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日本が昔から「競争より身分を重んじる」価値観であるワケ

プレジデントオンライン / 2020年3月1日 11時15分

本郷和人『権力の日本史』(文春新書)

■女性天皇はいても、女系の天皇が輩出されなかった理由

平成から令和への代替わりの年にあって、皇室報道や平成回顧が様々な媒体に掲載されている。ただ、皇室を敬愛している人が多いことは伝わっても、意外に皇室をめぐる情報は少ないし、皇室をめぐる言論はどうも貧しい。

それは、近年の皇室をめぐる言論が、「男系男子」vs「女系・女性容認」という皇位継承のあり方や、嫁姑問題などの口さがないゴシップに集中してしまっているからではないだろうか。もっと豊かな歴史を学びたい、と思う人にこそ本書を手に取ってほしい。

日本人はそもそも天皇という存在をよく知っているのだろうか。本書は、日本における身分制が何を守ろうとしてきたのかを明らかにしつつ、権力の実像を伝えている。

本書で投げかけられる問いはどれも面白い。天皇と上皇はどちらが偉いのか、なぜ兄弟間での平等な相続ではなく中継ぎの女性天皇を即位させてまで直系相続が一般的になっていったのか、女性天皇はいてもなぜ女系の天皇が輩出されなかったのか。

そして、天皇だけでなく、貴族の立身出世のパターンを解説することで、ある共通項が浮かび上がる。それこそ、家柄を重んじ、土地持ちの「家」の継承を最優先する考え方だ。いわば、現代の日本政界のあり様にも通ずるような秩序観である。

面白いのは、日本人が「家」の継承と系譜を重んじつつも、その中身に関しては割と最近まで無頓着だったというくだりである。遺伝子だ、Y染色体だ、という男系男子の皇統に重きを置く論者が重視してきたいわゆる「血」の要素に関しては、昔の貴族社会に、あまり強いこだわりは見られない。むしろ、その点に関しては女性の性交渉を含めておおらかであると言ってもいい。

■日本における「家」へのこだわりはすさまじい

その一方で、日本における「家」へのこだわりはすさまじい。こうした一本すっと通ったロジックに基づいて、院政の勃興や女性天皇の出現が語られていくので、読者は随所で思わずなるほどと膝を打つことだろう。

本書から浮かび上がってくるのは、歴史が偶然性の連続の上にあるという事実と、そのなかでもやはり日本人が大事にした価値観がいまのあり方を形作っているということの2つだ。日本人が大事にしてきた価値観とは、秩序安定のための長幼の序であり、家格である。

競争よりも身分を、新しいものよりも古いものを重んじてきたのが日本だとすれば、それは著者が言うように秩序を維持しようとする意識的な決断であったのだろう。だからこそ、近代日本が激動の国際情勢のなかで「家」よりも能力を、平穏よりも変革を優先する過程で、ただ1つ変わらないものの象徴として、万世一系の天皇という継続性を前面に押し出さざるをえなかったことがよくわかるのだ。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
神奈川県生まれ。東京大学卒業。同大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。『21世紀の戦争と平和:徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』、『政治を選ぶ力』(橋下徹氏との共著)など著書多数。討論番組、ワイドショーなどテレビでも活躍。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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