干渉を嫌がる「別居の80代伯母」をどうすべきか
プレジデントオンライン / 2020年1月29日 15時15分
■水道管工事を巡り、伯母、大荒れ
母親の実家である札幌市郊外に住む2人の独身伯母。甥として、2人のお世話を始めた話の続きです。水道管工事が必要となったのですが、R伯母(87)は「2階部分はお金がないからできないし、工事は不要」と言い張っていました。
私は一計を案じて工事費を分割し、43万円中、13万円を負担することにしました。伯母には残りの金額を伝えて承諾を得ました。が、依頼した業者は誤って43万円の請求書をR伯母名義で実家に送ってしまいました。
さあ、R伯母が怒る、怒る。R伯母は「HS工事はひどい! 見積もりも出さずに請求書だけ送り付けた!」と大騒ぎ。
――えーと、まず、話を聞いてくれる?
R伯母「なんなの、あのHS工事。勝手に請求書を送りつけて43万円なんてとても払えない! 生活だって苦しいし!」
全然、私の話を聞いてくれない。うん、まあ、年金暮らしで、かなり切り詰めているのはわかります。だからこそ、分割払いで、という話になりました。
なお、分割払いは正確には年金が出る月ごと。つまり、月ベースで考えると6回払いです。生活が苦しいとは、食も切り詰めている、病院だって行きたくても行けない、とのこと。これ、書けば一行なんですが、同じ話を3時間にわたって、累計18回も繰り返していました。
■水漏れは直しても人間関係を壊す業者
感情の高ぶりは収まる気配がないので、細かい事情を伝える前に「まずはHS工事と話をする」「一度、こちらが全額立て替える」と話して、何とか電話を切ります。
一息ついた後、HS工事(仮名)に電話。
――全額の請求書を実家に送ったそうですが、そうしないでくれ、と言ったじゃないですか。伯母が恥ずかしながら感情の起伏ある方なので、一部を私が負担して、請求書は別々、とお願いしたはずですよ。
HS工事「あー、すみません~。こちらの手続きミスで~」
事態の深刻さを全く理解していない。というか、絶対に悪かったとは思っていない様子。さすが、水漏れは直しても、他の漏れがあるだけはあります。と言っても、それ以上、非難しても意味がありません。
工事はすでに終了していますし、全額払わなければなりません。私もさすがに43万円全額を払うことはできず、分割払いということでひとまずまとめました。
■怒りの矛先が、業者から私に……
翌日、少しは落ち着いただろうと思って、再度、R伯母に連絡しました。すると、怒りの矛先が業者からこちらに向かってきました。決定打となったのがお金についてです。
R伯母・E伯母は1階の工事そのものは必要として了承はしていました。金額を30万円と伝えて、「全額をすぐ払うのは無理だけど、年金給付月ごとの分割払いなら可能」と一再ならず話していたのです。
だからこそ、私と伯母で分ける話をHS工事にしたわけですが、43万円の請求書が送られた途端に怒り狂う。いや、これはHS工事の手続きミスで、そちらは30万円だから、といっても、それでも「お金がない」と言い張るのです。
なぜ、2019年7月には「30万円を分割なら払える」と言っていたのに、3カ月後には払えない、と言い張るのでしょうか? しかも、年金暮らしで余裕がない、と言っている割に、私が実家に行くたびにお金はそれなりに使っていました。
私が実家に戻るたびに、食事はやたらと外食。ラーメンだの焼肉だの回転寿司だので、しかも、支払いは全部、伯母。こちらが出そうとするのを極端に嫌がっていました。朝食なども、近所のパン屋やコンビニで買うのが中心であまり作らなくなっていました。帰るときには5000円札とか、お菓子を渡して、受け取らないのを許しません。
■無駄遣いに逆ギレ
さらに、7月にはエアコンを導入したし(工事費込みで14万円)、8月には叔父とその子、4人で定山渓温泉に行き、その費用は全額、R伯母が出したとのこと。そんな状態ですから、年金生活とは言え、それなりにお金はあるのだろう、と私は考えていたのです。
が、43万円どころか、最初は分割払いで出せると話した30万円も無理、とR伯母は言い張ります。であれば、分割なら払えると言っていた7月から、一体何があったのか、知りたいところ。
――あのね、7月には30万円の分割払いなら出せると二人とも話していたよね? 3カ月たって、それがなぜ、分割払いも無理なのかな? 何か、大きな買い物とかしたわけ?
