SNSで「死にたい」とつぶやく自殺志願者の本音
プレジデントオンライン / 2020年1月28日 9時15分
■若者にとってSNSは「諸刃の剣」
2018年の年間自殺者数は2万840人。19年は速報値で、1万9959人となり、
はっきりとした理由はわかってないが、SNSが子どもの同調圧力に拍車をかけているとの見方もある。若年層の自殺と、SNSの問題は関連性が強いのだろうか。
これまでの筆者の取材だと、同調圧力は、友達や部活動でつながるLINEグループ内や、リアル友達とつながっているツイッターやインスタグラムなどで生じる一方で、それ以外のLINEグループやSNSは、むしろ、同調性から抜け出す効果もある。
■「生きづらさ」を解放できる匿名空間
「家族」や「学校・企業」、「地域社会」での実名的なつながりに、居心地の悪さ、生きづらさを感じている人たちがいる。自分自身を演じることや、周囲の期待を担うことに疲れている人たちがいる。その生きづらさを解放できる場として、匿名的な空間、第4空間がある。その一つがインターネットだ。
こうしたネット・コミュニティの中には、自殺をキーワードにしたつながりもある。当事者同士が経験を話し合ったりするなど、共感的な支え合う自助的な面がある。その周辺には、当事者ではないが、自殺を止めたい人・団体、専門職が参加する場合もある。
その一方で、自殺を助長する情報ややりとりもないわけではない。興味本位でアラシをしてみたり、精神的に弱っている人をナンパ対象にしたりする人たちもいる。
■「ネット」と「自殺」の親和性
ネットと自殺というキーワードは、以前から親和性があった。ネット上で見ず知らずの人同士がつながり、自殺をする「ネット心中」があった。多くの人たちに、ネットの中で自殺に関する話題がされていることを知らしめ、時には、類似の自殺が連鎖した。
いわゆる自殺系掲示板や匿名掲示板、ツイッターなどが接点になることが多い。かつて、止めようとして、ネット心中のグループに加わり、なくなってしまった人がいたケースもあった。取材できた人の中には、何度も未遂をしている人が多かった。過去の取材例から振り返る。
■リアルな世界で居場所を失った少女
この遺書を書いたのは、都内の大学生だった聖菜(当時19歳)だ。2002年11月のことだ。ネット心中が連鎖するようになったのは03年以降だが、それ以前から、自殺系掲示板にアクセスしていた。遺書を書いたときには、心中相手募集に応募した。
この頃、大学のサークルで仲間に妬まれ、悪口を言われていた。自殺を考えたが、自分からはできず、「殺して欲しい」とも思いながら、遺書を書いた。
自殺を意識したのは、1994年の愛知県西尾市で起きたいじめ自殺だった。当時、小学生でいじめられていた。無視だけでなく、暴力もあったという。無気力になり、死を思うきっかけとなり、報道によって、逃げる手段として自殺も選択肢となっていった。
家族にも居場所はなかった。常に成績がよい妹と比較されて育った。「お姉ちゃんなのにダメね」という母親からの言葉が耳を離れない。いじめのことを両親に言っても、認めようとせず、希死念慮が高まった。
■ネット心中の呼びかけに応じるも…
応じたのは聖菜のほか、女子高生がいた。しかし、「ネット心中」は実行されない。女子高生が日頃の悩みを話し始めたことで、他の2人が励まし合った。そこで、男が〈もう死ぬ理由がなくなった〉とメールを送ってきて、解散になった。
03年1月になり、再度、「ネット心中」の呼びかけに応じた。当時の日記には、こう書いてある。
〈1月16日 今日も死ねなかった。レスのメールが来た。どのようにしにましょうかと。って、そんなこときかれても思いつかんからメールしたんだよ〉
〈1月19日 樹海へ生きましょうと。一緒に線路に飛び込みましょうと。△△△さんと。○○さんと。◇◇◇さんと。××さんと。早く死にたい。死ねない。死ねない〉
結局、このときのメンバーとは出会わず、3月、見知らぬ人たちと会うことになったが、一人の男がこう言ってきた。
■死を考えることで、生きることを考えた
結局、その男のおかけでこのグループは自然消滅した。なかなかやりとりが続かないためか、6月には自ら心中相手を募集することになった。
数日で10人から返信があった。
しかし、急にリアルに感じたのか、メールを読むことを避けた。その一方で、同じ時期に、呼びかけに応じていた。その中には、実際に実行したと思われネット心中の報道もあった。ただ、このとき聖菜が参加しなかった。希死念慮に耐えきれず、心中実行日前に、一人で未遂をし、入院したためだ。
「メールのやりとりで死を考えることは、絶望から抜け出し、生きることを考えることにもなっています。だから、『死にたい』って思ってもいい」
聖菜の場合、死にたいという苦悩がネット・コミュニケーションに現れた。そして、ネット心中当事者の手前まで至った。しかし、現在では、ネットは経験を語る場として機能しているようだ。
■つぶやくのは、助けを求めているから
現在では掲示板よりも、SNSが主流になっている。友梨(仮名、20歳)は、ツイッターで、〈死にたい〉〈消えたい〉とつぶやいたことがある。小学4年生の頃から「死にたい」と思っており、吐き出す手段として、ネガティブな感情や不安、不満をつぶやくための「病み垢」を作っている。
「ツイッターでつぶやくのは、助けを求めているためです。学校や家族がきちんと相手にしてくれないからです。本当に、ギリギリの心情なんです」
〈死にたい〉と呟くと、どんな反応があったのだろうか。
2017年10月に発覚した「座間市男女9人殺害・死体遺棄事件」では、「死にたい」や「首吊り士」というアカウントを利用して、白石隆浩被告が、ツイッターで自殺をほのめかす女性たちに近づいた。
拙著『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)でも掲載したが、座間事件後に筆者が行ったアンケートで、「死にたい」とつぶやいた結果、最も多かったのは、「反応なし」だった。友梨の場合も同じだったようだ。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/a/670/img_fafa55c0e8b400d17c7c780ccc23f808768008.jpg)
