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橋下徹「ゴーン氏への日本の反論はアンフェア」

プレジデントオンライン / 2020年1月15日 11時15分

日本メディアの代表取材に応じるカルロス・ゴーン被告=2020年1月10日、レバノン・ベイルート[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

カルロス・ゴーン被告が隠密裏に決行したレバノンへの逃亡、そして日本の刑事司法制度への痛烈批判。日本政府も反論に出たが、それは公正の思考に拠っていないと橋下徹氏は指摘する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(1月14日配信)から抜粋記事をお届けします。

■ゴーン氏に対する日本政府の主張に満足する者は中国を批判できない

レバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告は、1月8日レバノンで会見を開き、徹底して日本の刑事司法制度を批判した。現在もその勢いはとどまるところを知らない。

(略)

今の時代は国や論者の立場により、多種多様な主張が入り乱れているが、そのときに重要なのは「どの主張が絶対的に正しいか」という思考ではなく、その主張はフェア=公正かという思考である。

(略)

ゴーン氏による日本の刑事司法制度批判に対して、日本政府(法務省・検察)は、「ゴーン氏の主張によって逃亡は正当化されない。日本の刑事司法制度には何の問題もない。容疑者・被告人の権利は十分に保障されている」と主張するが、逆に言えば、その主張だけだった。

この日本政府の主張に満足する者は、フェアの思考からすると、今、香港市民が民主主義を守るために戦っている状況において、中国を批判する資格はない。

(略)

■香港デモのきっかけは、中国の刑事司法制度に対する批判

そもそも2019年3月より始まった香港のデモは、中国の刑事司法制度に対する香港市民による批判がきっかけだった。

2019年に香港で逃亡犯引渡条例が改正される運びとなった。この条例改正が実現すると、中国に犯罪容疑をかけられた香港市民が、中国に引き渡される可能性が高くなる。

(略)

そこで香港市民は「中国当局は犯罪をでっちあげることなど簡単にやってくる。中国当局にとって気に食わない香港市民に犯罪容疑をでっちあげ、中国本土への引き渡しを求めてくる。そして中国本土で思うように裁くだろう。中国は香港を意のままに統治したいところだが、香港の民主主義を死守しようと中国を強く批判する民主派、独立派の香港市民が邪魔だ。だからそのような人物に容疑をでっちあげ、中国の裁判所で裁き、刑務所に放り込むだろう」と考え、香港の民主主義を守るために、この逃亡犯引渡条例改正に反対の声を上げた。

実際に中国は、香港に対する締め付けを厳しくしている。

香港において中国を批判し、民主主義を強く唱える者が突如拘束されたり(銅鑼湾書店店主)、香港の立法院の議員選挙に民主派の人物が立候補できないようにしたりと、あの手この手で中国を批判する者を抑え込もうとしている。

(略)

僕も中国の刑事司法制度はまったく信用していない。だから中国当局に拘束されて中国の裁判所で裁かれるなんて、考えただけでゾッとする。このように感じる日本人は非常に多いはずだ。これは日本人が、中国の刑事司法制度を野蛮だと考えていることによる。

このように、香港のデモは中国本土の刑事司法制度は野蛮だ、信用できないというところから始まったものである。だから、ここで香港市民側の味方につくということは、それは中国本土の刑事司法制度は野蛮だ、信用できないという主張をしていることと同じだ。

対して中国は、「中国には中国なりの刑事司法制度がある。中国の刑事司法制度には何の問題もない。容疑者、被告人の権利も十分に保障されている」という主張だ。

■なぜ中国の主張に反発するのに日本政府の同様の主張は受け入れるのか?

この中国の言い分には、香港市民だけでなく、多くの日本人も怒るはずだ。

「何言ってんだ! 中国は民主化されていないし、三権分立もきっちり確立してない。中国共産党の一党独裁の国で、立法、行政、司法の上に共産党が君臨している国じゃないか。裁判だって中国共産党の思いのままになるはずだ。容疑者、被告人の権利も保障されていないし、弁護士だって国に楯突く者は簡単に拘束されるじゃないか(ノーベル平和賞受賞の故劉暁波氏など)。中国の刑事司法制度には問題が大ありだ!」と。

では、今回の日本政府の主張をもう一度振り返って欲しい。

(略)

中国の主張とまったく同じである。そうであれば、日本政府の主張に疑問を持たずにそれに満足する者は、中国の主張にも怒れないはずだ。

逆に中国の言い分に怒る人は、それと同じ日本の言い分になぜ怒らないのか。それはおそらく日本は正しく、中国は正しくないという決めつけがあるからだろうが、これはフェアの思考じゃない。

日本が正しいか、中国が正しいかは、いくら議論しても日中間では結論は出ないだろう。お互いに自分のほうに正義があるからだ。そしてお互いに正義をぶつけ合っている限りは、何の着地点も見出せない。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

このときに役に立つのがフェアの思考だ。

お互いの価値観の相違によってお互いに正義があり、どちらの主張が絶対的に正しいか結論が出ない場合でも、それぞれの主張がフェアかどうかは判断できる。フェアか否かは、価値観に左右されない。立場の違い、価値観の違い、それこそ正義の違いがあったとしても、それを乗り越えて評価できるものが「フェア」というものである。

中国の刑事司法制度が正しいのか、日本の刑事司法制度が正しいのかは別として、フェアの思考からすると、今回の日本政府の主張に怒らないのであれば、中国の同じ主張にも怒ってはならない。すなわち香港のデモに味方することはダメだ。

逆に、中国の主張に怒り、香港のデモに味方するなら、フェアの思考からすると、今回の日本政府の主張にも怒らなければならない。僕はこの立場だ。

■フェアの思考ではありえない「日本の主張だから正しい」という結論

日本は正義、中国は不正義とういう前提から物事を考えるからおかしくなる。中国においては、中国は正義、日本が不正義という前提になっているのであるから、着地点を見出せなくなる。

このような前提から考えてしまうと、日本と中国の主張が同じであっても、日本の主張は正しく中国の主張は正しくない、あるいは逆に日本の主張は正しくなく中国の主張は正しいという結論になってしまう。

今、メディアを通じてコメントをしているインテリたちの多くはこの立場だ。どちらが正しいのかを論じ合ってしまっている。

フェアの思考では、同じ主張なら、同じ評価をしなければならない。中身が同じ主張について、日本の主張がOKなら、中国の主張もOKと評価しなければならない。逆に中国の主張がダメなら、日本の主張もダメだと評価しなければならない。

(略)

(ここまでリード文を除き約2500字、メールマガジン全文は約1万700字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.183(1月14日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【フェアの思考(1)】「ゴーン氏問題」を端緒に日本が考えるべき刑事司法制度改革の問題点》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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