「無印のブランド力」が低下したこれだけの理由
プレジデントオンライン / 2020年1月24日 18時15分
■業績不振の良品計画は原点回帰せよ
「無印良品」を運営する良品計画が2020年2月期通期の連結業績予想を下方修正した。背景には、中国経済の減速をはじめとする世界経済の変調など複合的な要因がある。
その中で注目されるのは、同社が国内外において値下げを進めた影響がありそうだ。特に新興国では値下げの影響によって、無印良品の“ブランドイメージ”が毀損(きそん)したと懸念される。ブランドイメージの毀損は、企業にとって死活問題ともいえる重大な問題だ。それと同時に、同社がアジア新興国で大型出店を進めコストが増大していることもある。
国内事業でも、良品計画は客単価の落ち込みに直面している。さらに、EC(電子商取引)サイトである「無印良品ネットストア」が昨年末よりシステムトラブルで再開できなくなり、メンテナンスに想定以上の時間がかかった。信頼できるECシステムは企業が消費者と良好な関係を築き、強化するために欠かせない。
今後、良品計画に求められることは、ブランドイメージの原点を見つめ、その魅力を磨いて高めることだ。そのうえで成長期待の高い新興国において消費者の支持を獲得することができれば、同社が業績を立て直し、さらなる成長を目指すことは可能だろう。
■無印良品がアジア新興国でヒットした理由
良品計画の成長は、無印良品のブランドイメージの育成抜きにして考えられない。まず、無印良品はわが国においてその人の価値観に合った生き方を支える商品を提供することで成長してきた。それが、アジア新興国などでのヒットにつながった。
無印良品とは、大量生産・大量消費とは異なるライフスタイルを提唱し、シンプルな機能やオーガニックコットンなどの素材の風合いなどを、長く味わう楽しみを人々に提供することを目指したブランドといえる。このコンセプトのもと、良品計画は、さまざまなシーンに調和し、長く使い込むことのできる製品を生み出そうとしてきた。
そのために同社は、細かなデザインなどに気を配り、利用者にとって使いやすく、生活になじむ製品の開発を目指し、提供してきた。このコンセプトが消費者の共感を得て、無印良品は安心できるといった印象が醸成された。その結果、無印商品の商品は量販店の品物よりもやや割高だが、使いたいと思う人が増え、良品計画は持続的な成長を遂げてきた。
■「少々値段が張るが量産品よりも使い心地が良い」
海外でも、このブランドイメージは消費者を魅了した。2005年に良品計画は中国に進出した。その際の設定価格は、国内での販売価格よりも高かった。その後、無印良品は日本での生産や規格に基づく安心・信頼できるブランドとして認知され、ヒットした。
また、新興国の消費者にとって無印良品で買い物をすることは、憧れの日本企業の商品を手に入れるという喜び(消費体験)を体現する機会にもなっただろう。その後、徐々に良品計画は価格の改定を進め、新興国の中間層の拡大に沿った売り上げの拡大を目指した。
中国やマレーシアなどアジア新興国在住の知人と話をすると、「少々値段が張るが量産品よりも使い心地が良い」「無印良品で買い物をすると、日々の生活の楽しさや充実感が増す」との印象をよく耳にする。無印良品の商品はかなりの人気を得てきたことがわかる。市場参加者の中には、「無印良品はアジアの有名ブランドに成長したと評価できる」と指摘する者もいる。
■値下げが裏目に出た可能性
ブランドイメージや新興国での消費拡大に支えられ、良品計画は2019年2月期まで4期続けて過去最高益を更新した。しかしこの期、中国の既存店売り上げは前年実績を下回った。その要因の一つとして、新興国の消費者などにとって無印良品のブランドイメージが徐々に変容した可能性は軽視できないだろう。
2018年以降、中国経済の減速は鮮明となった。中国の個人消費が鈍化する中で、良品計画はさらなる値下げを進めた。同社は、新興国にて“無印商品はやや割高なブランド”としてのイメージを払拭し、より身近な日用品としての印象を消費者に与えようとした。
それによって、良品計画は消費意欲を喚起しようとした。さらに、価格の引き下げのために良品計画はわが国でのモノづくりを見直し、アジア新興国など海外での化粧品や衣料ケースなどの生産を進めた。
結果的に、値下げと海外生産は、新興国の消費者にとって無印良品を手に入れることの喜びを低下させてしまった可能性がある。景気減速に伴って消費者が低価格品を需要するなら、良品計画の戦略は効果を発揮し、中国での売り上げも増加したはずだ。
■国内の客単価も下落基調
しかし、実際にはそうならなかった。値下げなどによってブランドイメージが変化し、低価格帯の量産品との差別化が難しくなった可能性は過小評価すべきでないだろう。それに加え販管費の増加から、良品計画の2019年第3四半期の営業利益は前年同期比14.5%減の298億円だった。
国内では値下げの影響から客単価が下落基調にある。国内外において良品計画は人手不足の顕在化による人件費の増加に直面した。新しい基幹システムの構築、海外での出店強化のコストも増えた。
さらに、日韓関係の悪化や香港の情勢不安も重石だ。消費増税対応のための販促費用の増加、システムの不備に伴うサイトの利用停止の影響も重なり、2020年2月期の最終損益予想は下方修正された。先行きを懸念する市場参加者は徐々に増えているようだ。
■良品計画の持つ本当の強み
今後の展開を考えると、良品計画はブランドイメージの原点を見つめなおす必要がある。
良品計画は、わが国の価値観をもとにした相応の価格で人々が安心して買える、あるいは大切にしようと思うモノを提供してきた。そのイメージをもとに、人々に新しい生き方を提唱することが同社の強み(コア・コンピタンス)といえる。良品計画の経営陣が自社の強みをどうとらえ、活かすかが問われている。
近年、“メイド・イン・ジャパン”に対する評価が上昇しつつある。一例が、トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」だ。2019年、中国の新車販売台数は前年から8.2%減少した一方で、レクサスブランドの販売台数は25%増加している。
経済成長に伴い中国の消費者は、より良いモノを欲するようになっている。見方を変えれば、低価格帯のコモディティ化しやすい製品よりも、精巧なモノづくりなどに支えられた品質の高さ、安心感などに価値を見いだす人が増えている。
■“メイド・イン・ジャパン”が大きな武器に
化粧品、日用品などの分野でも、海外での人権費の上昇、品質の維持と向上などを理由に、海外から日本に生産拠点を戻す本邦企業がある。世界の消費者は、わが国の基準に基づいたモノを求めつつあるといえる。より良いモノづくりを通して消費者の満足度を高めるために、“メイド・イン・ジャパン”は大きな武器となる可能性がある。それは無印良品にも当てはまるだろう。
足元、米中の貿易摩擦によるサプライチェーン混乱への対応から、中国から東南アジアに生産拠点を移す企業が増えている。それに伴い、世界経済のダイナミズムは徐々に中国から東南アジア新興国に移りつつある。長期の展開を考えた時、良品計画が東南アジア新興国の需要獲得を目指すことは有効な戦略と考えられる。
同社がその成果を手に入れるためには、重視してきた国内生産などの価値観を再確認し、そのうえで各国のニーズに合わせた商品開発を進め、消費体験の創造が目指されるとよいだろう。その発想を実践できれば、再度、良品計画が海外市場において人気を得ることは可能だと考える。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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