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マンネリ突っ張り棒を売れ筋にした元新聞記者3代目女性社長のアイデア

プレジデントオンライン / 2020年2月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■外部とコラボして新製品を生み出すコツ

本連載では、全国のファミリービジネスで代替わりを機に革新を起こしている「第二創業」企業を題材に、経営学の知見も重ねながら学びを得ていきます。今回のキーワードは「オープンイノベーション」。簡単にいえば、他者(他社)と協力(コラボレーション)して新しい製品・サービスを生み出していくことを指します。以前から新事業開発の手段として欧米では盛んでしたが、近年は、日本でも取り組む企業が多く出てきています。

経営学からみても、オープンイノベーションは重要です。イノベーションの源泉は「既存知と既存知の新しい組み合わせ」。これはイノベーションの父とも呼ばれた経済学者シュンペーターが80年以上も前から主張している法則です。しかし、人は認知に限界があるので目の前のものしか組み合わせられず、やがて知と知の組み合わせは尽きていきます。したがって、自分たちが日頃関わっていない「他者」とコラボすることで、知と知を新しく組み合わせることができるのです。

しかし「他者との協業」が簡単ではないのも事実です。日本では多くの企業が「オープンイノベーションを始めてはみたものの、結果がついてこない」と言われます。大企業がスタートアップ企業と組んでもなかなかうまくいかないのが、典型例でしょう。

■突っ張り棒製造3代目が起こした商品づくりの実験

この課題に示唆を与えるのが、大阪で「第二創業」を果たした平安伸銅工業です。同社の商品はドイツのiFデザインアワード2018やグッドデザイン賞など数々の賞を受賞し、注目を浴びています。

創業は1952年。主な製造商品は「突っ張り棒」です。ピンとこない方もいるかもしれませんが、たとえば洗面所で、左右の壁と壁の間に水平に渡され、そこにタオルや洗濯物をかけたりする、あの棒のことです。以前から、平安伸銅工業は突っ張り棒のトップメーカーではありました。自社ブランドの商品を製造するだけでなく、ホームセンターのOEM生産も手掛けています。しかし、用途が限られ、かつ中国メーカーの台頭や100円ショップの拡大などで、2000年代に入ると業績は頭打ちになっていました。

そんな同社に2010年に入社したのが3代目の竹内香予子社長です。もともと新聞記者として活躍していたのですが、お父さんの発病を機に家業を継ぐことになります。入社した彼女は、堅調に見えた業績が下降線をたどっていることに気づいたといいます。競合が増え、商品がコモデティ化したことが原因でした。

焦った竹内氏は、まずは自社の中で新製品のアイデアを求めます。社員を集め、消費者目線で新製品のアイデアを出してもらおうと、開発会議を開くようになります。しかし、出てくるアイデアは既存商品の延長線上にある改良品ばかり。やがて竹内氏も「改善と革新は違うのだ」ということに気づきます。

「自社のエンジニアが得意なのは、いまある商品を改善してコストを下げること。本当に新しい商品をつくるには、外部のプロの力が必要だと考えました」

そこで竹内氏は「そのプロとはプロダクトデザイナーの人々ではないか」と思い至り、コラボレーションを検討しだします。まさにオープンイノベーションの視点です。

しかし、ここまでなら普通のオープンイノベーションの話と変わりません。ここで竹内氏が興味深いのは、外部のプロダクトデザイナーのコラボ方法に多様性を持たせたことなのです。具体的には、3つのパターンを考え、それぞれを同時並行で3つの新製品開発プロジェクトを行います。それは以下の3つです。

【パターン1】外部のプロダクトデザイナーと直接コラボ。
【パターン2】自社でデザイナーを採用し、内部で開発。
【パターン3】自社メディアの読者からアイデアを募集し、そのアイデアをもとに外部のデザイナーに委託。

■自社にとって最適なコラボ方法は何か

これは非常に興味深いオープンイノベーションのやり方と言えるでしょう。我々は他者と組む際に、1つのコラボ方法に固執しがちです。しかし竹内氏は「自社にとって最適なコラボ方法は何か」を、まず複数試して探ることにしたのです。

結果はどうなったか。まず、パターン3は自社資源を活かせず単価が高くなり、量産に及びませんでした。一方で、パターン1「外部デザイナーとの直接コラボ」は大成功を収めます。そこで誕生したのが、インテリアブランド「DRAW A LINE」でした。

「はじめ外部デザイナーの企画書を見たときは驚きました。色が黒いものや縦に使うなど、これまでに存在した商品に似ていたんです。しかし、デザイナーは突っ張り棒を『便利グッズ』ではなく、日常生活を豊かにする『インテリア商品』なんだと文脈を変える提案をしてきた。そこから、インテリア商材として、カラー展開を工夫し、凹凸のないデザインにして、空間づくりに役立つよう、照明や棚など組み合わせのパーツも増やしていきました」

加えて、パターン2の「社内にデザイナーを迎える」方法も成果をもたらします。竹内氏は結婚を機に仕事をやめていた女性デザイナーを採用。その方を中心に開発が進んだのが、社内で開発した「LABRICO」です。これは、突っ張り棒の特徴を活かしたDIYパーツシリーズで、市販の規格木材と組み合わせ、柱や棚、パーティションなどを自由につくれます。

この平安伸銅工業の事例は、「オープンイノベーションでは、自社に最適なやり方を試す必要がある」という示唆をもたらしてくれます。オープンイノベーションは協業先を見つけて終わりではありません。進め方に多様性を持たせ、最適な方法を見つけることが重要だと、新時代の「第二創業」リーダー竹内氏は教えてくれるのです。

▼今回のお手本
【平安伸銅工業】
1952年創業。ホームセンター、スーパーマーケット向けの収納用品を開発製造するほか、インテリア用品ブランド、賃貸住宅向けのDIYパーツシリーズを展開。「つっぱり棒研究所」などのウェブ媒体も運営中。
●本社所在地:大阪府大阪市西区江戸堀1丁目22-17
●売上高:30億9249万円(2019年6月期)
●従業員数:60名(2019年12月現在)

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入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』など。入山先生出演中「浜松町Innovation Culture Cafe」●文化放送(FM91.6/AM1134/radiko.jp)●毎週火曜日 19:00~21:00生放送。毎回多彩なジャンルの専門家などを招き、社会課題や未来予想図をテーマにイノベーションのヒントを探っていく。

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(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山 章栄 構成=西川敦子)

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