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伝説のコンサルを「鬼」に変えた社長の"大失言"

プレジデントオンライン / 2020年1月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/XiXinXing

マスメディアに登場することは一切なかった、知る人ぞ知る伝説のコンサルタントがいた。5000社を超える企業を指導し、多くの倒産寸前の企業を再建した、一倉定氏だ。真剣に激しく経営者を叱り飛ばす姿から、「社長の教祖」「炎のコンサルタント」との異名を持った。なぜ一倉氏は怒り続けたのか――。

※本稿は、作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■温泉に行くより、家で原稿を書きたい

一倉定先生には、冗談が通じなかった。真っすぐな性格で、社長教育一筋、仕事一筋で贅沢な遊びも全くなかった。仕事以外といえば、ゴルフが唯一の楽しみくらいだったと思う。あるとき「先生、そんなに仕事ばかりしてないで箱根でも行って温泉でゆっくりされたら」と言ったことがある。晩年の頃だ。

先生の答えが面白かった。「冗談じゃない。あんな所へ行ったら、サービスの悪さが気になって文句言いたくなる」「ちっとも休みになんかなるか!」「家で原稿でも書いているほうがよっぽどいい」と。

30年以上前になると思うが、経営計画の合宿をバンクーバーで行い、その帰りの飛行機で先生の隣に座らされた。先生がお酒でも飲んで寝てくれたら、私も寝れると考え勧めたが、原稿用紙を取り出し執筆を始めてしまった。成田まで遠かった。何事も真正面から向きあうから、冗談が理解できないのかもしれない。

こんなこともあった。済州島で合宿をやっていたとき、ホテルのプールサイドでパーティーを開くことになった。ちょうど中間の休日でお昼である。酒の勢いもあって、社長たちが仲間をプールに投げ飛ばし始めたのである。他のお客さんたちも見ていて大笑いになったが、そのうち社長連中が冗談で「先生も落としてしまえ」とひそひそ話を始めたのが耳に入って大剣幕。

その場でこっぴどく叱られた。誰も本気でやろうなんて思ってもいないが、先生だけは大真面目。全て直球勝負なのである。後で、皆でさらに大笑いになった。なんでもそうかもしれないが、策を弄することなく、表裏なく、信念をもって大真面目にやる人は人から愛される。

■ゴルフ中でも「支配人を呼べ」と怒る

私が一倉先生を評論するのは僭越だが、一倉先生の魅力の根源は、この愚直なまでの真面目さだったと今になって改めて思う。実際に仕事以外で食事をしているときも、ゴルフのときも、お客様目線で不備に気づくと、我慢ならないのである。

すぐに支配人、社長を呼べと、怒りだして説教が始まってしまう。指導料がもらえる訳でもないのにと、こっちは思ってしまうが、先生は大真面目で指導してしまうのである。もう職業病である。社長も支配人も一倉先生を知らないから、「なんだ、このクレーマーおじさん」くらいの気持ちだから、お供のこっちはおろおろするのである。先生にはサービスを良くしなければ「潰れるぞ!」という純粋な思いしかないから、本気なのである。そこには業に徹する凄味があった。

一倉先生はそれを仕事だからやっているわけではなく、純粋にお客様になり代わって声を出しているのである。だから、社長がその真意をくみ取って、社員を教育し、お店を直し、営業方法を工夫し売上、業績が回復していってほしいと思っているだけなのである。ちょっとした気遣い、心配り、お客様の立場に立ったサービスに非常に敏感であり、前回の指導から良くなっていると我がことのように喜び、年計グラフで数字を見て、方向性が間違っていないことを確認するのである。

先生が鬼にならないと、社長はそうそう変われない。先生が仏になっているのは、業績がいいからではなくて、「お客様が満足しておられるから」であって、結果として数字が伸びているのである。

■「仏」が「鬼」に変わる瞬間

たとえばの話だが、資金繰り表の作り方を知らなくても、先生は怒鳴ったりすることはない。「知らない、わからないこと」は仕方がない。だから、社長、経理部長、先生と一緒になって、「作り方を指導しながら、数字を確認し、対策を考えていく」のが常であった。

その会社の一大事のときに「社長が自ら動かない」「経理や他の役員に任せる」。さらに、いろいろ策を考えているときに、「あれはできない」「これは無理だ」と実行する前からできない理由を口にすると、「仏」が一変し「鬼」に変わるのである。それも瞬間に。