R伯母「だって、7月にはエアコンも買ったし、8月には温泉も行ったし」
――え? それが理由?
R伯母「他になにがあるのよ!」
――エアコンを買った後に水漏れ事故が起きたでしょ? しかも俺が帰るたびに、寿司だ、ラーメンだ、焼肉だと外食して、そのたびにおごってくれていたよね。そういう状態で「30万円の分割払いなら大丈夫」と話していたのが、なんでひっくり返るのかな。
■「家計のことをあれこれ言われたくない」
ここでR伯母の怒りは完全にHS工事から私に向かってきます。HS工事に勝手に話をした、家計のことをあれこれ言われたくない、と2時間にわたり、同じ話を10回も繰り返しました。さすがに私も、一度に43万円を負担することになったいらだちもあって、きつい言い方になります。
――あのさあ。一方では外食にエアコン、温泉にも行ってさ、「30万円は分割払いなら大丈夫」と何回も繰り返したよね。何だったら「今度はあなたも一緒に温泉に行こう。こちらが全部おごるから」とまで言っていたよ。一方では、お金がない、食事も詰めている、病院も行きたくても行けない。これ、ものすごく矛盾しているよ。
R伯母「だから、家計の話、あんたにあれこれ言われたくない!」
――あー、また同じ話だ。あのさあ、もういい加減、同じ話を11回も繰り返されてうんざりだし、こちらも仕事があるから切るね。
そう言ったところ、R伯母のほうが先に切りました。
■E伯母から電話も根拠ない「大丈夫」
その日の夜、今度はE伯母から電話がありました。「HS工事も悪いし、見積もりなどをちゃんと見せなかったあなたも悪い」というE伯母の話を3時間かけて13回繰り返しました。合間に工事の必要性などを話しても、やはり聞いてくれません。
さらに、私がデイサービスに行かなくなって半年ほどたっていることを問うと、「もうちょっと待って」。また家事の一部をヘルパーさんに頼むことは、「だって、ヘルパーさんに頼んでも掃除の仕方がおかしくて結局二度手間になるのよ。デイサービスだってまた一から人間関係を作るのが大変だし……」。
――いや、人間関係を一から作るのが大変と言っても、それは必要なことだよ。ヘルパーさんの仕事ぶりが気に食わなくても、多少は妥協しないと。
E伯母「いや、そういうけど、ともかく、二人でやれるから。大丈夫だから」
■モヤモヤだけが残る3時間の電話
どう考えても大丈夫ではないのですが、根拠のない「大丈夫」を繰り返します。さらに、この話の合間にまたHS工事への批判と、見積もりを出さなかった私への批判が繰り返されます。R伯母のように感情的ではありませんが、のれんに腕押し状態。
いい加減にうんざりしてきた私はこう言って、電話を切りました。
――あのさあ、「大丈夫」を繰り返すけど、全然大丈夫じゃないから、俺はデイサービスの話とかをしているわけさ。それが行こうとしないのはどう考えてもおかしいよ。それから、お金の話もそう。7月に「30万円の分割払いなら出せる」と言っていたのが、3カ月後に「食を切り詰めている、病院も行きたくても行けない」とか感情的に、言い出すのはおかしいよ。
E伯母「いや、それはね……」
――一方でおごると言われて、一方であとから食事もしないだの病院に行きたくても行けないだの、言われるわけでしょ。そういうの考えれば、今後、そっちに帰って外食に行くのはちょっと怖いよね。そういうのがおかしい、とお二人が思わないのであれば、外食どころか、そもそもそっちには行きづらい。で、ごめん、もう3時間も話しているから、明日も早いし、切らせて。
■「二度と来るな」で以降、連絡断絶
この電話の翌朝、R伯母から電話がありました。R伯母は、「水道工事の残額、30万円は年金が入る2カ月後にあなたに払います。それで、うちには、もう二度と来なくていいから」と言うのです。私も起きたばっかりで、「ああ、そうなの。わかった」とか、適当な返事しかできませんでした。
