韓国経済の煽りを受けるユニクロの生存戦略

プレジデントオンライン / 2020年1月23日 17時15分

2019年8月2日に閣議決定された韓国のホワイト国除外に対し、多くの韓国人が日本製品の不買運動に参加。そのあおりを受けて閑散とする韓国・ソウルのユニクロ店内=2019年8月6日 - 写真=EPA/時事通信フォト

■韓国不買運動がユニクロを直撃

日韓関係の悪化が、わが国の一部企業の業績に影響を与えている。

その一つが、“ユニクロ”や“GU”ブランドを展開するファーストリテイリングだ。昨夏、日韓関係の悪化に伴い韓国で日本製品の不買運動が激化した。ユニクロへの来客者数が激減し、売上高・収益が落ち込んだ。そのほか、スポーツ用品やビールなどの分野でも、韓国での収益減少に直面する本邦企業がある。また、韓国からわが国への観光客も減少している。

昨年7月、わが国政府が安全保障の観点から、韓国向けの半導体材料関連部材の輸出管理を厳格化した。反日姿勢をとり続けてきた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、この措置を強硬に批判した。それが韓国の不買運動の激化につながった。

今年1月の決算説明会でファーストリテイリングは、韓国での販売動向に関して「非常に厳しい状況」であり、「総じて大きな変化はない」との見方を示した。ここへ来て、一時期に比べ不買運動の勢いは弱まっているものの、先行きを楽観するのは早計だろう。

文政権が反日政策を続ける間、ファーストリテイリングなど一部企業の韓国での収益は不安定に推移する恐れがある。

■韓国事業を重視してきたファーストリテイリング

ファーストリテイリングは、早くから海外での収益力強化を重視してきた。その目標は、「ZARA(ザラ)」ブランドを展開するスペインのインディテックスやスウェーデンのH&Mなど、世界的なアパレル大手企業との競争に勝ち残るためだ。その中で、ファーストリテイリングは、韓国事業を重視し、育ててきた。それだけに、日韓関係の悪化が同社全体の業績や今後の事業展開などに与える影響は軽視できない。

2001年、ファーストリテイリングは英ロンドンに初めての海外店舗を設けた。それを皮切りに同社は海外戦略の強化に取り組み、2002年には中国に進出した。さらに2005年、同社はアジア地域での収益力を引き上げるために、大手財閥企業であるロッテと組んで韓国に進出した。その後、ファーストリテイリングは、ほぼ一貫して韓国事業を強化してきた。

それは、店舗数の推移から確認できる。2006年8月末の時点で、韓国におけるユニクロの店舗数は10だった。その後、出店と退店を重ねつつ、ユニクロの店舗数は右肩上がりで増加した。2019年末でユニクロの韓国における店舗数は186に達し、中国に次ぐ重要な市場に位置づけられる。また、2018年7月にはソウルに“GU”ブランドの第1号店が開設され、オンラインストアやアプリの提供も開始された。

■文在寅が日本の輸出手続き厳格化を一方的に非難

こうした取り組みが成果を結び、2018年8月期、韓国事業の売り上げは約1400億円に達し、重要な収益獲得の柱に成長した。さらに、2019年8月期のファーストリテイリングの決算では、EC(電子商取引)ビジネスの拡大などに支えられ、海外事業全体の営業利益が国内を上回った。

このような経緯からも、ファーストリテイリングにとって韓国事業は中国事業と並んで海外の収益基盤を強化し、持続的な成長を目指すために欠かせない要素であることがわかるだろう。そのうえで、同社は韓国事業などから得られた経営資源を、ベトナムなどの東南アジアやインドなど長期的な成長が見込まれる市場に再配分し、さらなる成長を目指そうとしてきた。

しかし、昨年7月以降、急速に韓国におけるファーストリテイリングの収益が落ち込んだ。大きな影響を与えたのが、わが国政府が、フッ化水素など半導体材料の輸出手続きに関して韓国を優遇対象国から除外し、輸出管理の手続きを厳格化したことだ。

