少女たちに「裸の自撮り」を送らせる騙しの手口
プレジデントオンライン / 2020年1月13日 9時15分
■なぜ、女子中高生は裸を自撮りして会ったことない人物に送るのか
警察庁発表の子供の性被害をめぐる平成30年中の統計では「児童ポルノ」の検挙件数が3097件にのぼった。平成21年には935件だったので約10年で3倍以上になったことになる。
この児童ポルノ被害の約4割が「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」だ。つまり、児童が何者かにより自撮りで裸体を撮影させられ、メールなどで送らせる。
平成30年中の「自ら撮影した画像に伴う被害に遭った児童」の内訳を見てみると、高校生が45.7%、中学生が44.2%、小学生が8.3%(その他1.8%)となっている。
近年は中学生や高校生だけでなく、小学生のネットの利用が広まり、このようなSNSを利用した被害が小学生にまで拡大しているのだ。
行政も手をこまねいているわけではない。東京都をはじめとする各地方自治体は「自画撮り被害を防ぐ為の罰則付き条例」を施行し、未成年に不当に自画撮り写真を要求する行為に対する罰則を規定し始めている。
つまり、何者かが児童に自撮りで裸体を撮影させ、それをメールなどで送らせることだけではなく、それを要求した時点で、たとえ加害者側が未成年であっても逮捕事案になる、れっきとした“犯罪”である。
ではなぜ、少女(少年)は結果として自らの裸画像を送っているのだろうか?
■「お金欲しさ」で裸の画像を撮るわけではなかった
これには加害者側の「脅し」や「騙し」が存在していることは言うまでもない。未成年は収入がないことが普通なので、これを「お金」欲しさの行動であると想像される方もいるだろう。確かに、被害事例の中にはネット上で知り合っただけの男にストレートに「お金を払うから」と騙されて裸画像を送らされたケース、あるいは「好きなアーティストのチケットを譲ることができる」と言われ、言葉巧みに裸画像を送らされたケースなどもある。
筆者は思春期の子育てに悩む親からの相談を数多く受けている。その関連で、児童ポルノの被害にあった少女(少年)たちを取材していると、彼らが裸画像を送る本当の理由は「チケット」や「お金」欲しさではないように感じるのだ。
まず、彼ら少年少女の社会背景がある。
彼らはデジタルネイティブ世代で、自撮りしてインスタグラムなどSNSに自分の画像をアップロードすることへのためらいは小さい。
さらに、思春期の彼らにとって「友だち」は何よりも大切なものであり、それはリアルであろうとネット上であろうと同じだ。異論を承知で言えば、むしろネット上の見知らぬ「友人」のほうが本音を語りやすいという特徴があるのだ。それゆえ、彼らは簡単に人を信用してしまう傾向がある。
■SNSで女ともだちになりすまし少女を騙す手口
筆者が関わったケースとしては、典型的な被害の「入り口」はこのようなものだ。
ゲームアプリで親しくなり、お互い、何でも言える関係になった同い年の女友だちから相談が入る。「自分の体の悩みを相談したいの」。そのような理由で、まず、女友だちの側が自分の裸画像を送ってくる。そして、その女友だちは「私が秘密を送ったんだから、あなたも送って」と執拗に迫るのだ。
やがて「秘密の共有」ということになるが、その女友だちの正体はどこの誰かも分からない男性という結末。いわゆる“なりすまし”だ。正体を現した男が彼女を脅迫し始めるというパターンである。
近年、急増しているこの自分の裸画像を送ることによるトラブルには、次の3つの問題点が複雑に絡み合っていると思われる。
・性への興味と注目されたいという思春期独特の思考
・承認欲求
ひとつずつ説明してみよう。
■少女たちが裸の画像を躊躇なく送る3つの動機
【1:嫌われたくない症候群】
先ほどの例でいえば、女友だちになりすましていた男に対し、彼女(A子・中3・東京都在住)は最初はさすがに嫌がっていたのだが、執拗な相手に結局、根負けすることになる。
「なぜなのか?」と尋ねた筆者に彼女(A子)はこう答えた。
「断り切れなかったでんです。相手に『私(成りすまし男)はA子のこと親友だと思って、誰にも言えない秘密を送ったのに、A子は私のこと親友とは思ってなかったんだね……』と言われて」
年頃の女の子にとって秘密の共有は、親友の証しでもある。そこを巧みにつかれてしまったのだが、その根底には、日本の教室文化にはびこる「空気を読み」→「嫌われないようにふるまう」ということが大きく影響しているように思うのだ。
そのため、自分よりも上の立場の相手に強く言われてしまうと反論する術もなく、簡単に迎合してしまう。
さらに、思春期特有の感情として「他人の感情に反応してしまう」という特徴がある。これは、「一緒に死のう」と考える親友同士が、どちらか一人の感情に過剰に反応してしまった結果、そのような心理を共有してしまうような現象に代表されるかもしれない。
ゆえに、A子のように、相手が「被害者を装う」あるいは「パワハラ」(「俺のことを愛しているなら、できるはず」というような脅し)をかけてきた場合、毅然と断ることができなくなるのだ。
A子のケースは「もうこれ以上は送らない」と言った途端に、その正体を現した“なりすまし男”が執拗に脅迫してきたために、警察が介入することになった。
こうしたトラブルに関して、親ができることはわが子にこう繰り返し伝えることだ。
「自分の心と体を守るのは自分しかいない」