■限界になったら、自分だけのグループLINEに投稿
「ツイッターでつぶやくのは承認欲求だと思います。反応がないと『そんなものか』とも思いますが、つぶやくのはストレス発散の面もあります。そのため、少しは楽になります。でも、自分だけが楽になればいいという気持ちもあります。あまりにも辛いときには、趣味垢(趣味用のアカウント)でつぶやいたりもします。やっぱり、反応はないですね。趣味垢でつながっている人は見ているとは思いますが、(タイムラインで)ただ、流れてしまっているのでしょうね」
最近は、自分しか所属しないLINEグループでも、つぶやくようにしている。
「ここで(心理的な意味で)限界がきた時に書くようにしています」
■学校でのいじめ、理不尽な担任…
こうした友梨が「死にたい」と思うようになったのは、小学4年生のとき、同級生からいじめを受けていたからだ。
「足をひっかけてきたり、給食当番のときに、配膳したものを受け取らないということがありました。私が触れたものには触れないということもあったんです。担任に言ったんですが、“そんなことないじゃん”と言われ、注意もしてくれませんでした」
小学5年生になっても別のいじめがあり、学校へ行かなくなった。中学校も最初は通学していたが、夏休み後は行けなくなった。このときの原因は担任にあるようだ。
「髪質が天然パーマなんですが、学校での指導を受けて、ずっとストレートパーマをかけていました。しばらくすると、もとの髪質に戻りました。担任に“この髪はなんだ? 縮毛矯正をしてこい”と言うので、そうしたんです。すると、同じ担任に今度は、“なんでしてきたのか?”と言われたんです」
担任の理不尽な言動は、友梨が学校に行く気を失わせた。フリースクールに通うことになるが、いい思いをしなかったという。
「指導員がきつい言い方をするんです。私のツイッターを見て、夜中に外出していると思い、ありもしないことを言ってくるんです。その後、私が間違っていないことがわかったんですが、謝罪もありませんでした」
■生きるためにSNSは手放せない
高校生活も「JK」ともてはやされるようなものはなかった。中学時代に十分に勉強する時間が取れず、いわゆる「教育困難校」に進学することになる。授業がうるさく、成立しない。
「学校行事があるたびに、集会が開かれ、説教がありました。一部の生徒がしたことなのに、全員が怒られるんです。怒るのはいいですが、当事者だけにしてほしかったですね」
高校卒業後も、SNSは手放せない。出会い系のアプリを使って、“パパ活”をしているという。パパ活は、性交渉なしで、食事の時間を提供する代わりに、お小遣いをもらったり、タクシー代をもらう行為をイメージする。しかし、友梨の場合、お金をもらわないことも多い。
「性交渉はあります。交通費を出してもらい、3泊4日で行くこともあります。お小遣いをもらえないこともありますが、希望を言ったことはないですね」
見ず知らずの人との出会いはそれほど警戒しないようだ。
■死にたい気持ちを吐き出し、生きようともがく場
警察庁によると、2018年の1年間でSNSを使って事件に巻き込まれた18歳未満の子どもは1811人。うち最も多い手段がツイッターで、全体の約4割を占める。ツイッターに絡む事件でいえば、最近では、座間事件や、行方不明だった大阪府の小学6年の女児が栃木県小山市内で保護された誘拐事件は大きく報道された。
「大阪の小学生が誘拐された事件に関しては、ツイッターで『助けて』と言えるのはすごいなと思いました。相手が希望を叶えてくれるのなら、それは事実上、誘拐じゃない気もします。もし、私の学生時代に、同じような家出をしたい立場なら、誘ってきた人を疑いはするけれど、“いい物件だな”とは思います。それで吉と出るかは、選び方次第かもしれないです」
友梨にとってSNSは「死にたい」という気持ちを吐き出す場だ。同時に、なんとか生きようと懸命にもがこうとする場でもあった。
■匿名空間に見つけた貴重な居場所
取り上げたケースは、取材した中でのほんの一例だが、極端なものではない。日常生活の中で生きづらさを抱える人たちにとって、ネット上の匿名空間は生きづらさを解放できる数少ない居場所になっている。
孤独や不安を抱えた人ほど、出会い系やSNSにつながりを求める。「死にたい」というつぶやきは、リアルな空間ではなかなか言い出せない声、緩やかなつながりを求める声なのかもしれない。
一方で、ネット空間には、いじめや差別、排除と言った現実世界の負の側面が入り込み、SNSに起因する事件の発生も決して少なくない。
匿名コミュニケーションの危険性を過度に主張する人たちがいるが、表面的であって、ネット空間がもたらす癒し効果を見ていない。監視や規制を強めることは、リアルな空間で生きづらさを抱えた人たちの貴重な居場所の側面を狭め、かえって生きづらさを慢性化させるだけになるのではないだろうか。
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ジャーナリスト
1969年、栃木県生まれ。長野県の地方紙「長野日報」の記者を経て、フリーに。子どもや若者を中心に、自殺や自傷、依存症などのメンタルヘルスをはじめ、インターネットでのコミュニケーション、インターネット規制問題、青少年健全育成条例問題、子どもの権利、教育問題、性の問題に関心を持っている。東日本大震災でも、岩手、宮城、福島、茨城、千葉県の被災地を取材している。中央大学非常勤講師。
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(ジャーナリスト 渋井 哲也)
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