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ジム・ロジャーズ「2020年から世界中の景気が悪くなる」

プレジデントオンライン / 2020年2月3日 9時15分

投資家 ジム・ロジャーズ氏

いよいよ始まる2020年の経済はどう動くのか。「世界経済は悪化する」と断言する人がいる。それは世界三大投資家のジム・ロジャーズ氏だ。来日したジム・ロジャーズ氏に真相を直撃した。

■世界大不況がやってくる

――2019年はニューヨーク株式市場で史上最高値を更新するなど、世界的に株高となりました。2020年以降もこの傾向は続くのでしょうか。

2020年以降、トランプ大統領は貿易対立をさらに引き起こしていくでしょう。不幸なことですが、私たちは貿易対立によって起こる問題を次々に目にすることになります。

――株高を演出してきたトランプ大統領は、投資家にとっては歓迎すべき存在ではないのでしょうか。

いいえ、そうではありません。確かに、アメリカの株式市場が史上最高値を更新したのは、トランプ大統領によるところも一部にはあります。しかし、2020年以降には、ほとんど世界中で経済状況は悪くなるでしょう。

――それはなぜでしょうか。トランプ大統領による貿易対立以外にも景気が後退する要因があるのでしょうか。

すでにアメリカの好景気は、10年以上続いていて史上最長です。しかし、歴史的に考えれば、景気循環で不景気となることは明らかです。

トランプ大統領は米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)に金利を引き下げるように圧力を加えていますが、2020年以降は金利を引き上げざるをえなくなるでしょう。世界最大の対外債務を抱えるアメリカは、貿易対立などに由来する経済悪化により国債の債務不履行を引き起こす可能性があり、その懸念が高まればアメリカ国債の価値は相対的に下がり、金利が上昇します。金利が上がれば、世界中で経済の停滞が進みます。

――世界的な経済停滞は、具体的にいつ起こるのでしょうか。

経済停滞はどう始まるかというと、誰も見ていない地域で始まります。リーマン・ショックのときを思い出してみてください。2007年から何が起こったかというと、まずアイスランドで銀行が資金繰りの悪化を起こし、経営破綻をしました。前兆があったのです。しかし、誰も注意をしていませんでした。そして、その1年後の2008年にリーマン・ブラザーズが破綻したわけですが、破綻してようやく皆が目覚めたわけです。景気後退は一気に起こるというわけではなく、段階的に物事が悪化していくのです。

そして今、世界を見渡してみてください。景気後退の前兆は、すでに始まっています。アルゼンチン、トルコ、ベネズエラなどで経済危機が起こっています。そう、もうすでに景気後退は始まっているのです。世界のマーケットから見たら規模が小さいので、誰も注意を払っていませんが、すでに始まっているのです。そのうちに誰もが無視できない大きなマーケットで崩壊が起こります。このままいくと、2020年以降の数年以内に状況が悪化するということが見えてくると思います。

――アメリカでは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などと呼ばれる巨大IT企業が世界の時価総額ランキングの上位を占め、ウォーレン・バフェット氏もアップルやアマゾンの株を購入していることで話題です。投資家として、これらの企業をどのように評価していますか。

確かに成功した企業と言えます。ですが、投資として考えたときには、すでに株価が高すぎて、私は投資しようとは思いません。ヨーロッパやアメリカでも規制のターゲットになっていますし、どれくらい今後も成功が長続きするかはわからないからです。

■イギリスは崩壊していく

――ヨーロッパに目を移せば、イギリスではブレグジットの問題が泥沼化しています。イギリスやEUの未来に関しては、どのように考えていますか。

イギリスは私がオックスフォード大学で歴史学を修めた場所で思い入れが強い国ですが、イギリスの将来に対してはとても悲観的です。

※「NYダウ平均株価の推移」の図は2019年12月16日現在

イギリスは1801年から始まったイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドから成る連合王国ですが、この連合王国がなくなる可能性はあると思っています。

イギリスは他国と同様に大きな負債を抱えていますが、外国に輸出できるものはほとんどありません。スコットランド沖に北海油田がありますが、スコットランドが独立すれば北海油田の権益はスコットランドが取っていくでしょう。北アイルランドやウェールズもEUに残りたいと考えているので、独立の機運が高まるでしょう。総選挙で勝利した人物は、選挙後にも苦戦を強いられるでしょう。

イギリスだけでなく、ヨーロッパも不安定になるでしょう。ヨーロッパで行われてきた一連の選挙を見ればわかるとおり、移民排斥とナショナリズムを煽る極右政党が現れており、分断を生むことによって政治家は票を得られることがわかってしまったので、より不安定化が進むでしょう。また、ヨーロッパ各国は国レベルでも市レベルでも大きな負債を抱えています。したがって、ヨーロッパ経済については、ほぼすべてに対して悲観的です。次のベアマーケット(相場の下落が続いている市場)では、もしかしたらヨーロッパに投資をする、いいチャンスかもしれませんが、現時点では買うことはありません。

■21世紀は本当に中国の時代か

――中国についても悲観的でしょうか。中国は香港デモ、経済成長の鈍化、高齢化問題などが懸念されています。

私は中国が21世紀の大国になると思っており、悲観はしていません。なぜならば、世界には毎年毎年上がり続ける国はないからです。20世紀に一番成長した大国はアメリカでしたが、そのアメリカでも何度も経済停滞を経験しました。それでもアメリカは20世紀に成功をしました。21世紀の中国も同じなのです。

