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日本が太陽光より石炭火力をやるべき5大理由

プレジデントオンライン / 2020年1月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joel-t

日本のエネルギー政策はなにを核にするべきなのか。太陽光などの再生可能エネルギーか、それとも原子力発電か。慶應義塾大学大学院経営管理研究科の太田康広教授は「日本が進めるべきなのは石炭火力発電だ。以前に比べて高効率でクリーンになっており、発生する二酸化炭素を地中に埋める技術もほぼ確立している。日本政府はこの事実を世界に発信するべきだ」という――。

■世界的な「脱石炭」の潮流

COP25(第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、国連のグテーレス事務総長が「脱石炭」の流れを作り、石炭火力発電の多いアメリカ、日本、オーストラリアが「化石賞」というジョークで非難された。金融の分野でも環境・社会・ガバナンスに配慮したESG投資の動きが拡がり、CO2排出量の多いプロジェクトは融資を受けにくくなってきている。

こうした脱石炭の流れは、地球温暖化を心配する純粋な人だけでなく、自分の利益を増やそうとする人にも支持されている。たとえば、再生可能エネルギー事業者はFIT(固定価格買い取り制度)や補助金などの優遇策をできるだけ長く受けるために、石炭火力発電を減らしてもらうのが都合がよい。石油産業やガス産業は、石炭火力発電を減らすことに賛成である。

しかし、それでも日本が石炭火力を推進すべき理由がある。(1)エネルギー安全保障上、石炭が重要であること、(2)日本の石炭火力は安いこと、(3)日本の石炭火力は効率がよいので国際展開すれば温暖化対策になること、(4)日本の石炭火力はクリーンであること、そして(5)CO2を分離して、地中や海底に貯蔵する技術が実用化間近であること、である。

■石油は9割弱を中東に依存している

(理由1)エネルギー安全保障上、石炭が重要である

2020年1月3日に、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍の無人機によって殺害された。中東で緊張が高まった結果、原油価格は急騰している。WTI原油先物価格は1月2日の1バレル61.18米ドルから、1月7日は63.28米ドルに跳ね上がった。アジア市場の指標となるドバイ原油も同じ傾向で、スポット価格も年末27日の1バレル67.90米ドルに対し、年初1月8日は69.10米ドルとなっている。

WTI原油先物価格の推移
出典:businessinsider.com

日本は、原油のほぼすべてを輸入している。2017年の石油、ガス、石炭の輸入元は次のグラフのとおりである。

日本の化石燃料輸入先と中東依存度(ホルムズ依存度)
出典:資源エネルギー庁

■情勢不安のホルムズ海峡が「生命線」

中東から輸入される原油の多くは海上輸送の難所、ホルムズ海峡を通過する。ホルムズ海峡は、ペルシア湾とオマーン湾のあいだの海峡で、北にイラン、南にオマーンの飛び地がある。水深は100m以下、幅は33km程度である(*)。船舶の衝突を避けるために幅3km程度の航行レーンが設定されている。ここは世界でもっとも重要な難所で、1日に2100万バレル(2018年)もの原油が運ばれている(*)

ホルムズ海峡
出典:wikipedia.org

とくに中東からアジアへ輸出される原油の多くはここを通る。資源エネルギー庁によれば、日本の石油輸入の2017年の中東依存度は86.9%で、ホルムズ依存度は85.9%である。米イランの対立の結果、ホルムズ海峡が封鎖されれば日本の被害は大きい。ホルムズ海峡を迂回するパイプラインも敷設されているものの、運搬できる量は限られている。

ただ、日本は、石油ショックの反省の上に立って石油の備蓄をしているので、ホルムズ海峡が封鎖されてもただちに石油不足になるわけではない。2017年3月末現在、国家備蓄と民間備蓄などを合わせた備蓄は8104万klあり、これは208日分に相当するという(*)

