イランに完勝「トランプさまのお通りだい」
プレジデントオンライン / 2020年1月31日 17時15分
小林一茶の俳句「雀の子そこのけそこのけお馬が通る」ばりに世界進出を進めるトランプ米大統領。専門家はどう見ているのか──。
■すぐ戦争を煽る日本メディアの危険性
2020年の国際報道は米トランプ大統領によるイスラム革命防衛隊のスレイマニ氏殺害というニュースから始まった。国内主要メディアは海外報道の煽りを受け「第三次世界大戦開始か!」と言わんばかりの過剰報道を垂れ流した。酷いものにはトランプ大統領が気まぐれな思い付きでスレイマニ氏を殺害したとするものまであった。
米国大統領は世界最大の軍事力を持つ国家の最高司令官である。その最高司令官が何の考えもなしに敵対する国家の要人を暗殺するだろうか。大統領の側近たちは思い付きの案を提示するのか。誰でも少し考えればおかしな報道であったことがわかる。戦争を心配するふりをしながら、それを煽り立てるパニック報道の恐ろしさを垣間見た。
現状までのイラン情勢はトランプ政権の思惑通りに推移している。イラン側の米国に対する表立った報復が米軍基地に対するミサイル攻撃のみであり、しかも事前にイラク政府に通知したうえで、米兵の死者が出ないように事実上配慮したものであった。トランプ大統領の完勝であったことは明らかだ。
■米国の大使館や米軍基地に対する攻撃計画を準備していた
トランプ政権が選挙目的でスレイマニ氏の殺害に及んだという主張には部分的に真実もある。ただし、選挙戦におけるマイナスを未然に防止するという意味でだ。共和党は12年にリビアのベンガジ米国大使館襲撃事件でのオバマ政権(特にヒラリー・クリントン国務長官(当時))の対応を批判してきた。今回、スレイマニ氏はイラクにおける代理勢力であるカタイブ・ヒズボラとともに、米国の大使館や米軍基地に対する攻撃計画を準備していたとされている。
実際、イラクの米国大使館の警備はザル状態であり、19年末には大使館周辺まで抗議デモが接近する事件も発生。これはイラクのセキュリティがテロ勢力側と内通している可能性があることを意味しており、仮に大使館等にテロ被害が起きた場合、トランプ政権にとって政治的な致命傷になっていただろう。トランプ大統領の決断は米国民の安全を確保すると同時に大統領選挙の失点を防ぐファインプレーだった。
また、トランプ政権はイランに経済制裁を実行し、新たな条件を含む核合意を求めている。この内容は非常に厳しいものであり、イランが受け入れる可能性は低い。一方、米軍の戦力はオバマ時代の軍事費削減の影響により、世界各地で同時に戦闘を展開できる能力を回復できていない。したがって中国の軍事的脅威が高まる中で米国は中東においてイランと戦争するだけの余力を十分に持ち合わせていない。
そのため、イランには強気の姿勢を取りつつも、イランのテロ支援のための資金源を断ち、現体制が下手を打つことを辛抱強く待つ忍耐強い対応を選択せざるをえない。だからこそ、イランとの全面的な戦争ではなく、イラン側のテロ支援のキーマンをピンポイント爆撃で殺害したのだ。米国がイランとの全面戦争に突入することを望んでいるかのような頓珍漢な報道は的外れだ。
イラン側は外国におけるイランの代理勢力(事実上のテロ活動の実行部隊)を支援する重要人物を失うとともに、今後は代理勢力によるテロ活動であっても、米国はイラン本国が実行したと見なす可能性が増したことで、その活動のハードルは確実に引き上げられた。また、イスラム革命防衛隊による民間航空機撃墜事件は同組織に対する国内外の厳しい世論の反発を生み出すだろう。国民から同組織に対する危機管理能力に疑問符がつけられることで、イランの政治体制自体を揺るがしかねない。トランプ大統領はここぞとばかりにペルシャ語で民間航空機撃墜事件に抗議するイランの人への支持のメッセージを発する試合巧者ぶりを発揮した。
トランプ大統領を「不当に低く評価する」有識者やメディアはいい加減にしたらいい。トランプ大統領は米大統領であり、世界最強の軍事力を有する国の最高司令官。その意味するところを理解する社会常識を持った人が米国情勢を解説・報道するべきだろう。
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早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。米国共和党保守派やトランプ政権と深い関係を有する。
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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉 写真=AFLO)
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