――インドに対しては、どのように評価していますか。「中国の次はインドだ。インドは中国を抜かす」という声もあります。

インドが中国を超える大国になるという見通しは私にはありません。ただ、世界中を旅してきた冒険投資家として言えば、世界でどこか1つの国に行くということなら、インドに行くべきだと思います。自然、食べ物、音楽、文化などを考えると、インドほどユニークな国はないからです。そのインドにかつて投資をしたことはありますが、今はしていません。なぜならば、インドが何かを達成したという実績があるというわけではないからです。

■日本人に不都合な朝鮮半島事情

――朝鮮半島はどうでしょうか。韓国と北朝鮮の融和が実現すれば、大きなビジネスチャンスがあると語っていますね。ただ北朝鮮については、2度の米朝首脳会談以降に対話は進展していませんが、韓国と北朝鮮には引き続き期待をしていますか。

日本人にとって嫌な話かもしれませんが、韓国は日本より成功する見込みが高いでしょう。理由は新刊でも述べましたが、北朝鮮にあります。確かに、北朝鮮の経済状況は今、世界の最低位と言っていいレベルです。しかし、もともとは資源が豊富で韓国より裕福な国でした。1970年代から徐々に韓国との差が開いて、今や完全に後れを取ってしまいましたが、経済を開放すれば豊富に残っている地下資源を生かして再び豊かな国になれます。

韓国は日本と同じような問題を抱えています。出生率が低く、子供たちが公務員になりたがるといった保守性も共通しています。しかし、朝鮮半島の南北融和が実現すれば、韓国の問題は軽減され、韓国は投資するに値する国に変貌すると見ています。

北朝鮮には若い女性が多く、出産や育児に対する意識も昔からさほど変わっていません。したがって、日本をはじめ少子化に直面する近隣諸国に比べると、北朝鮮から女性が流入する韓国はかなり改善が見込まれます。不調に喘いでいる韓国経済に私が期待するのも、北朝鮮というフロンティアがあるからです。

ただし、私が言う「南北融和」とは、南北が完全に一緒になるということではなく、両国の国境である38度線が開かれることです。統一の話をするにしても、段階的に考える必要があり、まず38度線が開かれないと統一はできないということです。

38度線がオープンになることについては、周辺国の中国やロシアは賛成ですが、日本にとっては北朝鮮が脅威なので反対していますね。そして、一番の問題は米軍です。米軍は約3万人が韓国にいる状態で、それを移動させることには後ろ向きです。中国とロシアの国境に接するところに軍を配置できる地域は朝鮮半島のみです。トランプ大統領はこの問題に気づいていますが、どうしたらいいかわかっていません。

朝鮮半島の現実を述べれば、38度線の守衛からは銃が撤収されています。地雷も掘り起こしています。これは日本でもアメリカでも報じられていない事実ですが、こうした変化は実際に起きています。

■借金大国日本に残された活路

――2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催される日本に最も期待することは何でしょうか。

新刊で述べたとおりですが、2020年の日本は東京オリンピック・パラリンピックで盛り上がることにはなるでしょう。さまざまな経済波及効果が試算されているし、日本の景気にプラスになると考える人もいます。確かに表向きにはオリンピックのいい面もあり、道路は改装され、真新しいスタジアムができあがります。そうした事業に関わった人たちは一定の恩恵を得られるかもしれません。政治家もポジティブな成果をアピールするでしょう。

しかし歴史を振り返れば、オリンピックが国家にとってお金儲けになったためしがないことがわかります。一部の人に短期的な収入をもたらすことはあっても、国全体を救うことにはならず、むしろ弊害を及ぼします。結局のところ、オリンピックのせいで日本の借金はさらに膨らみます。やがてオリンピックが2020年に開かれたことをほんの一握りの人しか思い出せなくなるでしょう。

したがって、東京オリンピック・パラリンピックが日本再浮上の直接的なきっかけになるとは思いません。日本には少子化や膨大な借金など多くの問題が残されたままだからです。事実、投資先として見たときに、私は2018年秋に保有していた日本株をすべて手放しました。今現在は株であれ日本円であれ、日本に関連する資産は何も持っていません。

ただし、東京オリンピック・パラリンピックは、大挙して日本にやって来る外国人に、日本の素晴らしさを知ってもらう絶好の機会となるでしょう。

日本は私がお気に入りの国の1つです。素晴らしい観光の地であり、それに相応しい豊かな文化と伝統を持っています。とりわけ日本の食文化は世界一だと思っています。日本を訪ねる際には私はいつでも食事を楽しみにしています。食事のほかにも歴史的な建造物や古民家、茶道や武士道の文化など、外国人を魅了するものが日本にはたくさんあります。したがって、観光こそが2020年以降の日本に私が最も期待することです。

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ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)
投資家
名門イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街へ。ジョージ・ソロスと共にクォンタム・ファンドを設立、10年で4200パーセントという驚異のリターンを叩き出し、伝説に。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテーターとして世界中で活躍していた。2007年、来るアジアの世紀を見越して家族でシンガポールに移住。『日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く』『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』など著書多数。

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(投資家 ジム・ロジャーズ 構成=小川 剛 撮影=宇佐美雅浩)

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