1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「子育て負担」から逃れてきた50代男性の落ち目

プレジデントオンライン / 2020年1月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

かつて育児・家事は「妻にお任せ」という世帯が多かった。そのツケが回ってきたようだ。ある調査によれば、50代の総合職では男性は女性よりも「核となるスキル」が乏しく、手持ちのスキルも現在の仕事で活かせていない。一方、子育てを終えた女性たちは、「思い切り働くぞ」とモチベーションを高めているという——。

■家事・育児のワンオペを担ってきた50代女性の逆襲が始まった

男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年のことでした。

この法律により、企業は、募集・採用、さらに配置・昇進・福利厚生、定年・退職・解雇にあたり、性別を理由にした差別の禁止などが定められました。

それにより男女別の仕事内容の差をなくしていくために、総合職・一般職といったコース別雇用管理制度を設ける会社が増え始めましたが、一般職の多くは女性が占めるなど、性別で偏りが生じる企業は少なくありませんでした。

また、せっかく総合職で採用されても、適した部署へ異動される機会などが男性より少なかったというケースは珍しくありません。50代の女性たちは、どのようなキャリアをたどってきたのでしょうか。

そこで今回は、公益財団法人21世紀職業財団に協力をいただき、前回(「バブル世代の男と女「働く意識」の顕著すぎる差」)に引き続き50代女性の働き方の現状や今までのキャリアについて述べます。

■「自分がやった仕事を名前を書き換えられて持っていかれた」

1:男性に比べて仕事の機会に恵まれなかった50代女性

21世紀職業財団では、2019年に、「女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査 」を行いました。

(*50歳時に300人以上の企業に正社員として勤務しており、現在も正社員として勤務している定年前の50〜64歳の男女と、50歳時に300人以上の企業に正社員として勤務しており、現在働いている定年後の60〜64歳の男女、計2820人を対象として調査を実施)

職場でこれまで経験したことがあるものについて、50代男女の違いを比べると、仕事の経験に大きな違いがあることが明らかになっています。

キャリアの見直しに役立った経験
21世紀職業財団「~均等法第一世代が活躍するために~女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査――男女比較の観点から――」

違う部門への異動(男性総合職 59.7%、女性総合職 36.7%、女性一般職 43.8%)
転居を伴う国内転勤(男性総合職 30.5%、女性総合職 5.0%、女性一般職 5.2%)
出向、転籍(男性総合職 31.8%、女性総合職 9.3%、女性一般職 13.5%)
海外転勤(男性総合職 3.8%、女性総合職 0.8%、女性一般職 0.8%)

「違う部門への異動」など上記の項目に該当する機会が1つもなかったと回答した女性総合職は25.5%、女性一般職は25.0%とほぼ同等になっており、男性については16.1%です。総合職、一般職問わず、男性に比べて女性は、結果的に、異動や転勤など多様な経験を積む機会に恵まれなかった割合が高かったといえます。

インタビュー調査の中では、50代女性から下記のようなコメントが得られました(一部抜粋)。

「男性の縦社会ですから、自分がやったことを、名前を書き換えられて持っていかれるということが、まあまあ、あったのではないかなと思います」
「入社時から出る杭(くい)は打たれると言われてきた。今思えば、与えられてやるのではなくて、もっと若い頃に、出しゃばってでもやる、それは私がやりますみたいなことをすれば良かったのだなとは思うですけれども、できなかった」
「男性優位の会社なので、もう少し自分が前にいける、もっと上にいけるとか、もっと頑張れる、職位とかではなくて、こんなこともできるし、やってみたいと思っているけれども、なかなかやりづらいというか。萎縮してしまうところはすごくあった」

法律ができた当時は、働く女性が徐々に増え始めた頃ではあるものの、多様な経験を積むチャンスは男性と比べて少なく、女性自身も遠慮をして自分のやりたいことを言いづらかった状況がうかがえます。

■女性総合職のほうが男性総合職よりも「核となるスキル」がある

2:50代男性総合職と女性総合職の満足度の差異

同調査では、「仕事の質・職務内容」「教育訓練の機会」「給与額」「上司から受ける援助や指示」「同僚や部下とのコミュニケーション」「仕事も含めた生活全般」の6つの項目についての満足度を調査しています。

その結果、男性総合職に比べて女性総合職のほう満足度が高かったのは、

「仕事の質・職務内容(男性52.2%、女性67.6%)」
「仕事も含めた生活全般(男性49.6%、女性62.2%)」

でした。

逆に、男性が女性より満足度がたかかったのは

「上司から受ける援助や指示(男性42.8%、女性25.5%)」

などであることが明らかになりました。

インタビュー調査では、50代女性総合職は下記のようなコメントを残しています。

「私より上の代がどんどんやめていったのは、そういう時代だったということもあり、ちょうどその狭間で、ギリギリ大丈夫な残ってもいい時代に入っていたからで、(自分が)何が突出してできたからとか、絶対にやめないでやると思っていて残ったわけではないので、本当に人を含めた環境とか、時代とか、会社の制度とか、いろんなものに恵まれていたのだと思いますね、私は」
「本当にフェイス・トゥ・フェイスでありがとうと言われることが多かったので。今は本当に橋渡しで、直接、ありがとう(と言う機会)はちょっと減ったので、ちょっとその点はちょっと寂しいかなというのはあります」
「会社に来るのが楽しかったです。仲間が、一緒に仕事をしていて、仕事も楽しかったので、逆に言うと、仕事が趣味ではないですけれども、どこか優しさがある方がまわりにすごく多くて、一緒に頑張ろうねと言う形でやってこられたのはすごく楽しかったので、なんかいつの間にか来られてしまいました」

