30歳を過ぎたら同期の新居に行ってはいけない
プレジデントオンライン / 2020年1月11日 9時0分
■同期入社の新居に安易に遊びに行くと惨めな気持ちになるワケ
マイホームの購入では、慎重に計画を練るための時間と労力が欠かせない。ところが、十分な準備や検討を重ねずに勢いでマイホームを購入する人がいる。
筆者のところには、会社の同期社員が家を購入すると聞き、「負けるものか、あいつが買えるなら、ウチも」と購入を決め、その後に後悔している30代ビジネスパーソンがたびたび相談に来る。
前編の「住宅購入まで」に続き、都内にマイホームを構えた32歳の夫婦(3歳の子どもがひとり)の事例を見ていこう。後編では、「住宅購入後の予期せぬ出費」について考えたい。
■同期の新居は「庭付きの注文住宅」で、わが家に比べ……
築5年の中古マンション(物件価格4000万円)を購入した田村祥太さん・亜子さん夫婦(ともに32歳)。2人は毎月約12万円の住宅ローンを66歳まで返済しなければならないが、念願のマイホームを購入できた亜子さんは、当初は幸福感いっぱいだった。
祥太さんも、物件選びなど購入までの道のりは大変だったが、これまで住んでいた賃貸よりも広くて、設備が良い分譲マンションに満足していた。何より、「自分の城」を持てたことで、社会人として一人前になれたようで誇らしかった。仕事に対するモチベーションもあがった。
会社の同僚や友人たちを招いて新居のお披露目パーティーをした際には、Aさん夫婦もお祝いを持って来てくれた。Aさん夫婦の家は、注文住宅なので、出来上がるまでに時間がかかるらしく、新居への引っ越しは田村さん夫婦のほうが早かった。
Aさんの妻は「やっと出来上がって、もうすぐ入居できそうなんです」と言いながら、亜子さんと、最新家電や家具、インテリアショップなどの情報を交換し合って、盛り上がっていた。
■インテリア雑誌に掲載されてもおかしくなさそうな
亜子さんの様子が変わり始めたのは、Aさん夫婦の新築パーティーに呼ばれてからだ。
Aさん宅は、最寄り駅からやや離れているものの、ゆったりとした庭付き一戸建てで、さすが注文住宅といった感じの凝った外装は、一目で周囲の家との違いがわかる。
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内装やインテリアも「とにかく、建築士さんがこだわる人で……」とAさん夫婦は苦笑まじりに言っていたが、素人目にもセンスがよく、そのままインテリア雑誌に掲載されてもおかしくなさそうだ。
祥太さんは、自分たちの中古マンションと比べても仕方ないと、頭ではわかっているものの、気持ちは何となく沈んでいったという。亜子さんの様子をそっとうかがうと、時折、顔が能面のように無表情になっている。内心穏やかではないことだけは分かる。
田村さん夫婦とAさん夫婦の違いは、購入物件だけではなかった。
■同期には親からの経済的援助や育児サポートがあった
Aさん宅の敷地は、Aさんの妻の父親名義のもので、結婚した時点でそこに住宅を建てる予定になっていたそうだ。そのため、会社の「住宅財形」や「NISA」など税制上有利な金融商品を活用して、住宅資金を計画的にためていた。
Aさんの実家の親からも「住宅資金贈与の特例」で援助を受けることができ、土地代を除く建築費用(約2000万円)の半分以上は自己資金でまかなったという。月数万円程度の住宅ローン返済も20年で完済できるらしい。月12万円の返済を35年間続ける田村家よりずっと余裕のある返済プランとなっているのだ。
さらに、Aさんの妻の実家の近くに建てただけあって、両親が子どもの保育園の送迎や世話などをこまめに手伝ってくれるし、夫婦そろって、実家で夕食なども食べて帰ることもあるという。
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田村さん夫婦はいずれも地方出身で、両親は健在だが、すでにリタイアして年金暮らし。住宅資金などの経済的援助はもちろん、家事や育児のサポートは難しかった。
■住宅購入後に生活は一変。こんなはずじゃなかったのオンパレード
何から何まで違う、Aさんと自分たちとの差を痛感した田村さん夫婦だったが、それ以上に打撃を受けたのが、住宅購入後の家計や生活の変化が予想をはるかに超えていたことだ。
以前より、支出が大きく膨らんだのである。
ローン返済(月12万円)だけみるとこれまでの家賃とほぼ同じ額だったが、住居費はそれだけではない。住宅購入後は、固定資産税や都市計画税(一部地域では必要)がかかるし、マンションの場合、毎月、管理費や修繕積立金などの維持費も必要だ。
狭い賃貸から広いマイホームになれば、水道光熱費などもアップする。頻繁にホームパーティーをするようになったので、食費や交際費もかさむし、インテリアや日用雑貨にもお金をかけたくなる。おしゃれなAさん宅を見た後ではなおさらだった。