ホルムズ依存度は85.9%なので、ホルムズ海峡封鎖後242日は備蓄でしのげる計算である。逆にいえば、ホルムズ海峡が封鎖されたら、242日以内に何かほかの方法を考えないといけない。242日は8カ月ちょっとである。

■天然ガスの備蓄は20日分程度のみ

一方、天然ガスの備蓄は20日分程度である(*)。天然ガスは常温では気体なので、液化天然ガス(LNG)として備蓄するためにはマイナス162度以下の極低温にしておく必要があり、備蓄にコストがかかるからである。約20日間という短い期間では、原発再稼働による電力確保は間に合わない。

ただ、幸いなことに天然ガスの産地はあちこちに散らばっているので、中東依存度が石油ほどには高くない。2017年のデータで中東依存度は21.0%、ホルムズ依存度は17.7%である。ホルムズ海峡が封鎖されても、112日程度は大丈夫である。

しかし、112日は242日の半分未満である。ホルムズ依存度は低いものの備蓄量が少ない天然ガスは、少なくとも日本にとっては地政学的に脆弱(ぜいじゃく)な燃料である。

■地政学上リスクが高い天然ガス

近年、アメリカで石炭火力発電の勢いが衰え、天然ガス発電のウエートが高まっていることを理由に脱石炭は時代の流れとする意見もある。しかし、アメリカで天然ガス発電の割合が増えているのは、シェール革命により天然ガス価格が下がっているからである。

アメリカのように天然ガスが国内生産されていてエネルギー安全保障上の懸念がなく、ガスの生産地と消費地がパイプラインでつながっているために輸送コストが少ない国と日本は単純に比べられない。

日本の天然ガス国内生産量は3%であり、残りは輸入に頼っている(*)。日本は、島国であるために生産地からパイプラインを敷設できず、マイナス162度まで冷却して液化天然ガス(LNG)にして船舶で運送しなければならない。そして、LNGの備蓄量を増やすのは難しい。

エネルギー安全保障はリスク分散が基本である。天然ガス発電を排除したり、わざと比率を下げたりする必要はないが、天然ガス価格の動向に応じて民間事業者が対応するのに任せればよいのではないか。天然ガス価格は下落傾向なので、今後比重が上がっていくことが予想される。

それでも、天然ガスは備蓄が少ないために日本にとって地政学上リスクの高いエネルギー源であることは変わらない。

■石炭は「ホルムズ依存ゼロ」

2017年の石炭の輸入先をみるとオーストラリアが73%、インドネシアが12%で、これら2カ国で85%を占める。オーストラリアやインドネシアからは太平洋を通る航路がいくつかあり、ホルムズ海峡のような大きなボトルネックはない。

石炭の輸入先も、これはこれで偏ってはいる。しかし、中東からの輸入がなく、ホルムズ海峡を通らなくてもいい点はメリットである。石油はホルムズ依存度が高く、天然ガスは備蓄が少ないので、石炭がある程度の割合で使われていればホルムズ海峡に何かあったときの保険になる。

また、日本国内にもかなりの石炭がある。高品質なものだけで3億6000万トンの石炭があるとされる(*)。これは、日本の石炭消費量の約3年分である。オーストラリアなどの石炭にコスト的に太刀打ちできないので採掘されていないだけである。

■原発を温暖化対策の切り札にするのは難しい

CO2を出さない発電方法として原子力発電(原発)がある。そして、原発のコストは安い。最近、原発は高コストといわれることがあるのは、福島第一原発事故以降の安全対策コストを加えているからである。安全性の確認された原発を再稼働するのがエネルギー安全保障上は望ましいが、それが現実的かどうかについては人によって意見が違う。

結局のところ、原子力工学的に原発を安全にできたとしても、安全になったということを一般の人にうまく伝えられないのがネックである。原発の安全性を確かめて、安全なものは再稼働するようにこれからも頑張るとしても、温暖化対策の切り札にするのは難しくなってしまった。