21世紀職業財団の上席主任・主任研究員である山谷真名氏は次のように解説します。

「同じ総合職でも女性のほうが処遇も悪く、仕事経験による育成や研修など企業からの支援を受けてきていません。しかし、今回の調査結果からは、女性総合職のほうが男性総合職よりも『核となるスキル』があり、そのスキルを現在の仕事で活かせていると認識している人が多いことも明らかになりました(*)。総合職の女性たちは、困難な職場環境だからこそ、仕事に活かせるスキルを身につけ、それによって満足度を高めているのではないかと思います」

*「ある」+「どちらかといえばある」男64.9%、女73.4%

核となるスキル
21世紀職業財団「~均等法第一世代が活躍するために~女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査――男女比較の観点から――」

女性の仕事内容に対する満足のなかには、出世・昇進ではなく、「仕事をさせてもらうことに対する感謝の気持ち」や、「周囲と一緒に協力をして仕事を行うことへの喜び」などから生まれくるものも多く、そうしたポジティブな気持ちが、仕事に活かせるスキルの習得につながったのかもしれません。

■ピークを過ぎて落ち目の50代男性、子育て完遂の女性は働く気満々

3:子育て後はさらに仕事にエネルギーを投下

同調査では、「これまで子育てをしていたものの、今は、(子どもも成長して)ほとんど手がかからない」という男女を対象に調査を行っています。

「子育てが仕事の制約だと感じることがあったか」を尋ねたところ、「制約と感じることがあった」と回答した人は、女性総合職では73.1%でしたが、男性総合職はわずか19.6%でした。

また、「子育ての負担が減った現在、思う存分仕事をしている」と回答した女性総合職は63.1%に上る一方で、男性総合職は42.1%にとどまっています。

多くの女性総合職が、過去には子育てと仕事の両立でたいへん苦労したものの、子育ての負担から解放されたことで仕事に対するモチベーションが上がったことがわかります。

写真=iStock.com/gruizza

インタビュー調査で50代女性総合職は次のようなコメントをしました。

「50代の女性は子育ても終わっている。今、私もそうですけれども子どもが高校生、大学生になり子育てはほぼ終わり。60になれば(親の)介護になるかもしれないので、50代は一番時間があると思うのです。一番仕事ができる。経験も20年ぐらい積んでいて、それで自分の時間が使えるとなってきているので、本当はもっと活躍していいのではないかと思っています」
「私は、子どもが小さい時にはもう5時で帰ります、帰らせてくださいという生活を続けました。今はもう子どもに手がかからなくなってしまったので、大丈夫、仕事をするよ、引き受ける、できなかったら私がやるよとか」

前出・山谷氏は、この調査結果やコメントを踏まえ、こう話します。

「これまでの単線的なキャリアをとる男性において50代は、働き盛りのピークを過ぎた年代と考えられ、役職定年を設けている企業も多い。その一方、50代の女性たちは、これから思い切り働けるぞという年代なのです。そのため、50代になっても、昇進・昇格の機会や新たな活躍の場を設けるといった取り組みを企業でぜひ実施していただきたいと思います」

女性にとって、仕事と子育てを両立させながら働くことは、一時的にキャリアの中断や遅れを生じることも多かったはずです。しかし、子育て後に、仕事への意欲が上がる状況を踏まえれば、何歳になっても能力や意欲の高い人が活躍できる環境づくりが重要になってくるのではないでしょうか。

■女性は20~40歳の20年の経験を踏まえ、50~70歳までの20年を働く

男性に比べて、職場で活躍の機会に恵まれなかった50代の女性ですが、仕事内容や生活全般への満足度は男性に比べて高いことや、過去に子育てとの両立で苦労をしていた女性であっても、その多くが子育てを終えた今、仕事に対する高い意欲を持っている特徴を述べました。

これらの特徴からは、画一的なキャリアを想定してきた男性と比べて、子育てなど多様な経験があることが充実感に繋(つな)がっていると感じます。

人生100年時代といわれていますが、例えば、50歳から70歳までの20年の期間を想定したとしても、未経験の分野でも自己実現につなげられる可能性があります。

これからの20年間は、20歳から40歳の20年間の人生経験で培った、理解力・判断力・コミュニケーション力などを糧にしてさらに飛躍することができます。新たな知識の習得に多少の困難さはあるかもしれませんが、それを補ってあまりある多様な経験を活かす意欲があれば、女性の50歳以降の人生はさらに充実すると信じています。

----------

榎本 久代(えのもと・ひさよ)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー
人事・組織コンサルティング業務に従事。国家資格キャリアコンサルタント保有。近年、女性活躍推進をテーマに管理職及び女性社員の意識改革研修等を担当。

----------

----------

小島 明子(こじま・あきこ)
日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
女性の活躍推進に関する調査研究及び環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。主な著書に「女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる」(経営書院)

----------

(日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 榎本 久代、日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください