同窓会で出世頭が負け組に深く頭を下げる理由
プレジデントオンライン / 2020年1月14日 9時15分
■「桜を見る会」招待者名簿を巡る、官僚のバカ答弁
なぜ、本来「頭がいい」はずの官僚たちは見苦しい答弁を繰り返したのか。
昨年から問題になっている安倍首相主催の「桜を見る会」の招待者名簿に関して、以前、野党が名簿を資料請求した直後に名簿が処分されたことが明らかになり、その日時に処分された理由を、内閣府の官僚は「(内閣府の各部局の使用が重なって順番待ちとなり)シュレッダーが混んでいたからだ」と答弁した。
野党がそのシュレッダーを視察したら40~50秒で1000枚を裁断できることが明らかになった。シュレッダーの順番が回ってきたのが、ちょうど資料請求直後だったという屁理屈である。
桜を見る会に関しては、そのほかにも、多くの詐欺被害者を出したジャパンライフの元会長が2015年に招待されていたとされる問題もあった。「60」という数字が首相・政府枠の招待者を示しているのは見え見えなのに、内閣府の官僚はそれを「招待者名簿はすでに廃棄しており、個別の番号が(誰の枠かは)定かではない」と繰り返すばかりだった。
こうした答弁の場面は、再三テレビで放映され、インターネットでも叩(たた)かれた。
このような首相や官邸をかばうような答弁をするのはなぜなのか。官邸から圧力がかかっている可能性もあるが、官僚本人が官邸を忖度(そんたく)して言い逃れしたり、書類処分をしたりすれば、役人として出世できると考えているからかもしれない。
■出世のためなら平気で破棄・廃棄・改ざんをやる役人の共通点
2016年6月に疑惑報道が勃発した森友学園問題の際も、土地の安売りを実質上指揮して、文書の改ざんを命じたとされた財務省の佐川宣寿氏は、疑惑がクリアされないにもかかわらず、2017年7月に理財局長から第48代国税庁長官に栄転した(2018年3月退官)。
また2019年末、伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏に性被害を受けたことを認める民事裁判の判決があったが、この件は、2015年、東京地裁が逮捕状を発行したにもかかわらず、当時の警視庁刑事部長の中村格氏が、逮捕状執行直前に執行停止を決定した。結局、2016年7月に嫌疑不十分で不起訴となった。
その中村氏も警察庁長官官房長に就任し、警察庁長官の就任が確実視されている。
彼らにとっては、世間やマスコミ、あるいはネット上で非難されても、政府に都合が悪い資料の廃棄、改ざん、あるいは被害者の心情を無視した逮捕状の破棄をすることは出世のための戦略的選択肢だったのではないか。
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ただ、昔と異なりネット時代の現在は、このような事件の報道や記録は公開され続ける。佐川氏や中村氏などの「言動」は検索すれば、いつでもネットで読むことができ、その記録が消えることはない。
■病院の見舞いでバレる「人望のある人ない人」
私が以前勤めていた高齢者専門の総合病院は都内の高級住宅地にあった。もともと社会的地位が高い人が認知症や寝たきりのような状態になった際に入院することが多かったのだが、そこにはある「法則」があった。
それは、高い社会的地位にあっても部下に慕われていなかった患者にはほとんど見舞いにはこないということだ。彼を引き上げていた上司も、すでに他界しているか要介護状態で、見舞いにはこない。
いっぽうで、社会的地位がそれほど高くなくても部下に愛されていた患者には見舞いが絶えない。見舞いされるほうはすでに引退し(一般的に80歳代以上)、部下も定年しているので、利害関係はない。人間として尊敬し、愛しているからこそ足を運んで見舞いにやってくるのだ。
そうした病棟の人間模様を見るにつけ、私は、出世と引き換えに人に嫌われて寂しい晩年を送ることは最終的に「幸せな人生」とはならないのではないかと深く考えさせられた。そして「人に嫌われてまで、出世を目指すことはやめよう」と心に決めた。
■「近視眼的な出世欲」は賢い人間をバカにしてしまう
もちろん、出世そのものが悪いことではない。出世したほうが中高年になって「リストラ対象者」になる可能性が低い。また、老後に2000万円残しておくためには、定年まではなるべく高給の仕事に就いたほうがその目標を達成できる確率も高まる。とりわけ官僚の場合、出世レースに勝ち残った人ほど、退職後、待遇のいい職場に就職できる。
ただ、昔のように自動的に公益法人のようなところに楽々と天下りできなくなっているのも事実だ。とくに、メディアなどで批判されてやめた場合は、その人の再就職を引き受ける会社は少ない。世間から叩かれるからだ。
前出・佐川氏にしても、今のところ再就職先が決まったという話は耳にしない。いくらエリートであっても引き受けたいという公益法人や大企業がないということだろう。
出世のために上司に取り入り、仲間を裏切るようなことをしていたら、やはり後々、悪印象がついて回るリスクはある。一般企業でも、地位が上がったからといって、パワハラまがいのことをしていたら、部下に訴えられるか、恨みを買うかのどちらかだろう。少なくとも部下から慕われないのは確実だ。