■安全保障上プラスとなる自然エネルギー

温暖化対策において注目されるのは自然エネルギーである。自然エネルギーにはいろいろな種類があるが、水力発電と太陽光発電で8割超を占める。2018年の発電量(自家消費を含む)に占める割合は水力が7.8%、太陽光が6.5%である(*)

自然エネルギーは基本的に国産なので、エネルギー受給率の向上に役立つ。これは、エネルギー安全保障上はプラスである。

しかし、太陽光発電は日が照っていないと発電できず、風力発電も風がやむと発電できない。日が陰ったり風がやんだりするだけで発電量が大きく落ちるので、バックアップとして火力発電設備が必要とされる(*)。また、日中の出力が大きく変動するので、送配電網の負担も大きい。水力発電はこの点柔軟で、太陽光や風力の変動を相殺するように運用することで、電力供給のフラット化に役立っている。

太陽光などの自然エネルギーはFIT(固定価格買い取り制度)により電気の買い取り価格が高めに設定されているために、採算が取りやすくなっている上、フラット化に必要とされるコストを支払っていない。FITを維持するとドイツのように電気料金が高くなってしまうのでいつかはやめる必要があるが、そのタイミングをいつにするかという問題がある。

■自然エネルギーの限界

長い目で見ると、揚水発電や蓄電池など、フラット化のコストを再生可能エネルギー業者に負担してもらう必要がある。ただし、送配電業者がフラット化のための設備投資をすると非効率になるので、フラット化も自由化したほうがいいかもしれない。

具体的には、ダイナミックプライシングを採用するのがいいのではないか。日中のタイミングによって電力価格が変動すれば、安い時間に買って高い時間に売る鞘取り業者が出てくる。鞘取り業者が電力価格とフラット化コストを睨んで自分の才覚で利益を出そうとすれば、少ないコストでフラット化が達成できそうである。

ただし、水力まで含めた自然エネルギーの比率は自家消費分を含めても17.4%である。予想可能な近い将来、自然エネルギーが火力発電に取って代わることは考えにくい。

■石炭火力は低コスト

(理由2)日本の石炭火力は安い

政府の調査会の2015年の報告では、もっともコストの安い発電方法は原子力発電で1kWhあたり10.1円からとなっている(*)。次いで、一般水力11.0円、石炭火力12.3円、バイオマス(混焼)12.6円、LNG火力13.7円となっている。このほか、石油火力は30.6~43.4円、太陽光(メガ)24.3円、太陽光(住宅)29.4円、風力(陸上)21.9円である。

原子力や水力はコストが安いとはいっても、今以上に供給能力を増やすのは現実的ではない。拡張可能な電源のうち、もっとも安いのは石炭火力で、次いでLNG火力である。

■高効率の「コンバインドサイクル発電」

(理由3)日本の石炭火力は効率がよいので国際展開すれば温暖化対策になる

日本の火力発電の効率は上がっている。「コンバインドサイクル発電」という効率のよい発電方法が使われているからである。

コンバインドサイクル発電では、まず燃料をガス化して燃やし、ガスタービンを回して発電する。このガスタービンを回したあとの余熱を利用して蒸気タービンを回してもう1度発電する(*)。余熱を捨てないで電気として回収するということである。

現在のコンバインドサイクル発電では、約50%の熱効率が達成されている。これは1950年代の火力発電の2倍から3倍の効率である。効率が高くなれば、当然にCO2の排出はその分少なくて済む。

■世界トップクラス、日本の「石炭ガス化複合発電」

(理由4)日本の石炭火力はクリーンである

コンバインドサイクル発電は石炭火力に使うこともできる。そのためには石炭をガス化しなければならない。これが石炭ガス化複合発電(IGCC)である。

燃料をガス化したときに、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、煤塵(ばいじん)などを取り除くことができるので、大気汚染物質の少ないクリーンな発電方法となる。この点は、国際比較すれば一目瞭然である。電力量当たりのSOxとNOxの量は、次のグラフの通りである。

火力発電電力量あたりのSOxとNOx
出典:J-POWER(磯子のみ2015年、ほかは2014年)

