アメリカの優秀学生が官僚や政治家になることを嫌がる理由
プレジデントオンライン / 2020年2月4日 11時15分
■民主党急進派が大統領になったら
【三浦】一連のウクライナ疑惑で、米下院がトランプ大統領を弾劾訴追する決議案を可決しました。ワシントンの政治状況は?
【ウォーカー】民主党は100%弾劾賛成で、共和党は99%が反対。党派によるひどい分断状態です。ウオーターゲート事件のときはニクソン大統領(共和党)を批判する人が身内の共和党にもいたし、ビル・クリントン大統領(民主党)のスキャンダルでも民主党が彼を100%擁護するということはなかった。ところが今は、トランプ大統領が悪いことをやったと思っていても共和党なら「トランプ支持」。僕はワシントンに13年住んでいますが、こんな分断状況は過去にない。米国の民主主義にとってよくないことです。
実は優秀な学生が官僚や政治家になることを嫌がっている。大学の教え子で政治家などパブリックセクターに入りたいという学生は10年前なら50%、5年前でも25%いた。この前同じ質問をしたら、100人中5人でした。
■もしウォーレン氏が大統領になったら?
【三浦】トランプ氏は「ワシントンの官僚はエリートで悪だ」と攻撃することで支援者から拍手喝采を浴びましたが、その支持は底堅くて三十数%ある。次の大統領選で勝てるかどうかは相手の民主党候補しだいですね。現在はリベラル系急進派のエリザベス・ウォーレン氏の名前がよくあがっています。もしウォーレン氏が大統領になったら?
【ウォーカー】ウォーレン氏はウォール街が大嫌い。反金融界・反産業界的な政策を打ち出すでしょう。ただ、上院が共和党多数だから彼女のプランはほとんど実行できず、現実的にはたいして変わらないのでは。おそらく2020年か21年に米国の経済は下向きます。そのときトランプ氏なら「中国が悪い」と言い、ウォーレン氏だったら「ウォールストリートが悪い」と言う。違いはそのくらいで、分断状況も変わらないと思います。
【三浦】ウォーレン氏は野心的な公約を掲げていますが、中間層に課税したくないので、巨大な財源を見つけようと思えば軍事費を削るしかない。米国に防衛を依存している日本にとっては抑止が揺らぎかねません。今でもトランプ政権から米軍駐留経費を4倍にしろという圧力を受けていますが、状況がましになるとは思えませんね。
【ウォーカー】自国の防衛という意味では、たしかにトランプ大統領のほうが日本にとっては都合がいい。永田町はみんなそう考えていますね。
【三浦】日本の安全保障のパートナーは米国以外に選択肢がありません。米国が軍事費を削減するならば日本がその分、自立度を高めなければならない。他方、経済的なパートナーとして中国の存在も要です。その両者が貿易戦争をしていることで日本が受けるダメージは大きいのです。日本は米国側につくという姿勢をはっきり示していますが、米国にここまで依存する「一本足打法」はリスクが高い。日本は自分の防衛力を高めなければいけません。
【ウォーカー】その点で言うと、トランプ大統領の問題は同盟国がついてこないこと。一方、伝統的な大国の中国がナンバーワンに返り咲こうとしています。すると世界は二分され、特にテクノロジーはファーウェイを使う国と、そうでない国になる。
そのなかで一番実力を発揮できるリーダーは、トランプ米大統領でも習近平中国国家主席でもプーチン露大統領でもなく、安倍晋三首相かもしれない。「トランプさん、よくやっていますね」と持ち上げながら、国際関係の橋渡しができるのではないでしょうか。
【三浦】ええ。ただし、日本が外交力を発揮するうえでネックになるのが、安全保障です。NATOに加盟するトルコやドイツなどの国とは、どだい条件が違うのです。トルコは中東地域の盟主の役割を自任していますが、トルコは国防を自前で調達できるからです。日本はと言うと、非対称な二国間同盟に依存する弱い立場です。
■人権の話ができるのは日本だけ
【ウォーカー】たしかに安全保障は弱い。そして経済は力があるけど、テクロノジーは20年投資していないから弱い。では、日本の強みは何かと言うと、それはソフトパワーです。たとえばカザフスタンの人たちは日本が大好き。軍事はロシアで、経済のチャンスは中国からもらえるが、人権の話ができるのは日本だけ。米国は遠くて、欧州からは気にかけられていない。その点、日本は西側の代表だと思われている。
僕は日本にいたとき合気道をやっていました。相手が打ちかかってきたら打ち返すのでなく、相手の力を使って他の方向に逸らせるのが合気道。日本は外交でもそれができるはずですよ。
【三浦】そうですね。ソフトパワーは軍事力などのハードパワーと比べて軟弱と思われがちですが、国益のための外交戦略としたら最強のもの。各国のリーダーたちの懐に入っていくだけでなく、一般の国民に対しても適切なパブリック・ディプロマシーで浸透していくことが大切です。ジョシュアはこのたびニューヨークのジャパン・ソサエティーの理事長になりましたが、日本のソフトパワーを海外に伝えるという意味では責任が重大です。
【ウォーカー】僕が思うに、日本人は自分のことを伝えるときに恥ずかしがりすぎます。米国みたいに「なんでも自分が一番」と言いすぎるのもよくない。真ん中くらいがちょうどいい。日本が元気に自分たちのことを伝える手伝いができればと思うんです。
【三浦】JALやANAの国際線に乗ると、舞妓、富士山、寿司のおもてなしCMが流れます。私は舞妓さんは好きだけど、普段会いませんよ。「外国人はこれが好きでしょ」というお仕着せではなく、日本人が日々楽しんでいる文化を紹介したほうがいいと思います。ジャパン・ソサエティーも、歌舞伎や生け花のような上品な文化に加えて、たとえばラーメンを紹介してもいい。
【ウォーカー】僕の友達が日本に来ても、「懐石料理もいいが、カレーと餃子食べて、カラオケに行きたい」と言うんです。温泉もいいですね。ジャパン・ソサエティーがあるニューヨークは「メディア」として考えれば世界一のステージで、ここで売れれば世界中どこにでも売れるでしょう。
【三浦】ジャパン・ソサエティーはこれまで日本の素晴らしい文化を紹介してきました。今度は、日本が世界に提供できること・ものは何かという見地から発信していただきたいと思います。まわりを見回せば、韓国系の団体は日々戦略的に影響力を高めています。日本らしい互酬的な、しかし戦略的な活動をしていただきたいですね。
【ウォーカー】これまで日米両国の重鎮が務めてきた理事長職に、三浦さんと同い年の僕が選ばれたことには大きな意味があると思っています。日本の文化をスーパーパワーにして、世界のために使えるようにしたい。期待していてください。
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ジャパン・ソサエティー理事長
2歳から18歳までを日本で過ごす。リッチモンド大学を卒業後、エール大学大学院で修士、プリンストン大学大学院で政治学博士を取得。米国務省勤務を経て、ユーラシアグループでグローバル戦略事業部長兼日本部長を務めた。2019年12月から現職。
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国際政治学者
神奈川県生まれ。東京大学卒業。同大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。『21世紀の戦争と平和:徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』、『政治を選ぶ力』(橋下徹氏との共著)など著書多数。討論番組、ワイドショーなどテレビでも活躍。
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(ジャパン・ソサエティー理事長 ジョシュア・ウォーカー、国際政治学者 三浦 瑠麗 構成=村上 敬 撮影=大沢尚芳)
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