FPが教える"子供の教育費"正しいかけ方とは
プレジデントオンライン / 2020年1月29日 6時15分
■大学の授業料は年々増加
人生の3大資金というと、教育資金、住宅資金、老後資金の3つをいいます。今回は、中でも教育資金についてご一緒に考えてみたいと思います。果たして、教育費はかかるものなのか、あるいは、かけるものなのか――。
日本はすでに人口減少社会に突入していますが、子供の人数でいうと、全体よりも早いペースで減少が進んでいます(図表1)。一方で、教育費全体はどうかというと、子供の人数減少ほどには減少していないようです。
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例えば、教育産業をみてみると、少し短い期間のデータですが2015~2019年度の「学習塾・予備校市場規模推移」(出典:矢野経済研究所「教育産業市場に関する調査を実施(2019年)」)をみると、その市場規模は緩やかに拡大し続けています(図表2)。さらに、文部科学省「子供の学習費調査」の推移をみると、幼・小・中・高(それぞれ公立・私立)によってまちまちなものの、全体的な推移をざっくり捉えると、私立を中心に費用の増加傾向がみられます。ちなみに、大学の授業料も増加傾向です(図表3)。
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※矢野経済研究所調べ
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デフレの日本において、家計の負担感が増している費目の一つが教育費といえそうです。
■教育は生涯賃金に影響する
この背景を考えると、大卒か否かによって生涯賃金に大きな差があることが挙げられるでしょう。実際、家計相談の現場でも、「せめて大学までは行かせたい」とおっしゃる親御さんが非常に多いです。生涯賃金のデータはいろいろありますが、高卒と大卒で数千万円におよぶ開きがあるとされます。子供の将来を心配する親なら、教育に熱心になることは無理もありません。この点でいうと、教育費は「かかる」というより、教育費を「かける」といえるかもしれません。
ところがその一方で、さまざまなアンケート結果で「理想の子供の数を持たない理由」のトップ1に挙げられるのが、子供を育てるのに高額の教育費がかかるといった経済的な理由です。何だか少し皮肉な気もします。
■教育費は、かけたほうがいいのか
では、教育費はかけた方がいいのでしょうか?
教育費をかけて立派な大学を卒業しても、罪を犯して逮捕される政治家や官僚は後を絶ちません。教育費をかけなくても芸能界や経営者として成功する人も多くいます。もちろん優秀な学歴ですばらしい方もいらっしゃるし、学歴がなく犯罪に手を染める人も多くいるでしょう。
いささか極端な例を出してしまいましたが、何が言いたいかというと、学歴よりも大事なのは、人としての“人間力”みたいなものではないかと素朴に思うのです。
中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)によると、米国で1960年代から非常に長く続く研究から、学力もさることながら、それ以上に人の学歴・年収・雇用などの面で大きくプラスに影響しているのは、「非認知能力」なのだそうです。
非認知能力とは、「忍耐力がある」とか、「社会性がある」とか、「意欲的である」といった人間の気質や性格的な特徴のようなものを指します。さらに著書では、非認知能力で重要とされるのが「自制心」と「やり抜く力」の2つであると書かれています。
確かに、社会に出れば、いろいろなことに遭遇しますから、授業で習ったことだけで事足りるわけではなく、その場でどう考えるかとか、周りの人たちとどううまく付き合っていくかとか、ときには耐えないといけない場面もあるかもしれません。そうしたときに、折れない心のような柔軟性や強い意志みたいなものが、その人の人生に大きく影響を与えるのでしょう。感覚的にも納得できる結果ではないでしょうか。
■「ウチにはお金がない」と伝えてもいい
教育費はかけたほうがいいのかという問いに戻ると、少なくとも「お隣もかけているからウチも」ということはなくていいのではないかと思います。それぞれの家計に合った負担でいいでしょうし、子供が何かを「やりたい」と言った時、お金がなければ「うちにはその余裕はないの。ごめんね」と言ってもいい気がします。親がムリをして親の家計が崩れてしまったら、結局そのしわ寄せは子供にいきかねません。親がニコニコできなければ、子供は不安になって、かえって逆効果ではないでしょうか。夫婦喧嘩をしようものなら、なおさらです。
それでも本当に子供がやりたいと思えば、子供なりに考えて、何か道を探すかもしれません。
■大事なのは教育費の「かけ方」
私自身はお金のない母子家庭で育ち、「やりたい」ことはあまりやらせてもらえませんでした。小さい頃から塾には行ったことがありません。奨学金を借りて大学を出て、卒業後には奨学金を返還しつつ、授業料は親に返しましたので、親の私の教育費負担はほとんどゼロです。
“あぁもっと小さい頃にいろんな経験ができていたら、もっと違った人生だったのではないか……”と思ったことも何度もありました。が、おかげさまで経済的には自立していますし、周りの方々のおかげもあって、今の環境にとても満足しています。なので、「これでいい」と思っています。おそらく精神的にも強くなっていると思いますし、多少のことではへこたれないと思います。
何を良しとするかは人それぞれなので、私の例がオススメというわけでは決してありませんが、教育費をかけるという通り一辺倒ではなく、自分の家計に合った教育費のかけ方というのを、それぞれの家計が、当の子供も含めて作り上げていくといいのではないかなと思います。知識はないよりもあった方がいいでしょうから、教育費を多くかけるなというのでもなく、大事なのは「かけ方」なのだと思います。
■まず、何を学びたいかを考える
時代はそれを少し後押ししてくれています。
例えば、政府の対応です。少子化が社会問題化し、教育費の家計負担の多さから、教育費無償化の方向に政府は舵を切っています。給付型奨学金が創設されたり、19年10月からは幼児教育の無償化が始まりました。また、20年4月からは所得制限はあるものの高等教育の無償化も始まります。
こうした政策はまだ課題はあるものの、情報としては収集しておきたいところです。
さらに思い切っていえば、いまの時代はネットを使えば、安価で学べるツールもたくさんあります。いかにお金をかけるかではなく、何を学びたいか、身に付けたいのか、それにはどんな方法・手段があるのか、といった順で考えて、本当にやりたいことに大切なお金を投じてみてはいかがでしょうか。
より多くの方が安心して子育てできる社会になればいいなと思います。
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家計コンサルタント
1973年、埼玉県生まれ。生活マネー相談室代表。「家計の見直し相談センター」を経て2013年7月独立。個人相談を中心に執筆、講演を行う。著書に『お金の不安に答える本 女子用』など。
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(家計コンサルタント 八ツ井 慶子 写真=iStock.com)
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