サムスン電子をはじめ、韓国の半導体産業はわが国が供給する材料や半導体製造装置、さらには人材、資金に依存してきた側面が大きい。加えて、半導体産業は韓国の輸出の20%程度を占める経済の屋台骨だ。文在寅大統領はわが国の輸出手続きの厳格化が自国経済だけでなく世界に負の影響を与えると、一段と強く、かつ一方的に非難しはじめた。

■香港デモも悪影響、大幅な減収減益は避けられない

文政権の主な支持基盤の一つである市民団体などは、わが国への抗議活動を展開した。ユニクロはその標的にされ、店舗から一気に客足が遠のいた。回答者の80%近くが対日不買運動に参加していると回答した世論調査もあるほど、不買運動が盛り上がった時期もあった。日韓関係の悪化が韓国の消費者心理に与えた影響は軽視できない。

ファーストリテイリングは韓国事業の減速を想定し、店舗の在庫圧縮などを進めたとみられる。それでも、不買運動の影響を回避することは難しかった。昨年9~11月期、ユニクロの既存店売上高は急減し、韓国事業は営業赤字に陥った。韓国事業の大幅な収益悪化などを受け、海外事業全体の売上総利益率が低下するなど、ファーストリテイリングにとって日韓関係悪化のインパクトは大きい。

今年1月の決算説明会において、ファーストリテイリングは、韓国では昨年7月の売り上げ動向が継続しており、通期でも大幅な減収減益は避けられないと先行きを厳しく見ている。この影響は大きく、同社は2020年8月期の通期業績予想も下方修正した。まさに同社は日韓関係の悪化とさらなる冷え込みに直撃してしまったといえる。加えて、香港で反政府デモが長期化していることや各国での暖冬なども、同社の収益とその見通しが悪化した要因となっている。

■この強硬姿勢に韓国社会は耐えられるか

当面、ファーストリテイリングの韓国事業は、厳しい状況に直面し続ける可能性がある。昨年の夏場に比べると不買運動の激しさは幾分かトーンダウンしているが、日韓の対話は実質的に進展していないとみられる。先行きは楽観できない。

文政権は、南北の統一と反日を掲げ、何とかして4月の総選挙を乗り切りたい。そのため、一朝一夕に、日韓関係が修復に向かう展開は想定しづらい。足許、韓国の経済は文大統領の経済運営の失敗などの影響から、若年層の失業率が高止まりするなど不安定感が増している。同時に、北朝鮮は文大統領の呼びかけに聞く耳を持とうとしない。文氏が反日姿勢を強調し、支持をつなぎとめようとする可能性は軽視できない。

問題は、文氏の姿勢に、韓国の社会全体が耐えられるか否かだ。韓国の経済界や保守派の政治家を中心に、わが国との関係が冷え込み続け、経済運営に無視できない影響が出るとの危機感は増している。また、文大統領を支持してきた層の中にも、労働争議の激化などから企業の経営が悪化し、さらに雇用環境が悪化することなどへの不安が出つつあるようだ。安全保障面の連携強化などに関して、文政権と米国との関係も冷え込みつつある。

■ユニクロ柳井氏の今後の市場選び商品選びに注目せよ

長い目線で考えると、どこかのタイミングで文大統領は反日姿勢の限界に直面するだろう。相応の時間がかかるだろうが、日韓関係の冷え込みがファーストリテイリングなどの日本企業の業績に与える影響は、徐々に低下していく可能性がある。それまで、ファーストリテイリングはほかの地域で収益を獲得し、韓国事業などの落ち込みを補完しなければならない。

米中の通商交渉の先行きや中東情勢の混迷など、日韓関係以外にもファーストリテイリングを取り巻く不確定要素は増えている。同社に求められることは、商品開発力やリスク管理などの面で実力を発揮し、さらなる成長を実現することだ。そのために経営者の柳井正氏がどの市場で、どのような商品やサービスを提供してさらなるヒットを実現することができるかに注目が集まるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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