というわけで、めでたく、母方の実家から出入り禁止となったのです。はっはっは。いや、全然、めでたくないし、笑いごとでもありません。しかも、水道管工事を善意で手配して43万円払って、で、実家から出入り禁止。いやはや。これが2019年10月中旬の話です。
それまでは週1回か2回は、R伯母かE伯母からあった電話がピタッと止まりました。年賀状も昨年までは二人から連名で送られていたのですが、今年はそれもなし。実家に出入りしているケアマネージャーさんに、これこれこういう事情で、と話すと、相当、怒り心頭の様子。なお、除雪は福祉除雪を手配したとのこと。
知人である福祉の専門家に事情を話して相談したところ、「こうなった以上は実子でもないのだから、石渡さんは下手に寄らないほうがいいですね」と言われました。そのため、その後、実家がどうなっているかは不明です。
■実子ではないだけ、もどかしい
おじ・おばと甥・姪の介護、という話、私もいろいろ探しましたが、あまり参考になる文献が見つかりませんでした。実子でない以上、法的には扶養義務がないわけで、放置すればいい、とも言えます。しかし、そう簡単に割り切れるものでもありません。
この話を、フェイスブックで愚痴交じりに書いたところ、プレジデントオンラインの編集部から「記事にしませんか」という依頼を受けました。身内のトラブルを記事にするのは問題があるような気もします。それに、E伯母本人はまだ認知症についてわかっていません(認めない、と言うほうが正確ですが)。
2人はネットをせず、スマホも所持していませんが、記事にすればどこかで伝え聞く可能性はあるでしょう。そうなれば、大きなショックを受けるかもしれません。
それでも、私は記事とすることにしました。
R伯母・E伯母が記事を読んだ結果、冷静に考え直してくれる可能性はあります。反対に余計に怒ったところで、「実家の出入り禁止」という状態が変わるわけでもありません。しかも、おじ・おばと甥・姪の介護については、参考になる記事がほとんどありません。また、「老人ひきこもり」も広く知られるべき事象だと思いました。
■連絡を絶たれ、放置するしかない
偶然ですが、記事化を決めてから、沖縄タイムスでひきこもりの県内調査の記事をみつけました(2019年12月27日朝刊「ひきこもり県内758人」/調査回答は民生委員の各地域協議会)。記事によると、70代のひきこもりが66人、80代のひきこもりが45人。人のつながりが強い、と感じていた沖縄でもそれだけの人数がいることに驚きました。
沖縄に限らず、全国に多くの「老人ひきこもり」がいるのではないでしょうか。それに対して、地域あるいは身内は何ができるのか。この記事が参考になればという思いがあります。
私は今のところ、出入り禁止と言い渡され、連絡を絶たれた以上、放置するしかないと思っています。それが最善の選択肢ではないことは理解していますが、何をすればいいのかわからずにいます。もどかしい思いを持ったまま、実家は少しずつ、雪が積もっているようです。
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大学ジャーナリスト
1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は「大学ジャーナリスト」として、テレビ出演が急増。主な著書に『大学の学科図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計28冊。取材で移動が多いこともあり、ANAはダイヤモンドクラス、JALはプレミアまで到達するほどのマイラー。
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(大学ジャーナリスト 石渡 嶺司)
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