1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「知っていると評価が上がる」経営学を理解できない人のための3分講座

プレジデントオンライン / 2020年2月23日 11時15分

キャリアを考え、学びを深めようとする者たちがビジネススクールへ通う。(Imaginechina/時事通信フォト=写真)

■経営学の知見を現場で生かす

ビジネスの企画や管理に役立ちそうだけれど、どこから手をつけていいかわからないのが「経営学」という学問の特徴でしょう。ビジネススクールに通ってMBA(経営学修士)を修得した人でさえ、学んだことをうまく使いこなせていない、と感じることも多いと聞きます。

なぜそのようなことが起こるのでしょうか。それは、経営学がカバーする領域があまりにも広いからです。経営学には、主に次のような6つの専門分野があります。

①経営戦略:企業としてどういう存在になりたいのか、どの戦場で戦うのかを定め、そこで何をウリにするのか、競合とどう戦うのか、どう取り込むのか(M&A)を立案すること。

②マーケティング:各事業で市場や顧客・競合を分析することで、誰に対してどんな価値を売り込むのか、それをどうやったら実現できるのかを4つの対顧客行動(4P:商品、価格、販促、販路)を組み合わせて立案すること。

③アカウンティング:特定の期間中、その企業・事業が儲かったのか否か、資金繰りはどうなっているのかを把握すること(財務会計)と、それらの状況・要因分析を行うこと(管理会計)。

④ファイナンス:株式や債券発行、銀行借り入れ、自己資金など多岐にわたる資金調達方法を最適化し、かつ各事業に配分すること。

⑤人・組織論:企業とは人の集まりであり、どんな塊に分かれて、どんな役割を果たし、どんな責任権限を持つのかを決めること(組織論)。そしてそこに集う人々を採用、教育、評価し、モチベイトし続けること(人事論・リーダーシップ論)。

⑥オペレーション:商品・サービスの提供のために必要な機器やプロセス、仕組みを立案すること。

経営学とはひとつの学問ではなく、これら多岐にわたる研究分野の集合体なのです。このほかに経済学や、最近ではITやAIなどが含まれる場合もあります。それら一つひとつをしっかり習得しようとすれば、膨大な時間が必要になります。たとえビジネススクールに1年や2年通ったとしても、学べるのはほんのさわりの部分だけ。そのため、学び方が広く浅くなってしまい、学んだツールや手法を仕事でなかなか使いこなせない、あるいは誤用してしまうのです。

こうした状況を打開するために、経営学の「学び方」を変えていく必要があります。ポイントは2つです。

■事業レベルか? 全社レベルか?

経営学を学ぶ理由としてよく挙げられるのが「経営者の視点を持つ」ことですが、その経営視点には2つのレベルがあります。事業レベルと全社レベルです。事業部長やベンチャーのように1つの事業だけを担うレベルと、本社機能の中で複数事業を束ねるレベルでは、当然求められる業務やスキルは異なります。

ところが、経営学の各専門分野で教えている内容は、この2つのレベルが混在しています。例えば、ファイナンスは全社での資金調達や管理に関する内容なので、ほとんどが全社レベルの話。一方、マーケティングやオペレーションはほぼ事業レベルの話です。その他の専門分野も2つのレベルがまざっているため、学習者は混乱します。

そこでまずは、経営学の内容をこの2つのレベルごとに分類する。そうすれば、学ぶ目的に応じて項目を絞り込むことができます。日本人の場合は事業レベルの経営スキルを求めて経営学を学ぶ人が多いので、まずは事業レベルの項目だけを学べばいいのです。

■学ぶ内容をビジネスの視点で再構成すること

経営学を学びやすくするもう1つのポイントは、学ぶ内容をビジネスの視点で再構成することです。経営学は専門分野の集合体なので、ふつうは専門分野ごとに教えられています。しかし、それぞれの分野は他の分野のことをあまり気にしていないため、各分野の関連性がわかりにくく、内容の重複やズレも多くなります。ゆえに実際にビジネスで使うときには、各自が学んだことをつなぎ合わせなくてはなりません。

そこで、経営学の各専門分野をビジネスの視点から横断的に再構成します。その際使うのが、ビジネスを単純化するためのフレームワーク、「ビジネスモデル」の視点です。ビジネスモデルとは複雑な現実のビジネスをシンプルに記述するための方法であり、さまざまな手法がありますが、できる限り単純化すると、次の4つの要素になります。

①ターゲット(狙うべき相手):事業には必ずその商品やサービスの利用者や対価の支払者がいて、それらが事業のターゲット(標的)となります。実際には直接の顧客だけでなく、事業成立に寄与する主要な者(ステークホルダー)すべてがターゲットとなります。

②バリュー(ターゲットに提供する価値):なぜその商品が使われ、対価を支払ってもらえるかといえば、それは価値があるからです。企業向けはわりと明確で、スペック(性能)、品質、価格、納期、サービス(QCDS)などで測れます。消費者向けはブランドや「うれしい」「楽しい」といった感覚など、さまざまです。

③ケイパビリティ(バリューをターゲットにどう提供するか):商品を開発したら営業・販促をかけて受注し、部材を調達、生産・配送して、最後は集金、アフターサービスまで行わなくてはなりません。その範囲は、研究開発からマーケティング・営業・サービス、調達・生産・物流、会計財務、人事組織経営など多岐にわたります。またリソースとオペレーションに分かれます。

④収益モデル(対価とコストは見合っているか):①②③が揃っても、コスト以上の対価を得られなければ、事業は永続的には回りません。その算段が収益モデルです。お金は使用者だけが払うとは限りません。広告主から得る「広告モデル」などもあります。

大雑把にいえば事業レベルの経営学とは、①ターゲットや②バリューを定めるために経営戦略論とマーケティング論を学び、③ケイパビリティの設計とその実現のために人・組織論とオペレーション論を学び、④収益モデルをつくり上げていくためにアカウンティング論をさらに学ぶことなのです。

■個人レベルでも使えるフレームワーク

このように実際のビジネスと経営学の各専門分野を紐付けることで、個々人の目的に即した学びが実現します。

誰に対して、どんな価値を、どうやって提供するのか、そして採算はどう取るのか。ビジネスはこの4要素で成り立つというフレームワークを把握しておけば、自社や他社のビジネスがどのように成立しているのかを理解し、またどこに課題があるのかを調べることができるようになります。

日本には経営学に関する教育や書籍がたくさんあるのに、現実の組織でその知識があまり活かされていないのは、内容が複雑で難しいために、人にうまく伝えられず互いにコミュニケーションできないからです。しかし、まずはこの4要素さえ押さえておけば、人にも伝えやすいですし、新入社員でも経営の視点を持つことができます。社内で議論する際にも「ターゲットはどうなっているのか」「顧客に何か不満があるなら、バリューを上げるために何をすればいいだろうか」「そのバリューを提供するために、ケイパビリティをどう改善していこうか」といったように、共通言語として活用できます。

さらにこのフレームワークは、個人レベルでも使えます。自分自身は一体、組織や社会の中で、誰をターゲットに、どんなバリューを提供しているのか、そのためにどんなケイパビリティを構築すべきなのか、といった具合に自分自身を“経営する”ことにも役立つでしょう。日本人の「経営力」が上がることを願っています。

----------

三谷 宏治(みたに・こうじ)
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
東京大学理学部卒業。BCG、アクセンチュアを経て現職。INSEAD MBA修了。早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授。著書に『新しい経営学』『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『戦略子育て』『お手伝い至上主義!』など。

----------

(KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授 三谷 宏治 構成=増田忠英 写真=Imaginechina/時事通信フォト)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください