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医療過誤訴訟の8割は訴えた「患者側が負ける」理由

プレジデントオンライン / 2020年2月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

医療訴訟で原告、つまり患者側が勝訴する割合は、わずか18.5%(※)――そんな厳しい現実をご存じだろうか。「患者が病院に裁判でほとんど勝てない」のには、実はとある理由がある。弁護士で外科医でもある、医療訴訟を専門とする富永愛氏に、医療訴訟の「本当のところ」を聞いた。

■なぜ医療過誤訴訟は「被害者の勝率18%」なのか

1999年の横浜市立大学医学部附属病院で起きた患者取り違え事故などをきっかけに2000年頃から関心が高まり、日本では年々、医療訴訟の件数は増えている印象です。対して医療訴訟を専門に扱える弁護士の数はまだ少なく、私は京都に事務所を構えていますが、関西でも数人、全国を見ても、実は数えるほどしかいません。そのため、私のもとには、ほかの弁護士に「わからない」といわれたケースや医療関係者からの相談が多く集まってきます。

法律相談でお話しして、「勝訴できる」と判断できるのは、だいたい10件あれば1件。残りの2~3件が、「和解」できる可能性のある案件、そして残りは、「残念ですが、証拠が不十分で、訴訟は諦めたほうがよい」と、回答するケースです。

※最高裁判所、平成30年データ。

■証拠が足りない

一般的な民事訴訟であれば、原告側が勝訴する割合は、85%ほど。勝率が高い理由は、そもそも原告側は相手の責任を問えるだけの証拠、根拠がある状態で訴訟を起こすからです。つまり、医療訴訟で患者が勝てないのは「証拠が足りない」ケースが多いことが大きな理由の1つになっています。

医療訴訟での証拠とは、すなわち「カルテ」のことです。カルテについて、「病気のことが書かれているペーパー」と、漠然と理解していらっしゃる方が多いのですが、カルテには診断、治療の詳細だけではなく、診察室で医師と話したことなど細かな情報が書き込まれており、時系列に並べれば、当該の医療行為の全体がはっきりしてきます。近年は電子カルテが普及し、追記や修正の履歴も明確に残っており、データの改ざんも難しくなっています。

最近は患者さんがスマホで録音した医師との会話データを証拠に、というケースも稀にありますが、医療訴訟の証拠として最も重要なのは、まず、「カルテ」と考えていただいていいでしょう。

ですので、訴訟に肝要なのは、カルテを揃え、過誤を立証することですが、一般の方はまず、医療従事者たちのルールで書かれたカルテを読み解けないというハードルがあります。ホームページの相談内容に「医療過誤」と書いている弁護士でも、実際には私のような専門の弁護士に紹介がくる、という場合が少なからずあるのが実情です。

訴えられる側である病院からのカルテ集めも困難であることが多くあります。厚生労働省のスタンスはカルテの開示は患者の権利であって、医療機関はカルテ開示をすべきということが原則になっています。ただ、いまだに地方の小さな病院だと「カルテを出さない」と抵抗するところもありますし、大きな病院であってもカルテを隠すことはなくても、開示料金は各病院任せであるため、紙1枚30円というように高い料金を設定するところも多いです。カルテ開示だけでも数万円程度は覚悟しなければいけません。

さらに問題なのは、病院側がカルテの肝心な部分を一部開示しなかった場合です。原告側がカルテを読み解けなければ、「カルテが揃っていない」ことに気づけないことも多く、ほかの弁護士に相談していたのに十分ではないカルテしかない、というケースがまだまだ多いのが実情です。カルテが揃っても、専門性の高い治療になると、私のような医師であっても自分の診療科以外の分野については自分だけではわからないこともあります。その場合、専門医に協力を仰ぐことになります。そのための専門医の人的ネットワークが必要ですし、カルテの検討だけでも手間も時間もかかります。

通常、医療過誤の訴訟で最高裁まで争うと5年程度、和解でも平均すると2~3年かかります。医療過誤の裁判は通常の裁判よりも長くかかり、根気が必要なことは覚えておいていただければと思います。

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富永 愛(とみなが・あい)
1996年同志社大学工学部卒。99年に司法試験に合格し、2002年に弁護士登録。08年に群馬大学医学部医学科を卒業し、外科医として勤務。16年より富永愛法律事務所の代表を務める。

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(富永 愛 構成=伊藤達也)

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