ジャーナリストの中島恵氏は「日本側がおもてなしとして用意した赤一色の装飾に白けるほど、中国人の色に対するイメージは変わってきている」と指摘する――。

※本稿は、中島恵『中国人は見ている。』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

■中国のお正月は部屋もお年玉袋も真っ赤

もうすぐ中国の春節(旧正月)。今年は1月24日から30日までの7連休となります。大みそかは24日、春節の1日目は25日ですが、実際にはその2週間以上も前から「春運」というお正月に帰省する人々の民族大移動がスタートしており、中国は早くも春節ムードに包まれています。

中国の春節といえば、日本人の皆さんは何を思い浮かべるでしょうか? 激しい爆竹の音や真っ赤な飾りつけ、大混雑する空港……、最近ではウィーチャット(中国のSNS)を介した紅包(ホンバオ)と呼ばれる「電子お年玉」が飛び交っている様子を想像する人もいるかもしれません。

日本の報道でも中国の「真っ赤」な飾りつけはよく目にします。中国で赤は財運や吉祥を表す「おめでたい色」とされるからです。そのため、長い間、さまざまな場面で多用されてきました。

2019年12月に発売した『中国人は見ている。』で詳しく紹介していますが、春節、結婚、開店などの「ハレの日」、中国では必ず赤いもので壁や柱を飾りつけます。中国語で赤色は「紅色」(ホンスー)といいます。結婚は「紅事」(ホンシー)、お年玉やご祝儀の袋は「紅包」(ホンバオ)、子どもが生まれたときに親戚や同僚に配る卵は「紅蛋」(ホンダン)といいます。まさに赤のオンパレードです。

■この時期に大量に売られている「赤い下着」の謎

「紅」(ホン)という中国語には「人気がある」「順調」という意味があり、中国で人気のカリスマブロガーは「網紅」(ワンホン=ネットの人気者)と呼びます。

赤には古くから太陽の力、血液の力が宿っているとされ、邪気を払い、パワーをつけるという意味があります。中国共産党のシンボルカラーも赤。中国国旗は「五星紅旗」といい、赤地に5つの黄色い「五芒星」を配したもの。

日本でも中国といえば赤、というイメージが定着しているため、中国関連の書籍のカバーは多くが赤い装幀になっています。

中国から日本に伝わってきた風習として、日本人に身近なものといえば、還暦のときに着る赤いちゃんちゃんこがあります。干支が60年で一巡し、再び赤ちゃんに戻る、邪気を払うという2つの意味があるとされています。

一般的に、日本には邪気を払うために赤いものを着るという風習はありませんが、中国では年男、年女のときに赤い下着を着る習慣があるのをご存じでしょうか?

年男、年女はよくない年といわれ、赤い下着を身に着けることで悪いものが入ってこないようにするのだといいます。春節の1カ月ほど前から、中国の百貨店やスーパーに行くと、真っ赤な下着が大量に売られているのです。日本人が見たら、ちょっとびっくりするかもしれません。

■「恥ずかしいしダサい」という一方、「無病息災だった」の声も

中国各地の友人に聞いてみると、どの地方でもたいていある習慣だそうですが、どのくらいの期間、赤い下着を身に着けるかは、かなり個人差があるという話でした。

「春節の期間中だけは毎日着ていました」と話してくれたのは上海在住、河南省出身の40代の女性。

「真っ赤な下着なんて恥ずかしいし、ダサいし、あまり気が進まなかったけれど、河南省の母親が買って待っていてくれたので、帰省している間だけ我慢して着ていました。そのあと、上海に戻ってからはもう着ていません」とのこと。

広東省在住の40代の女性は「赤い下着なんてまったく着なかったし、一枚も買いませんでした。あれはただの“迷信”ですよ。でも、父母の世代はけっこう気にしますね。父はもったいないからと、年男じゃなくなっても着ていました」と話していました。

一方、北京在住の男性は「年男の間はけっこう着ていました。おかげで無病息災でしたよ。でも、夏場は薄着になるから、着にくいですね(笑)」と振り返ります。百貨店やスーパーで大量に販売されているところを見ると、多くの年男、年女、あるいはその家族が今でもこの風習を守り、赤い下着を購入していることがわかります。

ところで、中国ではこれほど赤が多用されていることが海外にも伝わり、日本でも町の中華料理店などでは、赤がよく使われています。日本だけでなく、欧米のチャイナタウンなどでも同様で、中華料理店といえば赤い装飾、というのは世界共通の決まり事のようです。

