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日本人の花離れに逆張りする「サブスク」の挑戦

プレジデントオンライン / 2020年1月30日 11時15分

専用の箱に入って花が届く(※画像は「体験プラン」のもの) - 画像提供=クランチスタイル

日本人の「花離れ」が進んでいる。この20年で1世帯あたりの切り花の購入金額は3割も減った。どうすれば市場を回復できるのか。街の生花店と組んだ新規事業「花のサブスク(定期便)」の現状を取材した——。

■「切り花」がどんどん売れなくなっている

農林水産省が2019年4月に発表した「花きの現状について」によると、1世帯あたりの切り花の年間購入金額は、1997年の1万3130円から下落を続け、2017年には8757円となった。この20年で3割も減った計算になる。

そんななか、20〜40代の女性を中心に、着実に会員数を伸ばしている花の定期便がある。クランチスタイルが展開するサブスクリプションサービス「ブルーミーライフ」だ。サービスに加入すると、全国に100店舗以上存在する提携先の生花店から季節の花がポストに届く。

コースは3種類。500円で3本以上の花が届く体験プラン、800円で4本以上の花が届くレギュラープラン、1200円で5本以上の花が届くプレミアムプランが用意されている(すべて送料・税別)。ユーザーは「毎週郵送」「隔週郵送」のどちらかを選ぶことができ、さまざまな生花店がセレクトした花束を楽しむことができる。

2017年3月の発表で3000人だった会員数は、2019年12月の発表では2万人を突破した。クランチスタイル広報の冨松愛子氏は、「プロが選んだ花が自宅に届き、そのまま飾るだけで様になるという手軽さが、家事や仕事に忙しい女性たちの心をつかんだのではないか」という。

だが、先述の通り、切り花の購入金額は減少を続けており、花の業界は先が見えない状況にある。そんななか、なぜクランチスタイルは花を扱う事業を立ち上げたのか。武井亮太社長に話を聞いた。

■IT化で業界の縮小を止められるかもしれない

武井社長は、IT企業勤務を経て、2014年9月に同社を起業した。IT企業に勤務していた頃は、将来自分が花に関するサービスを展開するとは夢にも思っていなかったという。花に関心を持ったきっかけは、退職時にもらった花束だった。

「それまでの経験をいかし、起業をするならインターネットなどのオンラインを活用して店舗へ消費者を呼び込むO2Oの事業に取り組みたいと考えていました。そこで、IT化によって変革を起こせそうな業界を探していたところ、花束をもらう機会があり、『花の業界で起業しよう』とひらめいたのです」(武井社長)

もちろん、花の業界が縮小傾向にあることは知っていた。しかし、武井社長はビジネスチャンスを見いだし、あえて飛び込んだ。

「IT化の遅れと業界の縮小は必ずしもイコールだとは言えませんが、影響があると思っています。異業種から参画し、既存の店舗や業者の皆さんと提携してIT化を進められれば、縮小に歯止めをかけられるかもしれない、というのが最初に見えたビジョンでした」(武井社長)

撮影=プレジデントオンライン編集部
クランチスタイルの武井亮太社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■花のロスが多く、収入が不安定な生花店

起業にあたり、さらに業界全体の調査を進めていくと、いくつかの課題が見つかった。まず、花の業界には効率化の余地があるという点だ。

農林水産省の「花きの現状について」に記載されたデータによれば、花の小売価格に占める小売経費は48.1%。花束への加工や商品ロスが多いため、青果物の倍の経費がかかるからだ。

さらに、花は品目や品種が非常に多く、小売構造が零細であることから、ロスを減らすためのデータが共有されていない。売れ行きや花の品質保持期間に関するデータもないため、多くの生花店が手探り状態で自身の経験をもとに店舗を経営しているのが現状だ。

また、街の生花店は商圏が狭い。購入者は近隣住民や店舗付近で働く人のみ。公式サイトを持たず、SNSも活用していない店舗が数多く存在する。どれほど魅力的なアレンジメントができても、認知度が低ければ売り上げを伸ばすのは難しい。