しかも、子育てしやすい環境が気に入って選んだだけに、周囲の同世代の親も教育熱心で、英会話やスイミング、ピアノ、バレエ、幼児教室など、幼児期から習い事をさせている家庭がほとんど。
■せっかく憧れの新居を手に入れたのに夫婦喧嘩が増えたワケ
田村さん夫婦は、できれば子どもをもう一人欲しいと考えており、新居の間取りもそれを想定して選んでいる。亜子さんは、長女の通う保育園のママ友から、人気のお教室は、子どもが生まれた時点で予約するのだと聞き、今から情報集めに躍起になっているようだ。
祥太さんとしても、子どもの教育はできるだけのことをしてやりたいとは思う。しかし、新居購入で発生した新しいコスト(税金、マンション維持費)やかさむ食費・交際費・インテリア費によりすでに家計は火のクルマ。これに教育費負担が2人分に増えることを考えると、あまりお金をかけられないのは明らかだ。
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その上、都内の郊外に引っ越ししたことで、夫婦そろって通勤時間が長くなり、特に育児を主に受け持つ亜子さんが残業できず、手取り収入が減少。祥太さんの仕事も忙しく、亜子さんの家事や育児の負担が重くなって、心身共に疲れている様子。最近、ささいなことでケンカしてしまう。
■ほとんどお金もためられない。老後資金はどうすればいいのか
まさに、「こんなはずじゃなかった」のオンパレードだった。
今、祥太さんは、この先行き不透明な時代に、増え続ける子どもの教育費や生活費をまかないながら、何十年も続く住宅ローン返済をちゃんと払っていけるか不安を感じている。
これらを何とかまかなえたとしても、今の状態ではほとんどお金がためられない。自分たちの老後資金はいつ、どうやって準備すればいいのか。
もし、自分や妻がどちらかでも仕事を辞め、収入が減ったり、なくなったりしたらどうすればいいか。
マイホームを買うにしても、もっと時間をかけて自己資金を準備するなど、慎重に計画するべきだったのではないか。
いまさらながら、同期が家を買うと聞き、ほとんど勢いだけで買ってしまったような気がしてならず、自分の考えの浅はかさに後悔しきりの祥太さんだった。
■30代ともなれば仕事やポジションで給与格差が生まれている
住宅購入のタイミングは人それぞれケース・バイ・ケース。なかには、事例に登場した田村さん夫婦のように、「同期が買うと聞いて」というケースは珍しくない。
ただ、冷静に考えると同期と自分の共通点は「入社年が同じ」ということのみ。それ以外の条件や状況は、田村さんとAさんのように、物件や資金計画、親からの援助、生活スタイル、価値観など、まったく異なる。
年収ひとつとってみても、今どきの企業は年功賃金から成果主義の給与制度に移っている場合も多く、「社会人3年目の25歳を過ぎたら同期に給与明細は見せられない」と言われる。30代ともなれば、確実に仕事やポジションによって格差が生まれているのだ。一般的に、賃金水準がピークに達する50~54歳になると、賃金格差はもっとも拡大する。
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その頃には、住宅ローンが終わって、余裕で老後資金準備にも取りかかれそうなAさん夫婦と、子どもの教育費と住宅ローン返済に追われ、それどころではない田村さん夫婦。彼らの差もさらに大きく開いている可能性が高く、老後生活も早くも明暗がはっきりしている。
田村さんは、勢いだけで買うべきではなかったと後悔しているが、住宅のように、ほぼ一生に一度しかない高額な買い物をするときは、勢いというのも時には大切だ。思い切って決断するのも重要だからだ。
しかし、多額の住宅ローンを組むのであれば、返済できるのかどうか、住宅購入後の生活にゆとりをもてるかどうか見極め、慎重に計画を立てることが大前提。これと個々の購入の理由が生じたタイミングが合致したときが、住宅購入の最大の好機といえる。
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ファイナンシャルプランナー
CFP1級FP技能士。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書は『50代からのお金のはなし』など多数。
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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)
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