フィンランド人が送別会でお酒を飲まないワケ
プレジデントオンライン / 2020年1月29日 11時15分
※本稿は、堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■歓送迎会もコーヒーで、勤務時間内に30分程度
組織が大きくなってしまうと、上司と社員、そして社員同士のコミュニケーションをとるのは難しくなりがちだが、それでも伝統的にフィンランドの組織は一人ひとりを大切にしていると感じる時がある。それは歓迎会やお別れ会、誕生日といった行事を大切にしつつも、プライベートの時間を犠牲にさせない点だ。
コーヒー文化が強く、仕事とプライベートの境界線をきっちりとさせるフィンランドでは、社員の歓迎会やお別れ会も勤務時間内にコーヒーとケーキでする。特にインターンが研修を終える最終日や、同僚が退職する時には、「お別れコーヒー」と言って、会議室やコーヒールームにケーキと飲み物が用意される。代表者によるスピーチがあり、寄せ書きやプレゼントを渡して思い思いに語り合う。時間にして30分程度で、忙しい人は少し寄るぐらいしかできないが職場内で開催されるので、夜にプライベートの時間をとられることもない。
私の職場の場合、インターンは長くて半年、短い時は3カ月で帰国するが、どんなに短くても一緒に働いた仲間として、メッセージを寄せ書きしたカードと記念品を渡し、コーヒーを飲みながら語らう。
■仕事終わりの「飲み会」はほとんどない
他にも新人の歓迎会や、60歳の誕生日を祝う会、子どもが生まれたことを祝うなど、様々な理由でコーヒーの会が開かれることがある。どの程度開催するかは職場やそこで働く人たち、上司の考え方にもよる。その費用は有志から集めるのか、それとも経営陣のポケットマネーか、はたまた会社のお金かもケースバイケースだ。また、時によってはコーヒーだけでなくシャンパンなどのアルコールが出ることもある。
逆に、仕事を終えた後にみんなで飲みに行くというのは、ほとんどない。社員それぞれ、定時以降はいろいろな予定や家族との時間があって、それを邪魔することはあまり良いと思われていない。もちろん気心が知れた同士で仕事の終わりに外食したり、都合を調整して飲みに行ったりすることもあるが、かなり稀(まれ)である。内部のコミュニケーションを活性化させたいのであれば、休憩時間に話をしたり、ランチを共に食べたりするなど、勤務時間内にできるだけ済ませるのがフィンランド流だ。
ちなみに、フィンランドではコーヒーは外部のお客様が来た時にも効果的に使われる。大事なお客様が会議などに来た時は、コーヒー・紅茶の両方を用意し、どちらかを選べるようにしている。さらに、ケーキやサンドイッチなどの軽食が用意されることも多い。そんなちょっとした心遣いが、会議にリラックスした雰囲気をもたらし、文字通りリフレッシュになるのだ。
■朝食をとりながらミーティングすることもある
情報交換やお礼の意味での接待は、夜や週末だけとは限らない。フィンランドでも特に海外からや大切なお客様が来た時など、夜の会食や週末に誘うことはある。ただ、最近はランチミーティングや、朝食を共にするブレックファーストミーティングも非常に盛んだ。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/200/img_2302ebf2b6e341af9ab610b8fc8aff32160439.jpg)
夜だと、どうしても先方も自分もプライベートや家族の時間が犠牲になってしまい、スケジュールの調整が難しかったり、後ろめたい気持ちが残ってしまったりすることもある。だったら、ランチや朝食といったほうが、お互い気兼ねなく声がかけられる。たとえ短い時間でも、顔を合わせて単刀直入に話をすることで、より充実したミーティングや関係作りができたりもする。
以前、日本である記者が夜、取材対象に呼び出されて食事を共にして、セクハラを受けたという世間をにぎわした出来事があった。日本の報道関係の友人に聞くと、お互いもちつもたれつの関係があるので、貴重な情報や面白いネタが得られると思えば、たとえ夜中でも取材対象と会うという話をしていた。
同じく新聞記者や雑誌記者をしているフィンランドの友人たちに聞いてみると、「確かにスクープや独占ネタは興味があるが、就業時間以外に自分のプライベートの時間を犠牲にしてまで、でかけようと思わない。趣味に、家庭に忙しいのだからそんな暇はない」という答えが返ってきた。仕事は仕事、プライベートはプライベートときっちり線を引くところが、フィンランドらしい。
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ライター
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』(集英社新書)など。
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(ライター 堀内 都喜子)
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