収入面の課題もある。花を使ったギフトが増える母の日や敬老の日、クリスマス送別会シーズンなどは売り上げが伸びる時期だ。しかし、花が弱りやすい夏は収益が伸び悩み、ロスも増えてしまう。月ごとの収入は不安定だ。

これらの課題と向き合うにあたり、武井社長は自ら花を仕入れて売るのではなく、既存の生花店と提携する道を選んだ。業界そのものを壊そうとすればするほど、反発も強くなる。武井社長はIT化によってマイナス面の改善を提案する形で、ともに伸びていくための方法を模索した。

■廃棄する花が減り、安定的な収入が得られる

クランチスタイル創業後、武井社長が最初に手掛けたのはかつて自分が受け取ったギフト用の花束だった。インターネットを通じて生花店にオーダーできるシステムを構築したが、花束の購入者自体が少なく、売り上げは鳴かず飛ばず。予想を大きく下回り、1年半でサービスを終了した。

「花束の購入者に、なぜ買わないのかヒアリング調査を行ったところ、『花そのものの価格が高い』『花のある生活を送っていないためプレゼントの選択肢に入りにくい』という声があがりました。それならば、日常的に花を買う人を増やそうと考え、『ブルーミーライフ』を考案しました。低価格で毎週花が届くというサブスクリプションサービスは、お客さまの声から生まれたのです」(武井社長)

さらにこのサービスは、生花店側の課題解決にもつながっている。提携先の生花店には、毎週1回、その週に花を送るべき顧客のリストが届く。生花店は花束を作り、郵送まで行う。店頭販売と比べると利益率は低いが、次のような3つのメリットがある。

(1)廃棄を減らせる

クランチスタイルから毎週届くリストに合わせて、週に2〜3回の仕入れのタイミングで必要な本数だけ花を入荷できる。リスト到着後にキャンセルが発生することはないため、ブルーミーライフ用に購入した花にはロスがない。

(2)毎月の収入が安定する

サブスクリプションサービスは、顧客が退会するまで続く。そのため季節による変動が少なく、年間を通して安定的な収入が得られる。なお、提携する際の契約料はかからない。

(3)店舗の認知度が上がる

「ブルーミーライフ」の公式インスタグラムのフォロワー数は、約8万5000人以上だ。届いた花束が紹介されることもあり、商圏外の人にも作品を見てもらえるため、マーケティング効果が見込める。また、コメント欄やクランチスタイルからの報告によって顧客の声も届く。

■「花を買う人」が増えなければ業界は潤わない

今後、店舗だけでなく業界全体の課題を解決するために、購入者をさらに増やす必要があると武井社長は語る。

「農家・市場・流通にまで目を向けると、花の業界には多種多様な人材がいます。一時期は、花の生育や仕入れ、営業に関するツールをIT技術によってシステム化する方法を考えていましたが、花を購入する人が増えなければ業界全体は潤わないという結論に達しました。今後はさらに購入者を増やす施策を練っていきたいと考えています」(武井社長)

また、仕入れ事業にも進出する予定だ。目的は、提携する生花店の負荷を少しでも減らすこと。エンドユーザーの声や各店舗での廃棄データをもとに、仕入れの効率化を目指す。

「ブルーミーライフのような時代に合わせた新しいサービスを導入し、業界の伝統を守りながら少しずつ変化していけば、街の生花店は生き残れるのではないかと考えています。私たちにできるのは、提携している生花店がよりよい道を選べるよう選択肢を増やすこと。クランチスタイルならではの方法を模索し、現状のビジネスモデルと共存しながら市場を活性化させていくことが目標です」(武井社長)

写真=iStock.com/mygtree
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mygtree

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華井 由利奈(はない・ゆりな)
ライター
愛知県出身。椙山女学園大学卒業後、印刷会社に就職。デザイン業務を1年間担当した後、コピーライターとしてトヨタ系企業など100社以上の取材を行う。2016年に独立し、2018年に初の自著『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』を光文社より出版。5刷2万7000部を達成した。現在は2作目を執筆しながら、日経doorsなどで、女性活躍、働き方、ライフスタイル情報を中心に執筆。全国各地の中学・高校・大学や教育講座で講演も行っている。

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(ライター 華井 由利奈)

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