結局のところ、自分の成績や実績で出世するのは悪くないが、上に取り入り、下を踏みつけて出世するという旧来のやり方は、長寿が当たり前になった現在、ロングスパンで考えたら、もはや効力を発揮しないことを肝に銘じておいたほうがよいだろう。
出世を望む気持ちは否定しないが、出世というのは幸せになるための手段であって目的ではない。将来の幸せを犠牲にするような近視眼的な出世欲というのは、賢い人間をバカにするように思えてならない。
■出世頭・勝ち組の大学教授が、負け組に頭を下げるワケ
ひょっとすると、私は高齢者を専門とする医師だから、「人に嫌われてまで、出世を目指すのはやめよう」という割り切りができたのかもしれない。
来年、還暦を迎えることになって自分の人生を振り返ってみると、組織内での出世にこだわらずに、いわば「生きたいように生きてきた」わが人生はそう悪くないように思えてきた。
医学部を卒業すると、多くの人間が教授を目指す。私の母校・東京大学の場合は、とくにその傾向が強く、第一志望が東大の教授なら、第二志望が地方の国立や都内の私立大学の教授といった具合だ。それがうまくいかなければ大病院の部長である。意外に思われるかもしれないが、医師として独立開業するのは途中で脱落したように見なされてしまう。
私のように大組織に属さない“フリーター医師”は教授を目指す医師たちや教授になった医師から見たら、「下の下」に映るはずだ。
ところが、無事に教授になれた人間にも定年はやってくる。しかも、一番の勝ち組のはずの「東大教授」が、いちばん定年が早い。昔はそういう人が退官すると天下りになったり、私立の大学の医学部の教授になったりしたが、近ごろは、大病院でも生え抜きのほうを優遇したり、地元の大学の出身者を優遇したりする傾向が強まっている。
つまり、東大教授であっても以前ほど簡単に再就職ができないのだ。
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東大医学部の同期などが集まる同窓会に顔を出すと、私のように定年を考えずに働くことができ収入面もさほど心配しないで済む人間はたいそう羨(うらや)ましがられる。羨ましがられるのは私だけではない。独立開業した医師たちもだ。比較的若いうちに開業した人ほど、還暦近くの年齢になると病院の規模を拡張したり、地元の医師会のボス的存在になったりしていることが多い。
勝ち組であったはずの教授になったような人間が、負け組のはずの開業医(病院の規模になった場合)に「雇ってくれ」と頭を下げるのである。
■上司のへいこらしなくてもスキルがあればどこでも出世できる
若い頃の出世が必ずしも人生の勝利につながらないことを思い知らされる年齢ということだ。こうした逆転現象は、今の時代、医師の世界に限らないだろう。
私の高校時代の同期で東大の文系に行った人間の半数くらいが金融機関に就職した。ところがバブルがはじけた銀行は、不良債権の処理を進めると同時に、大胆なリストラを行った。人づてに、同級生が会社を辞める羽目になった話を聞いてかわいそうに思っていたら、外資に移って年収が10倍になった人もいた。その同級生にはどの組織でも高く評価される「実力」があったのだろう。
反対に、上司に取り入って出世をした人は、上司がリストラにあったり、合併して組織が改変された企業では相手企業の下に置かれたりして、左遷状態となってしまうことも少なくない。年収10倍の私の同級生はおそらく上司に取り入って出世という発想がなかったに違いない。
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冒頭で触れた官僚に関していえば、私の知る限り、上に取り入ってニュースに出るような官僚が外資に引き抜かれたというケースは一度も聞いたことがない。
結局のところ、出世というのは実力に伴ってそれをかなえるのならつぶしが利くが、上に取り入ってであれば、状況が変わると、抹消されるということだろう。つまり、上に気に入られることより、起業や転職の時の成功につながる能力・スキルを若いうちから磨くべきだということだ。
定年後に起業を考える際も、上司に気に入られることより、取引先などとの人間関係がいいほうが成功するようだ。
■「上に気に入られること」に執着する人が減らないワケ
上に気に入られることに時間や精神をつぎ込むより、能力を高めるほうにそれを注いだほうが結果的にいい人生となる。このことに気づいている人は多い。しかし日本では、終身雇用や年功序列が崩壊しているにもかかわらず、官僚だけでなく一般のビジネスパーソンでさえ、「上に気に入られること」に執着する人が依然として多いように思われる。
この近視眼的な出世欲が、賢い人間をバカにする。あの総務省の官僚のような恥ずかしい発言はその象徴だ。自分がその状態に陥っていないか自省することは、10年後、20年後、あるいは老後の幸せにつながるのではないだろうか。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。東京大学医学部卒業。ベストセラーとなった『受験は要領』や『「東大に入る子」は5歳で決まる』ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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