「あなたが嫌がることを強要し、傷付けても平気な人間は友達ではない」
「自分が正しいと思うことを伝えることをためらってはいけない」
■ゲームアプリで知り合った人と“カレカノ”関係になって
【2:性への興味と注目されたいという思春期独特の思考】
神奈川県に住むB子(現中2)の例を挙げよう。B子はサラリーマンの父親と専業主婦の母親、小学生の妹という家族構成の、ごく普通の家庭で育ってきた、あどけない笑顔のお嬢さんだ。
B子は筆者にことの経緯をこう話した。
「学校の友だちとセックスに関する話題が増えてきて、誰が最初に経験するのかということで盛り上がっていたんです。ヒエラルキーでいえば、彼氏がいる子が上で、男子から相手にされない子は下という雰囲気があって……。私は下。そんな時にちょうどゲームアプリで知り合った人と“カレカノ”関係になりました。友だちに自慢しているうちに『いいなぁ』『すごいじゃん!』『早く経験しちゃいなよ』って話になって、彼氏に相談しているうちに『画像が欲しい』ってことになって……」
驚くべきは、B子はその彼氏=「ヒカル」と名乗る16歳の高校生に会ったこともなく、実在の人物かどうかも把握していないということだ。
このB子の件は、親がB子のスマホのトップ画面に出たLINEのポップアップの不穏な文面を偶然見たことにより裸の画像を送らずにすんだ。「ヒカル」はその後、B子に接触してこなくなったという。
中学生であれば、性への興味は抱くのはふつうのことで、それ自体は構わない。だが、親は逃げることなく、語りかけないといけない。
不用意なセックスには性病や妊娠のリスクがあること。性暴力をふるう相手が存在すること。少女(少年)の性を食い物にしている人間もいること。裸の画像がネット上で出回ったら最後、完全に消えることはないこと。ネットでは正体を偽った悪意の人間がたくさんいることを、口が酸っぱくなるくらいに伝えなければならない。
未成年の子供は無防備だ。これを守るのは親の責務である。
■裸画像を「エロい」「キレイだ」と褒められて、また送る
【3:承認欲求】
埼玉県に住むC子(現中1)のケースはこうだった。C子は自営業の父親と家業を手伝う母親との間に生まれた一人娘。どちらかと言えば裕福な家庭である。
そのC子はネット掲示板で知り合ったという「大阪在住の大学生・翔」から「愛の証」として裸画像を求められ、送ったという。
C子は筆者にこう言った。
「写真を送ると、翔が言ってくれるんですよね。『エロいね』って……」
C子はまんざらでもないという表情だ。聞けば、「エロい」だけでなく「キレイだ」「もっと見たいな」「最高だね」といったメールがくることもあり、彼女はそれらを「最上級の褒め言葉」と捉えている。
ネット上の見ず知らずの男性(人物)であっても、「認めてもらえる」ということはスペシャルな体験であるのだ。送ったのが、自分の裸の画像であったとしても。
「翔はすっごく自分(C子)のことを大事にしてくれて、すっごく満たされたんですよね」とC子。
C子の家庭では定期的に親がC子公認でスマホのチェックをしており、その過程で発覚したという。もちろん、C子の母親は、最低限のネットリテラシー教育をスマホ購入時にしていたというし、当然、フィルタリングもかけていたというが、親自身がスマホの操作に困るとC子に尋ねていたということで、結果として、被害を防げなかった。
冒頭で紹介した警察庁の調査結果によれば、被害児童のうち「学校で指導を受けていた」と回答した者は約5割。約9割が被害時にフィルタリングを利用していなかった。
親が、心と体が未完成である思春期の子供たちを守ることが、とても難しい世の中になった。リスク回避として、「スマホの没収」「ネットの利用時間制限」という対策法を打つ保護者は多いが、もはやそれだけではうまくいかない。
もしもわが子が「閉塞感」や「空気を読む」行動、あるいは「我慢」だけを強いられる日常で“自分らしさ”を認めてもらえない現状に疲れ果てているのであれば、まずは親こそがゆっくりと話を聞いてあげる環境を作ることが、「裸画像を安易に送信」という軽率な行動の抑止力となるのではないか。
政府広報オンライン「SNS利用による性被害等から子供を守るには」
【相談窓口】
警察庁「STOP! 子供の性被害」
東京都「東京こどもネット・ケータイヘルプデスク・こたエール」
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エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー
執筆、講演活動を軸に悩める母たちを応援している。著作としては「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)、「ノープロブレム 答えのない子育て」(学研)、「主婦が仕事を探すということ」(東洋経済新報社 共著)などがある。最新刊は「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」(ダイヤモンド社)。ブログは「湘南オバちゃんクラブ」「Facebook 鳥居りんこ」。
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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)
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