火力発電の電力量あたりのSOxとNOxの量は、イタリアと日本が明らかに少ない。さらに、最新鋭の磯子火力発電所は石炭火力でありながら、さらに1桁少ない。

CO2排出量の多い中国、アメリカ、インド、ロシアなどの石炭火力の多くは効率が悪く大気汚染物質の排出も多い。ここに日本の石炭火力発電技術を導入すれば、大気汚染も少なくなり、かなりのCO2削減につながるはずである。

■CO2排出量は「テクノロジーで解決できる」

(理由5)CO2を分離して、地中や海底に貯蔵する技術が実用化間近

日本の石炭火力技術がいかに素晴らしく効率的でクリーンで安価であったとしても、「脱石炭」の動きが出てくるのは、石炭火力はCO2排出量が多いからである。燃やして同じ熱量を得るために排出されるCO2の比は、石炭:原油:LNGで、10:7.5:5.5とされている(*)。石炭はLNGの倍近くCO2を出してしまう。

しかし、この点はテクノロジーで解決できる見込みである。化石燃料を燃やすときに出るCO2を捕まえて地中や海中に埋めてしまえばよい。この二酸化炭素分離・貯留技術のことをCCSという。

CCSは1つのテクノロジーではなくて、いろいろな方法の総称である。たとえば、石油増進回収法(EOR)のように利益を生む場合もある。EORは、油田から簡単に取り出せる石油をすでに取り出したあと、その油田からさらに石油を回収する方法である。

油田に蒸気や天然ガスを圧入するのが一般的だが、これらに代えてCO2を注入して石油を取り出すこともできる(CO2圧入法)。石油が取り出せ、かつCO2を封じ込めることができるので一石二鳥である(*)。ただ、日本にはほぼ油田がないのでEORは直接的には関係ない。

見込みのある方法としては海底貯留がある。海底にCO2を注入して貯留する方法である。貯留されたCO2が海中に出てくる量とスピードをモニターする実験が北海で行われている(*)。2006年には海洋汚染の防止を定めたロンドン条約が改正され、CO2廃棄物等の海洋投棄が例外とされ、CO2の海底貯留に対して法的手当てがされている。

また別の方法としては地下貯留がある。日本でも2020年内の実用化を目指し、苫小牧でCCSの大規模実証実験が行われており,2019年11月には30万トンの圧入に成功している(*)

CCSによって貯留できるCO2は日本で1461億トンとされる(*)。日本の年間CO2排出量はざっくり12億トンなので、コストの問題を考えなければ120年分以上貯留できる計算である。

■地球温暖化対策は“総力戦”

スーパーコンピュータ「京」によるJAMSTECと東大のシミュレーションによれば、地球温暖化によって台風の発生個数は減るものの、強い台風の割合は増え、降雨量は増える。そして、強風域の範囲は拡大するとのことである(*)。2018年の台風21号、19年の台風19号を思い起こせば、温暖化の影響は肌感覚で感じられるレベルになっている。

もう温暖化対策は待ったなしである。ここで原発をやめ、石炭火力をやめるなど、とりうる手段を減らしていけば、温暖化対策に取り組む手を自ら縛ることになってしまう。コストの安い石炭火力があれば、コストが浮いた分、温暖化対策の研究開発に回すこともできよう。

温暖化対策は総力戦である。メリットとデメリットを考えつつ、やれることは全部やってみるべきであろう。

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太田 康広(おおた・やすひろ)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
1968年、岐阜県多治見市生まれ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業、1994年東京大学より修士(経済学)取得、1997年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、2002年ニューヨーク州立大学バッファロー校スクール・オブ・マネジメント博士課程修了、2003年Ph.D.(management)取得。2002年ヨーク大学ジョゼフ・E・アトキンソン教養・専門研究学部管理研究学科専任講師、2003年助教授を経て、2005年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授、2007年准教授、2011年より現職。

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(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授 太田 康広)

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