そのとき一番大切なのは、社長の姿勢である。M社長も一倉門下の優良企業オーナーであるが、会社での指導中、販売戦略の相談中に先生と社長の間でやり取りがあった。先生のアドバイスは、「今お取引をしているお客様に別の商品を仕入れても、作ってもいいから売りなさい」「販売先をキチンと管理していて、たいしたものだ」というお褒めの言葉もあったくらいで上機嫌だった。

が、先生が一言「たとえば、◯◯◯なんかどう?」というのを聞いたM社長が発した語句が火をつけてしまった。「先生、○○○は粗利が低くて儲からないんですよ~」と、冗談っぽく言ったところ、「バカヤロー」「たとえばで言っただけで、何もやりもしないでぐちゃぐちゃ言うな!」と雷が落ちた。そして、来社から1時間ぐらいしか経っていなかったが、「俺は帰る」と言い残して本当に帰ってしまったのである。

■仕事だからではなく、本気で怒る

が、M社長の偉いところはここからである。「何がお客様にとって必要か見にいってみよう」と気持ちを切り替え、一軒一軒お客様訪問を繰り返してみると、自社商品以外にいろんなものを頼まれて、できるところから納めに行ったら、また次の不満をぶつけられ宿題をもらってきた。

これがキッカケで、今では商圏内に2万社を超える得意先を持ち、毎年、相当額の利益を上げる超優良企業を経営されている。M社長は怒鳴られた後も、途中経過を先生に電話をして、「お陰様で儲かるようになりました」とお礼を言うと、自分があれだけ怒ったこともケロッと忘れ、「良かったね、良かったね」と自分ごとのように喜んでくれたのである。

作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)

どんなに怒られようとも、この社長のように、気持ちを切り替え素直に実行してみて、それから考え、またチャレンジしてみる。経営の神様と言われる社長であっても、当たり前だが全て成功しているわけではない。多くのチャレンジの中から繁盛のキッカケをつかみ事業を大きく伸ばしていくのである。一倉先生は失敗して怒ることは決してなかったが、知っていても実行しなかったり、とことんやらない、社員にやらせて評論する、こういう社長には容赦はしなかったのである。

一倉先生が鬼になるときは、社長が「社長としての責任」を果たしていないときであり、お客様のほうを向いていないときは手がつけられない状況になってしまう。決して仕事だからではなく、本気で怒っているのである。

■「一倉先生の本を開くと、答えが飛び込んでくる」

社長人生の早い時期に「こんな師匠」に出会えた人は幸せだとつくづく思う。多くの社長から「噂には聞いていたが、もっと早く聞いていれば失敗しなかったのに」とか、「今まで俺は全部反対のことをやっていた」とか、いろいろな声を聞いてきた。そして今でも、「判断に迷ったときに一倉先生の本を開くと、答えが1行目からぱっと飛び込んでくる」という社長もいらっしゃる。

事業経営は日々刻々とカタチを変えて、社長に決断を迫ってくる。社長は「欲」と「恐怖」の狭間で決断し行動し、社員に実行させ続けることが宿命である。現役社長として重責を担っている人、これから社長になる人は、自分自身の思考の原点、事業経営の中心軸、人間学を早い時期に固めていくことが「強い社長になる」王道だと思うのである。

「勉強」「実体験」「半確信」「再勉強」「実体験と再現」「確信」の繰り返しが、一見遠回りに見えるが、一番の近道だと確信している。禅語に「冷暖自知」とある。知ってはいても体験してみないと本当のところはわからないし、納得できないことばかりだと思っている。身体で覚えたものは忘れないが、全てを体験できるわけでもないし、窮地の体験はできればしたくないのが本心である。

だからこそ、先人の知恵が役に立つのである。中国古典を紐解いても人間の犯す過ちは今も変わらないし、大成功を遂げた経営者が晩年全てを失う今日の姿も変わらない。また、その教訓を我がものとし、経営者人生を全うする知恵者も多い。どうか自分自身の師匠に「書」と「実際に相談できる人物」として出会ってほしい。

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作間 信司(さくま・しんじ)
日本経営合理化協会専務理事
1959年生まれ。山口県出身。1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略など実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当するかたわら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。協会主催の社長塾「地球の会」「事業発展計画書作成合宿セミナー」などの講師を歴任し、現在「佐藤塾~長期計画~」副塾長、「JMCA幹部塾」塾長を務める。

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(日本経営合理化協会専務理事 作間 信司)

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