■「日本ではちょっと誇張され過ぎな気が……」

しかし、私が取材したある30代の中国人は「日本ではちょっとそれが誇張され過ぎているような気がするのですが……」と耳打ちしてくれました。

その中国人によると「もちろん、中国でも春節などの時期は赤い飾りつけだらけになります。それは事実ですが、それ以外では、実はもう、あまり赤色を使わなくなってきています。たとえ使うとしても、もう少し洗練された雰囲気に変化してきているんですよ」といいます。

確かに、上海などのおしゃれな中華料理店に行くと、日本の町の中華料理店などで見かける赤いちょうちんや赤いテーブルなどは一切ありません。むしろ、黒と白を基調にした調度品や、暗い照明が多かったりします。

中国人の「色」に対するイメージや使い方は、社会の成熟化とともに変わってきているようなのです。

たとえば、都市部の結婚式を見てみると、西洋にならい、かなり以前から花嫁は純白のウエディングドレスを着るようになりました。赤い生地の伝統的な衣装、旗袍(チーパオ=チャイナドレス)も着ますが、それはどちらかというとお色直しで着ることが多く、都市部の若い女性の間では、断然、白いドレスのほうが人気です。

中国ではもともと白は縁起が悪い色でした。かつて日本も同じでしたが、白は悲しみを表す色で、葬儀のときに着用するものでした。ですが、西洋化の波に乗り、今では中国人もおめでたい席で白を着ることにまったく抵抗がなくなりました。

■日本人男性の礼装は「まるでお葬式のようだ」

ただし、日本人の男性が結婚式のときに、黒いスーツに白いネクタイを絞めるのは、彼らの目には「まるでお葬式のようだ」と映り、初めて見かけたときには仰天するそうです(中国でお葬式にそのような服装をするという意味ではなく、白と黒という組み合わせが、そう連想させるようです。それを聞いた日本人も「そうだったのか!」とビックリしますが)。

ちなみに、私の日本人の友人は、息子の結婚式に貸衣装の紋付き袴で出席し、その写真を中国のSNSに投稿したところ「どこのやくざの親分かと思った」と中国人にびっくりされ、大笑いしたと話していました。

2018年、中国・深圳にオープンした日系のMUJI HOTELは中国人の間で大変人気がありますが、このホテルでは、赤や金、黄色など中国人が好みそうない色は一切使われていません。それが逆に中国人にウケていることからもわかる通り、派手な色彩だけが中国人に歓迎されるわけではなくなってきています。

中国でも都市部の人は、ファッションやインテリアを選ぶとき、白や黒、グレーなど飽きのこない色、目立たない色を選ぶようになりました。

■「歓迎光臨」の垂れ幕や装飾に白けてしまうワケ

2015年の爆買いブームのころから、日本の観光業界では毎年増え続ける中国人観光客を当て込んで、春節シーズンに「春節快楽、歓迎光臨」(春節おめでとう。いらっしゃいませ)という垂れ幕をかけるようになりました。日本人もそうした赤や黄色の派手な装飾を街で目にするようになって「あぁ、そろそろ春節の時期がやってきた」と感じるほど。

赤が好きな中国人に喜んでもらおうと始めたサービスの一環でしょうが、残念ながら、私が知る限り、こうした装飾に対する中国人の評判はあまり芳しいものではありません。

中島恵『中国人は見ている。』(日本経済新聞出版社)

2019年の春節のとき、蘇州からやってきた友人からは、「せっかく日本にきたのに、これじゃあ、なんだか白けてしまうわ……中国にいるみたいじゃないの」という愚痴を聞かされました。

これまで何度も日本に遊びにきていた友人は、「日本のシックで落ち着いた建築やセンスのいい内装をとても気に入っていたのに、派手な装飾の多さにびっくり。日本のお正月は新暦でしょう? なぜここまで中国のお正月を意識し、中国的な真っ赤な飾りつけをするのでしょうか?」といったのです。

「中国人が喜んでくれるはず」と思っていた日本人にしてみれば、意外な反応かもしれませんが、私たちが海外に行って、日本人観光客に迎合するような“なんちゃって日本風”ばかりの看板や装飾(しかも、本場とはちょっと違う……)ばかりが目についたら……と考えたら、この中国人の気持ちも理解できるのではないでしょうか。

このように、色に対する認識ひとつとっても中国人は変化してきていますが、その一方で、今でも変わらないことがあります。そのひとつが「数字」に対するこだわり。次回は、中国人と数字についてお話しましょう。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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